「りりかさんは、乾燥肌だよね」
あたしの、荒れた手を握りながら言う。
仕事で水を使うから、冬場はどうしても手が荒れちゃう。
あたしは、恥ずかしくて、手を隠そうとする。
あいつの手は、男の人なのに綺麗で。
指も長くて、爪も綺麗で。
羨ましいなぁっていつも思う。
仕事柄、マニキュアもつけられないし、あたしは自分の手が嫌い。
「手を握るの嫌?」
「嫌なはず無いじゃんー」
笑って隠そうとするあたしの手を、引っ張る。
あたしは、また隠す。
「でも、あたしは嫌い。手って、年齢出るよねぇ」
「また、そういう事言うー」
「だって、そう思うんだもん・・・」
「気にしないでいいよ!」
「うん・・・」
そんな話を、ちょっと前にしてて。
あいつが、ドラックストアの袋持って来た。
中には手荒れクリームばっかり5つ・・・。
「なにこれ?」
「りりかさんが、気にするからだよ」
「あたしも持ってるよー。しかも、こんなにいっぱい・・・何年分?使いきれないでしょ・・・」
「俺が塗ってあげるから、いつでも!」
あたしが笑ってると。
「だって、手もつながせてくれないじゃん!勝手に気にしちゃって。だから、俺が塗って、せめてそう言うときに触らせて・・・って、俺変態?」
「充分ね!」
自分で塗れるからいいよ、って断っても、塗りたいの!って、手を引っ張る。
「なら肩もみもしてよ」とか調子に乗って頼んじゃう。
肩もみされて、うとうとしてると背中をとんとんされる。
「寝ていいよ、寝るまでこうしてるから」
たぶんね。
君の愛し方はとてもストレートで。
そして、それって、凄い事で。
もっともっと、ストレートに出した分、お返しに愛情をいっぱいくれる人とかが・・・。
荒れた手みたいに、あたしの心も最近、荒れてます。
10月18日の日記に書いた、ラブホテルの続き。
もう12月にはいるんですが。(実際かいている今日は12月入っちゃってます)
「あのラブホの話し、どうなったの?」と、お友達からメールを頂いたので、書かせてもらいます。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
あたしたちは、一緒にお風呂に入る事が目的で、ホテルに向かった。
どこのホテルに行く、とか決まってなかったから、適当に走って決めよう、と言う話しになって。
左側にあった5件目のホテル。
と、あいつが言って。
5件目のホテルは、まぁまぁ綺麗で。
て言うか、5件探すまでに、かなり遠い所まで来ちゃって。
「俺、二年ぶりくらいだよー」
っていうあいつに、あたしは、
「あたしなんかライラがうまれてから来てないし、かなり昔」
って言った。
なんか、ロビーみたいなところで部屋とか選んでいるときって、妙に緊張するって言うか恥ずかしいって言うか。
「何でもいいから、早くして」
と、あたしは急かしたりして。
「ちょっと待ってよ、お風呂がメインなんだから、大きくていいお風呂がいいよ」
とか余裕で選んでいるあいつ。
パネルに部屋の写真とお風呂の写真がついてて、じっくり見てる・・・
あたしはもう誰か来たら恥ずかしくて、倒れちゃうんじゃないかって位に、どきどきして。
やっと決めて、パネルのボタンを押すと、カードが出てきて。
そのカードがカギらしい。
あたしが最後に行ったのは、たぶんフロントの人にカギをもらって入るタイプだったような・・・
今はフロントの人と顔を合わせなくても済むらしい。
それは、凄くいいと思う!
部屋について、なんか妙に気恥ずかしくて。
あたしは黙り込む。
あいつは普通にテレビとかつけてて。
てか、いきなりエッチビデオが流れて!
あたしは「消しなさい!!!!」って怒鳴った。
タバコを吸っているあいつを、あたしはじっと見てて。
なんか、勢いで来ちゃったけど・・・とか、考えてて。
やっぱり、一緒にお風呂に入る、なんて、ものすごく恥ずかしいし、無理だなって思い始めてた。
「りりかさんが先に入って、呼んでくれるんでしょ?」
あたしは、黙ったまま。
すごく、構えてたと思う。
それを、察したんだと思う。
「いや?」
うん、とは、言えない。
ここまで来ちゃって、うん、なんて言えない、ってあたしは思った。
「入ってくるよ・・・」
半ば諦めて、あたしは先にお風呂に入る。
溜まるまで、体とか洗ったりして。
ため息つきまくって、お風呂に入るなんて、変なの。
とか、自分に突っ込む。
子供じゃないだから、腹をくくりなよ、とか言うあたしもいたりする。
お風呂に溜まるまで、かなり時間が掛かって。
あたしは、湯船につかりながら、溜まるのを見てた。
もう、そろそろいいかな、と思って、大きな声で「入っていいよー」って呼んだ。
かなり、気合入れて。
少しして、あいつが来たな。と思ったら、電気が消えて。
真っ暗になって、あいつが入ってきた。
お風呂の天井に蛍光色の星のシールがたくさん貼ってあって。
プラネタリウムみたいになってて。
いきなり電気消したから、それが凄く浮き上がってきているみたいな感じで。
綺麗だった。
でも、周りは余り見えなくて。
「真っ暗でいいの?」
あたしが聞いた。
「りりかさんこそ、真っ暗じゃなきゃ、いやでしょ?」
逆に聞かれる。
見透かされてたんだなぁと思う。
「きっと嫌なんだろうなぁって思って、最初から電気は消すつもりでした。でも、こんな風にプラネタリウムぽくなるとは予想外だねー」
だんだん視界が慣れて来て。
あいつは、あたしを抱き寄せる。
「こう言うのも、新鮮じゃん?」
笑いながら、言う。
一応、一緒にお風呂、には入った。
でも、ほんと、それだけ。
エッチもしないで、あたしたちは帰ってきた。
あいつはそれで大満足に見えた。
分からないけど。
でも、あたしは大満足だった。
あたしが嫌がる事とか。
あたしが出来ない事とか。
絶対に無理強いしない。
そう言うの、見て取れる時。
あたしは、凄く愛されているなぁと、感じてしまう。
朝から晩まで、ずっと仕事。
ぐったりして帰ったら、ドアノブに袋が掛かってた。
あいつからりんごと手紙だった。
「お疲れさまです。実家から送られてきたので、持って来ました。俺もこれからバイト、行ってきます」
それだけのために、わざわざ遠回りして来てくれたんだなぁって思って。
すごく、嬉しくなった。
りんごを剥いて、食べた。
甘くて、おいしかった。
食べながら、手紙を書いた。
いっぱい、ありがとうと。
疲れてても、君はいつも癒してくれるね、って事と。
もうすぐ。
あの、お台場から、一年たつね。って事。
そう。
もうすぐ、1年たつ。
あたしたちが、二人で出かけた、初めて出かけた、あの日から。
まだまだ、二人とも妙に堅くなって(あたしだけか?)。
会話も弾まなくて。
でも、観覧車から見た夜景は綺麗で。
気がついたら、もう1年がたとうとしてて。
あたしたちは、今も一緒にいる。
1年前の、あの日。
こんな風に、一年後に一緒にいるなんて、誰が想像したんだろう。
そして、あたしが離婚して。
子供と離れて暮らして。
子供と会えなくなってしまっているなんて。
一体、誰が、想像したんだろう。
疲れた体に鞭打って。
寒い中、ポストに手紙を出しに行く。
小雨が降っている、真夜中に。
あたしの体に、妊娠線がある。
妊娠線っていうのは、子供産んだときに急激に太ったせいで出来る、肉離れの後みたいなもので。
あたしは、昔から痩せていて、長女を妊娠したとき一気に20キロ近く太った。
で、胸とおなかと太ももに、妊娠線が出来た。
胸と太ももは、凄く薄くて、気にしなきゃ分からない程度なんだけど。
お腹のは、結構目立つ。
だから、あたしはエッチするときも絶対に明るくしないし、お風呂も嫌だって言う。
理由なんかいわなかった。
「恥ずかしいから嫌なの」
て、ずっと言ってきた。
ある日、「どうしてもだめ?どうしても一緒にお風呂に入らない?」て、しつこく聞かれた。
「どうしても嫌」
「なんでー?」
「恥ずかしいからだよ」
「何が恥ずかしいの?胸が無い事?気にして無いよ」
「それもあるけど・・・」
あたしは、かなり一大決心で。
「妊娠線があるの」と言った。
「妊娠線?」
「妊娠すると、急激に太るでしょ?それでね・・・」と、あたしは説明した。
「見たい」
「嫌だって!」
「どうしてー?」
「何でも」
「じゃ、触らせて!」
「はぁ?」
「今まで、お腹なんか触ってたけど、全く知らなかったし。どこにあるの?」
触るだけなら、いっか、と思って。
あたしは、「この辺」ってあいつの手を自分のお腹にあてた。
「なんとなくある、これかなぁ?」
「たぶん、それだよ」
あいつはずっとなでてたけど。
なんとなく、妊娠線を触られている自分って言うのが、バカっぽく感じて。
「はい、おしまい。これが理由。分かった?」
って、あいつの手を押し戻した。
「気にする事、ないのに・・・」
て、ぶつぶつ言われたけど。
最近、よく思う。
あたしは、愛されている。
そんなのは、前から分かってる。
そうじゃなくて。
最近よく思うのは。
あたしは、やっぱりもうすぐ三十路の体だって事。
どんなに見た目が若いって言われても。
やっぱり加齢は避けられないから。
肌だって、くすんでいる気もするし。
不規則な仕事のせいで、表情は疲れているし。
肩は凝るし、腰は痛いし。
生理が来ないせいで、肌荒れもしているし。
あいつとの年齢差は5つ。
これって、あたしにとってはものすごくでかい。
で、最近よく思う事。
あいつの友達の彼女とか、学校の子とか、周りにはいっぱい若い子がいて。
今は、「りりかさんは平気。28歳には見えないし、大体年なんか関係ないよ」って言うけど。
いつか、あいつの友達の彼女とかが若くて、綺麗で。
そういう子たちと比べられたりしないかなぁ。って。
もちろん、見た目だけじゃない。
分かってる。
けど、「いいよなぁ、お前の彼女は若くてー。俺の彼女?30歳超えたよー」なんて、言われたりしたら。
あまり、深く考えても仕方ないのにね。
年齢差だけは、どうしたって埋まらないんだし。
なんだろ。
あたしが離婚した事によって、余裕がなくなったのかな?と思ったりする。
こんな風に考えた事、無かったから。
「どうして、ずっと会えなかったの?」
会って、いきなり聞かれた。
あたしが、どこかドライブに行きたいって言ったから、車の中。
車の中だったら、暗いからあざも見えないかなって思って。
「いろいろ、忙しかったんだよ」
「でも、前なら、そういう忙しい中縫ってでも、会ってくれたよね?昨日も、実家に行かなかったんだったら、会えたよね?」
「でも、今日朝早かったし」
あたしは、前を向いたまま、あいつの方を向かないまま、「ごめんね」って言った。
「俺ね、仕事、決まりそうなんだよ」
「え???」
「仕事。決まりそうなの」
「マジで?何でもっと早く言ってくれないのよ???」
「こんなこと、メールで言えって言うの?」
「・・・ですね。ごめん」
お父さんのお友達の会社らしい。
「コネだけどね」
あいつは、ぶっきらぼうに言ったけど。
あいつは、情けなさそうに言ったけど。
あたしは、ものすごく嬉しかったから。
「よかったね!!うん、よかったよ!!」
一人で大興奮。
「給料だってそんなによくないし、ちょっと遠いけどね」
「うんうん、仕方ないよ、不景気だもん。あたしは、嬉しいよ。ホントに。お父さんに恥をかかせないように、頑張って働かなきゃね」
「分かってるよ。母親と一緒の事言うんだもんなぁ」
あたしは、笑った。
久しぶりに、笑った。
周りにね。
きっと、言われると思う。
親のコネかよ?とか、お前の実力じゃないじゃん、とか。
実際、そうだけどね。
でも、入ってから、格段に出来る人間になればいい。
面接受けだけよくて、入ってくる社員っているけど。
入ってきたら、使えないって言うのが、多かったりする。
君は、そう言う風にならないように、願ってます。
「君は、頑張れば出来るって、信じてるよ」
あたしが、そう言ったら、「それはばあちゃんに言われたよ・・・」って、言ってた。
とにかく。
最近の暗いあたしの表情が、ちょっと和らいだ、ニュースだった。
ずっと、更新で来ませんでした。
気がついたら、もう12月も1週間たちます。
自分で生計を立てる・・・って事が、こんなに大変だったんだなぁって、今更ながら、思っています。
どんなに具合が悪くても、どんなに疲れていても、何があっても、食べて行くために働かなきゃならない。
それは当たり前の事なんだけど。
今までは、だんな様が働いてくれているから、あたしは家事だけしていればよくて。
そんなこんなで、働いて帰って寝る、の繰り返しばかりでした。
日記は、一日で起こった事を、ほんの数行でも、メモ帳に書いてはいたんですけど・・・
なかなか、それをアップする時間がありませんでした。
そんな、更新を怠っている間でも、読んでくれている人がいて、メールくれる人がいて、本当に嬉しかったです。
本当にありがとうございました。
本来、この11月25日に書くはずだった内容の日記は、明日の日付(11月26日)で書きます。
12月6日 りりか
お友達のMさんと、買い物に出かけた。
ランチしてから、買い物して、またお茶して。
「たまには、女同士でゆっくり買い物も、いいよね」
って、言われる。
昨日、あいつには、電話して。
日曜日は会えない。って言った。
もちろん、「なんでー?」って聞かれたけど。
Mさんと買い物に行くから。って言ったら、「そっか、わかった」って。
買い物中、メールが来た。
「Mさんは、夕方帰るでしょ?その後会えないかな?」
「今夜、あたし実家行くんだよ」
実家に行くって言うのは嘘。
あざは、化粧してれば、ほとんど、分からない位になって。
だけど、万一の事を考えて、会うのは控えておいた。
「でも、実家から電話するね」
「待ってます♪」
すごく、心苦しいけど。
あたしも、すごく、会いたいけど。
夜、電話する。
「今日は何やってたの?」
「レポート書いてた。明日提出なんだよ」
「あー、学生っぽい!」
「ぽい、じゃなくて、学生なの!」
あとは、だらだら仕事の話とかして。
「あ、明日も早いんだー。そろそろ寝るね」
この一言が、問題になった。
「そろそろ寝る?」
「うん、明日早いんだよ」
「じゃなくて。何?実家でしょ?」
こう言われて、しまった。と思った。
「今家なの?」
いきなり言われて、頭の回転も回らない。
どうしよ、どうしよ、と悩んでしまう。
「りりかさん?」
「うん・・・今、家」
「実家に行くから、会えないとか言ってたじゃん」
「うん、行かなかったの・・・」
「なら、会えたんだ?」
「いや、うん、あー。そうだね・・・」
「会いたくなかったの?」
「そうじゃない!」
黙り込む、あたしたち。
本当の事を言ったら、どんなにすっきりするか。
でも、言ったあとの事を考えたら、絶対に言えないし。
「でもさ、レポートだったんだし、結果オーライじゃない?」
「そんなの関係ない。なんで、行かなかったのに、会ってくれなかったの?」
「ごめん、いろいろ片付けとかしてたから・・・」
もう、訳の分からない受け答えになってた。
あいつがため息をつく。
あたしは、黙り込む。
「最近、変だよ、りりかさん」
「・・・そう?」
「変だよ・・・」
「変じゃないよ・・・」
「いつ、会えるの?」
「うーん・・・。はっきりとは分からない」
「明日は夕方に上がる日だよね?明日の夜は?」
火曜は早いから・・・という言葉、殺した。
あたしが黙ってたら。
「明日、ちょっとでもいいから。顔見ながら、話したいんだよ」
あたしは、しばらく黙り込んでて。
「無理かな?」
いつになく、低い声のあいつの問いに。
「わかった」
って、答えるしかなくて。
明日は、今日よりも、もっともっとあざが薄くなっていますように。
そう願った。
帰りが真夜中になる日。
寒くて寒くて、マフラーをぐるぐるにまいて。
誰もいない、冷たい空気の部屋に帰る。
「お帰り」
って、走ってくるライラもいない。
「外寒い?」
って、聞いてくる長女、次女もいない。
エアコンを付ける。
暖かくなるまでに時間が掛かる。
その間に、あたしはシャワーに入る。
「ママ、お風呂入ってるんだ!!ライラもー」
あわててパンツ脱いで入ってこようとするライラは、もちろんいなくて。
誰もいない、あたしだけの生活に。
慣れなきゃいけないのに。
まだまだ、あたしは寂しくて寂しくて、仕方なくなる。
それは、自業自得なのに。
腫れはほとんどなくなって。
あざは薄い青に変わってて。
でも、化粧してもやっぱり目立つ。
今日もあたしは、厨房のお仕事。
こんな顔じゃ、接客は無理だからね・・・
普通に仕事こなしてて。
休憩に入ったとき、仲よしのMさんが入ってきた。
ちょっと、あわて気味に。
「どうした???なんかあった???」
「りりか、H君、来てるよ!」
あたしは、呆然とする。
別にあいつが店に来る事は、何度かあったし、そんなに珍しいことじゃないけど。
でも、今回は会えないよ・・・
「あたし、いないって事にしてよ・・・」
「もう、他の子が休憩中って言っちゃったよ・・・どうする??」
「どうしよう・・・」
のろのろしてたら、メールが来た。
「ゆっくり食ってますから、休憩終わったら顔出してくださいね。もー、しばらく会ってないから、会いたくなっちゃって・・・」
笑顔の絵文字と一緒に。
あたしは、うろたえて。
携帯片手に、歩き回って。
「ねー、どうしよう・・・」
弱弱しく、彼女に聞く。
「・・・仕方ない。もう、行くしかない。話すしかないよ」
彼女はあたしの顔を見て頷く。
「大丈夫、今は仕事中って言えば切り抜けられるでしょ。帰りに話す事にしよう。帰りは、私も付き合うから」
とにかく、休憩を終えて、店にいるあいつを確認。
ばっちり、厨房が見える位置に座ってて。
あたしは、厨房の中から手を振る。
遠目になら、ばれないと思って。
笑顔で小さく手を振り返してくれて。
でも、手招きされる。
あたしは、仕事が忙しい、とジェスチャーして、首を振る。
気付いちゃったかな、気づいたのかな・・・
ドキドキした。
気付いてないよね・・・平気だよね・・・
手が震えた。
Mさんが、あいつの所に行って、なんか話してた。
「大丈夫、気付いて無いよ。りりかのシフトを聞かれただけ」
ものすごくホッとした。
・・・けど。
「あさって休みだって知ってたよ?」
そうだ、言ってあったんだ。
「会う約束とかしてたの?」
「まだ・・・」
「なら、日曜だし、私と会おう!たまには買い物でも付き合って」
本当に心から感謝した。
もうちょっとあいつと普通に会ったりするのは。
先かな・・・
あいつは帰り際、目が合ったあたしに、また小さく手を振った。
あたしも手を振り返した。
ドキドキしたまま。
帰るとき、あいつからのメールを読む。
「お疲れ!話は出来なかったけど。顔を見れただけ、よかったです。電話待ってます」
ごめん・・・ね。
なんだか、苦しくなっちゃったよ。
「すぐに話しに行こう」
職場の仲良しの彼女は、そう言った。
でも、あたしは、今は嫌だった。
だいたい、こんな傷だらけの顔を見られたくなかった。
「そんな事言っている場合なの???」
彼女に怒られもしたけど。
どうしても嫌だった。
「まぁ。私も女だから、好きな人に傷のついた顔を見せたくないって言う気持ちは分かるけど・・・でも、その傷じゃ、1週間とか掛かりそうじゃない?それまで会わないで、隠すつもりなの?」
あたしは、頷いて。
彼女は、「分かったよ・・・」って言った。
あいつからは、毎日当たり前のようにメールが来てて。
バイトを詰め込んでいるあいつは、夜は余り時間が取れないから好都合で。
「バイト行くまで数時間でもいいから、りりかさんに会いたいんだけど」
と、言ってきても。
「その数時間、寝たりして、バイトに備えなよ」
って、返す。
普段から、あたしはそう言う事を言ってたから、何も疑われず。
夜、一人の時間って、こんなに寂しかったんだ。長かったんだ。
そんな風に考えたりする。
上の子供たちから、電話は無い。
きっと、言われたんだろう。
「ママに電話するのは、禁止だよ」って。
あたしから、何度かだんな様には電話した。
でも、拒否されているみたいで。
ずっと、つながらなかった。
だんな様の実家に電話する事も考えたけど。
勇気が出なかった。
夜中に。
一人ぼっちになったみたいな感覚に襲われる。
あいつに。
無性に、会いたくなる。
声だけでも・・・と思う。
でも、きっと今声だけでも、聞いたら。
あたしは泣くから。
そしたら、どうしたの?って心配されるから。
会いたいけど。
会いたくない。
会えない。
そんな感じ。
仕事、今日は休めないから行った。
あざは化粧して隠した。
でも、全然違和感あるし。
口のはじは、かさぶたみたいになってるし。
だから、大きく口を開けることとか出来ないし。
やっぱり、みんなに「どうしたの???」と言われた。
「転んだの」
ありきたりな嘘。
たぶん、ばれてるよね・・・
いつもどおりに仕事をこなして行く。
休憩中。仲良しの主婦Mさんに、言われる。
「それって、殴られたんじゃない?まさか・・H君?」
「まさか!」
「ねぇ、りりか、私には言ってよ」
なんだろ。
安心しちゃったのかな。
誰かに話せるって事とかに。
あたしは、泣きながら、話した。
彼女は。
「どんな理由にしても、男が女を殴るのは、私は許せないなぁ」
と言って、
「それを今日まで一人で抱え込んだ、りりかの事、怒りを通り越して呆れちゃったよ」
と、寂しそうに言われた。
彼女とあたしは。
最初はバイトとして。
彼女の方が2ヶ月ほど後に入っただけで。
同じ仕事を一緒にこなして来た。
でも。
あたしの方が年齢的に若いからか。
社員にならないかと言われたのは、あたしだけだった。
彼女は、いつもあたしを支えてくれて。
それは仕事も、プライベートも。
あたしがどんどん昇格して行くのも、自分の事のように喜んでくれて。
あたしの、お姉さん的な存在だった。
おかしいと思う所は、きちんと言ってくれる。
そして、いろいろ叱ってくれる。
あたしも、信用して、彼女には話して来た。
もちろん、あいつとの事も。
最初は「好きになってしまった気持ちは仕方ない・・・でも。旦那さんにだけは、絶対にばれないようにね・・・」なんていってた。
お台場にあいつと初めて行った日。
「行く事に、反対はしないけど・・・もしも、途中で帰りたくなったりして、電車とかなくなったりしたら、すぐに電話しなさいよ。迎えに行くから!!」って言ってくれたのも彼女だった。
最近、ゆっくり、彼女と話す事はなくなってた。
あたしは、自分の生活のために働かなきゃいけなくなり。
仕事も長時間が当たり前になり。
空いた時間は、あいつと会ったり、寝たりして。
あたしは、彼女とたくさん言い合いもしたけど。
でも、彼女が大好きで。
彼女みたいに、強い、芯の通った女性に憧れて。
その彼女は、あたしが話さなかったこと。
とても、悲しそうにした。
でも、あいつより誰より先に、自分に話してくれたと言う事に。
すこし、喜んでくれた。
「ちゃんと、話そう。H君に。私も付き添うから」
あたしは最初、嫌だって言った。
でも、彼女は絶対に言わなきゃならないって言った。
それは。
隠す事は、彼を傷つける事になるからだと言った。
自分も原因なのに、知らされず、あたしがただ我慢している事は。
後で知ったら、彼も傷つくからだと。
そして。
「りりかが一人で苦しむこと、きっとH君は望んでいないよね」
うん、そうだと思う。
まず。今日は11月22日です。
たくさんの励ましメールや、罵倒メール、ありがとうございます。
お返事書けなくて、ごめんなさい・・・
全部、読ませていただいています。
日記を書かなかった間の事、ゆっくり、埋めて行こうと思っています。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
今日は、お出かけの日で。
あたしは、会えないって言ってあって。
朝、「大丈夫?」ってメール来ても。
「大丈夫だけど、今日はやめておくね」って返して。
あたしは、一人で部屋にいた。
こんな事、誰にもいえないし。
痛みはだいぶなくなったけど。
気晴らしに出かけるなんて、したくないし。
本当は。
こんなときは、誰かと一緒に。
愛する人と一緒にいたいのに。
でも。
あたしには、やっぱり言えないな。と思って。
言えたら、楽になれるんだろうか?
そう、自分に問い掛けてみても。
それは、分からないって答えしか出ない。
何かあったとき。
二人で考えて。
二人で乗り越えて行こう。
そう決めた。
けど。
やっぱり、いえないし。
あたしは、一人で、考え込んでしまってた。
いつでも君は。
手を差し伸べてくれているのにね。
2002年11月18日(月) |
考えなきゃいけないこと |
休みを取った。
こんな顔じゃ行けないから。
体調が悪いっていう事にした。
腫れはいつ引くんだろう・・・
明日は、たまたま休みで。
あいつと出かける約束してたけど・・・
あいつからは、メールが来てて。
何も知らないから。
「ライラは帰っちゃった?」
とか、聞いて来て。
あたしは言えるはずも無く。
「帰っちゃったよ」
と、笑顔のマークを付けて、送信する。
きっと、言ってしまったら。
あいつは自分のせいだって、責めるだろうし。
ライラとあいつと過ごした時間は、確かに幸せな気持ちになっていた。
結果的に、こんな事になってしまったけど。
ライラの心にも。
大きな傷を作ってしまったけど・・・
もう、連絡するな、と言われて。
冷静に冷静に考えて見たら。
当たり前で。
軽く、考えすぎてた。
あたしは。
離婚したって、あたしたちは、子供たちの両親って言う事で、つながっていたのに。
あたしの中では、だんな様は完全に他人で。
だんな様の事なんか、一ミリも考えて無かったんだ。
「明日は、ちょっと体調が悪いので、会えません」
断りのメールした。
「体調が悪いって???何で?どうしたの?」
慌ててる様子が、目に浮かぶ。
「たいした事無いんだけど、ちょっとだるいから。ごめんね」
「今夜行くよ。待ってて」
「平気だから。親が来てくれるから」
電話が来る。
あたしは出れない。
口が腫れちゃって、ちゃんと話せないから。
顔の腫れが引くまでどれくらいかかるんだろ。
そんな事ばっかり、考えた。
他に考えなきゃいけない事。
たくさんあるのに。
どうでもいい事ばっかり、考えようとしてた。
今日、水族館に行こう!って言われて。
でも、ライラが来てるってしったら、妹も母も、会いたいってもちろん言って。
あたしは、あいつに謝った。
「ごめん」
「いいよ、仕方ないよ。そうだよね、俺ばっかり、ライラを独り占めしたら、だめだよね!」
明らかに残念がってたけど。
あたしは、実家にライラと帰った。
母も妹も、大喜びで。
ライラは、上がお姉ちゃんのせいか。
男の子にしては、おとなしいってよく言われる。
でも。
1ヵ月半会わないうちに、幼稚園の影響かな?戦いごっことかするようになってて。
あたしの弟と一緒に暴れてた。
夜。
だんな様が迎えに来るって言うから。
あたしは家に戻る。
だんな様は、家のまでライラを乗せて、すぐ帰るって言った。
だんな様が迎えに来て。
ライラに「楽しかった?」って聞いた。
ライラは「うん!ママのばーばの家に行ったよ。遊園地も行ったよ」って。
それで、ライラが持って来たカバンには入らなかった、あいつに買ってもらったおもちゃを、大事そうに抱えてた。
「どうしたの?ばーばに買ってもらったの?」
「ううん、H君に買ってもらったの」
そのとき。
だんな様がいきなり、取り上げて。
アスファルトの上に、叩き付けた。
プラスチックで出来ているおもちゃは。
粉々になった。
一瞬だった。
あたしも、ライラも、何が起こったのか分からなくて。
ぽかーんとした。
間をおいて、ライラの泣き声で。
あたしは我にかえった。
「何・・・。何するの!!?」
だんな様はライラの手を引っ張る。
ライラは泣き叫んで、だんな様の手をほどこうと必死になる。
そして、あたしに手を延ばしてくる。
あたしは、ライラを抱きしめた。
そして、だんな様の手から離した。
ライラはあたしにしがみついて大泣きで。
あたしは、もう一度言った。
大声で。
「何してんの!!!??」
目の前に光が走ったような感じがして。
殴られたんだ、と分かったのは、一瞬後。
あたしは、呆然として。
痛いとか、そんなのより、びっくりして。
「お前は・・・!」
また振り上げられた手は。
今度はあたしは顔をかばったから、腕にあたって。
その腕が反動で、抱えてたライラの頭にあたって。
あたしはライラにあたらないように、抱きしめた。
何度か殴られて。
あたしは、ライラを抱き上げて、部屋に逃げようと走った。
すぐに髪の毛を摑まれて。
あたしはそのまま、道路に仰向けに転んだ。
ライラを抱いているから、手とか付けなくて。
後頭部を思い切り打って。
そのまま、頭をボールのように蹴られ。
めまいがした。
ライラだけは離さないようにって、抱きしめて。
ライラもあたしにしがみついて。
でも。
力が入らなくて。
だんな様が、ライラを抱き上げた。
ライラは最後まで、あたしの服を掴んで、「やだやだ!!」と泣き叫んで。
結局、ライラはだんな様に取り上げられて。
あたしは、立ち上がった。
口の中が、血の味がした。
硬いものが口の中にあって。
手のひらに出して見たら、歯が欠けてて。
「まさか、本当に会わせるとは思わなかったよ。どこまで、俺をバカにしたら気が済むの?お前はもうちょっと、頭がいいと思ってたよ。普通は出来ないだろ」
ライラは泣きながら、「ママがいい、ママがいい!」といい続けてた。
だんな様は無理矢理車に乗せて。
「暴れたら、外に投げるぞ!」とライラに怒鳴って。
最後に、こういった。
「子供の事は、もう忘れろ。もう、会うな、連絡もするな。お前はお前で、好きにしろ。俺もしない。もう、これで、お前とは一生会うつもりもない」
あたしはその場に座りこんで。
粉々になったおもちゃを拾った。
アパートの住人が窓から覗いてて。
「大丈夫ですか・・・?」と恐る恐るあたしに声を掛けた。
あたしは、返事する元気も無く。
部屋に戻った。
鏡を見たら。
髪の毛はぼさぼさで。
片目は切れたらしく、真っ赤になってて。
口も腫れてて。
頬が熱かった。
涙は出てなかった。
粉々になったおもちゃを見ながら。
あたしは、試されたんだと。
やっと、分かった。
あたしは、朝から張り切って、お弁当を作って。
昼前。
あいつが迎えに来てくれる。
ライラは覚えてたんだ。
「あー。あのお兄ちゃん!」
って、言ったんだ。
あいつは、覚えててもらった事に、喜んで。
あいにく、寒くて。
曇っているし。
だから、室内型の遊園地に行く事になった。
ライラはここに来るの、初めてで。
あたしは、上の子たちがまだ小さいころ、来た事あったんだけど。
大して面白くない割りに、高いから、ずっと来なかった。
でも、ライラは凄く喜んでくれて。
「Hくん、Hくん。これ可愛いねー」
あいつを、ライラが呼んで。
「ライラ、こっち見てみなよ」
あいつも、楽しそうに、話しかけて。
「ママのお弁当、おいしいよね」
2人であたしに言ってくれる。
こんなに、幸せな事が、あってもいいの?と思うくらいに。
あたしがずっと笑顔で。
ライラも、あいつも、ずっと笑顔で。
ショーを見るとき、あいつがライラを肩車して。
あいつは背が高いから、ライラも大喜びだった。
「ママってちびー」
ライラが、あいつの肩車の上から、言う。
「ねー、ママチビだよねー」
あいつも、笑いながら言う。
たくさん遊んだ。
あたしは途中で疲れて。
「座っていたいよー。休憩しようよー」
って言ったりする。
ライラは「いや」って言う。
あいつにしがみついて、「Hくん、ママなんかおいて、あっち行こうよ!」って、誘って。
あいつも、嬉しそうに。
「じゃー、行って来るわ」
って、あたしに手を振る。
「これ買ってもらっちゃったの」
ライラがおもちゃを手に戻ってくる。
「欲しいって言ったんでしょ?」
あたしが聞くと「ううん。一個だけいいよって言ったんだもん」て、ライラが反論。
結構高そうだし。
「あたし払うよ」
って言っても、「俺が買ってあげたいんだから、いいの」と言われる。
「だって、ライラ、9月に誕生日だったんだもんねー」
「誰に聞いたの?」
「ライラが教えてくれたんだよ」
帰り道、「明日はどこ行く?」と、あいつが聞いて来た。
あたしは、びっくりして。
「いいよ、明日は」
って言った。
あいつは、今夜24時から朝の5時までバイトだったから。
明日はさすがに、無理だろうと。
でも。
「じゃ、昼過ぎから行けるとこ、探すから。それまでは、バイトから帰ったらちゃんと寝るから」
とか、逆にお願いされる。
「なら、あたしが運転するから」
ていうことで、納得させる。
家について、お風呂に一緒に入って。
そのとき、ライラに言われた。
「ママ、H君と一緒にいつもいるの?」
ドキッとした。
「いつもはいないけど・・・よく一緒にいるかな」
「H君、優しいね。ライラ、好きだなぁ」
「そか、うん、優しいね」
「ママも、好き?」
「・・・うん」
何気ない風に聞いたんだろうけど。
凄く意味深に聞こえて。
あたしはドキドキしっぱなしで。
お風呂から出て、ライラは疲れて、すぐ寝てしまった。
あいつは、24時からバイトだから、23時前には電話お願いって言ってたから。
あたしはパソコンして過ごして。
電話して起こす。
「おはよう、起きた?」
「ああ・・・はい、ありがとうございます・・・」
「今日は疲れたでしょ?ありがとう。バイトなのに、ホント、ごめんね」
「いえいえ。こちらこそ。凄く楽しかったから、いいですよー。ライラは?」
「寝ちゃったよ。ライラも疲れたんだねぇ。・・・明日、無理しないでいいからね」
「無理なんかするはずないし。そうそう、考えたんだけど、明日も天気悪そうだから、水族館に行きません?」
「うん、いいけど・・・本当に平気?」
「行きたいの!」
「ん・・・分かったよ」
今夜も、ライラと一緒に眠れる。
当たり前だった時期もあったのに。
すごく、もったいなく感じる。
今日が最後。
明日には、帰ってしまうから。
ライラの髪をなでながら、あたしの髪質にそっくりなんだよねーって、あいつに言った事を思い出す。
あたしは、ちょっとだけ、泣いてしまった。
このまま、ライラの寝顔を見て、起きていたい。
眠るのが、もったいないから。
ライラと過ごしている時間を。
寝てしまうのが、もったいないから。
そんな風に、考えてしまう。
夜、だんな様がライラを連れてきた。
お姉ちゃんたちは、一緒に来ると、泊まりたいと騒ぐから、おいてきたと言ってた。
あたしは、全然OKなんだけどねー。
1ヵ月半ぶりの、ライラ。
「ママー」
って、抱きついてくるか、と思ったのに。
最初はなぜか、恥ずかしがったりして。
あたしが手を出しても、にやにやして、つないでくれないで。
だんな様と三人で、夕飯を食べに行った。
そのころには、すっかり照れてたのもなくなって。
あたしの膝に乗ってきて、前みたいに、いっぱい笑ってくれる。
指をしゃぶって、あたしの胸にペタンて、顔をつけるのも、変わってない。
「今日は、ママと寝れるの?」
あたしは、大きく頷いた。
だんな様が、あたしの家まで送ってくれて。
ライラと一緒にお見送りした。
「ママの新しいおうち、初めてー」
ライラがはしゃぐ。
あたしは、仕事から帰ってきて、買いに行ったライラの歯ブラシとか、見せた。
「ライラ、歯ブラシなら持って来たよ」
あたしに、自分のを見せてくれた。
でも、あたしが買って来たキャラクターの方が、好みだったらしく。
「ママの家ではこれ使うね」
と言ってくれた。
一緒にお風呂に入って。
ライラが新しいゲームソフト買ったんだ!って、ゲームボーイをやってくれているのを、横目で見ながら。
あたしは、ライラをじっと見る。
1ヵ月半なのに、何だか大きくなった気がするね・・・
「ライラ来た?」
あいつからメール。
「うん、来たよ!今、横でゲームしてる」
「そかー。明日、どこか行こうよ、公園とか」
「うん、いいよー」
「やったー♪楽しみだなぁ!」
あたしは、ライラに話す。
「ねぇ。H君、覚えてる?」
「うーん・・・?」
「覚えてないか・・・ママのお友達の、花火をひなちゃんと一緒に見に行ったお兄ちゃんだよ?」
「うーん・・・」
「そのお兄ちゃんがね、明日、ライラとママと三人で、公園に行きませんか?って」
「公園!?うん、行くー」
その夜。
あたしは、ライラと手をつないで、寝た。
ライラの小さな手。
寝ている間に離れませんように。
これが夢じゃありませんように。
願いながら。
眠った。
だんな様から、電話があった。
「ライラを預かって欲しい」
「え?え?」
「金曜から日曜まででいいんだけど」
「ええーー!!!ほんとに??なんでなんで??あたしは全然OK!!」
聞いてみたら。
だんな様のご両親は、金曜日から旅行に行くらしい。
で、だんな様が土日は見るはずだったんだけど。
仕事が入ってしまって。
上の子供たちは、だんな様のお兄さんがみてくれるらしくて。
見てくれるって言っても、夕飯時にはだんな様はいるんだし、昼間は子供たちは大きいし、勝手に外に行ってしまうから、関係ないんだけど。
でも。
ライラは・・・と言う話になって。
急遽、仕方ないから、あたしに。と言う事になった見たい。
「悪いね、なんだか・・・勝手で。会わせないとか言ったのにね」
「ううん!気にしないで!」
「仕事は平気なの?」
「!!!」
あわてて手帳を取り出す。
金曜日は夕方まで仕事。
土曜日は休み。
日曜日は夕方から夜中まで仕事・・・
「明日は、休めない。けど、日曜日なら、何とかなるかも」
「分かった、明日は幼稚園があるから、大丈夫。夕方、俺が迎えにいってから、連れて行くよ」
「うん、そうして。あーー、楽しみだなぁ」
あたしは、上機嫌。
嬉しくて嬉しくて。
そしたら、だんな様が。
「あの、彼は。ライラと会った事あるんだっけ?」
「ん・・。うん。ある・・・けど、なんで?」
「いや。今回も会う事になるんだろうなって思って」
「分からないけど、何で?」
「今、りりかはりりかの生活してて。そこに、あの彼が当たり前のように存在するんだから。そこにライラを急に預けるって言ったんだし。ライラとあの彼が会う事は、俺は仕方ないって思ってるから・・・彼にも、ライラの事、よろしくって言っておいて」
「あ。うん。分かった」
「ママは一人で可哀想だなぁって、ライラ、よく言うから。一人じゃないって、これで分かるかな」
「そうか・・そんな事言うんだ」
「なんだか、俺が悪者になってる気分だよ(笑)」
「ごめんなさい・・・」
「ライラの心配の種、減るね、きっと。俺からは、ママは一人じゃないんだよ、なんて、言えないじゃん?」
「うん・・・ありがと」
「楽しませてあげて。最近、すごく暴れん坊だから、若い子がいたほうが助かるかも(笑)」
「あたしが楽しむよ!むしろ!!」
だんな様と電話切った後、すぐにあいつに電話した。
あいつも、大はしゃぎで。
「ほんとー???」
って、喜んでくれて。
でも。
言っちゃった後に。
あたしは気づいた。
だんな様は、今回は自分の都合で、こうなったんだから。
あたしに気を使って、きっと彼に遊んでもらって、なんていったんだ。
でも。
そうじゃなかったんだ。
夕方。
働いてたあたしに、あいつからメール。
「今、学校から帰って来ましたー。で、ポスト見てびっくり!ありがとー。今からじっくり読みます!」
あ。手紙、届いたんだ。
あたしは、仕事ですっかり忘れてたけど。
そして、数分後。
「読み終えました。嬉しいねぇ。あんな小さな事(店まで来てくれた事)がりりかさんにとって、そんなに喜んでくれる材料になって。手紙、本当にありがとう。暖かい気持ちになれました」
あたしも、喜んでくれて、嬉しい。
暖かい気持ちになってくれて、ものすごく嬉しい。
あたしが手紙に書いたのは。
「店にまで来てくれたときは、本当にうれしいを通り越して、感動しちゃった。君は、いつも真っ直ぐで。あたしに全力で気持ちをくれるから。あたしも、そんな君と同じ位の気持ちを、あげたいと思ったんだ。いつまでも、真っ直ぐで、優しい君でいてください」
みたいな事。
あいつが、あたしからの手紙を読んで、暖かい気持ちになれたように。
あなたは、いつもあたしの気持ちを暖かくしてくれる。
本当に感謝しているんだ。
ありがとう。
昨日のお礼を。
メールや言葉じゃなく。
文字にして、綴ってみた。
そして、それを封筒に入れて。
あいつの住所を書いて。
ポストに投函してみた。
なんだか、そわそわした。
手紙がつくのは、たぶん明日。
あいつから、今までに、何度か手紙をもらった。
メールも、保護れば消えない。
でも、手紙とは全然違う。
機械的じゃない、文字が。
あたしは、凄く嬉しかった。
初めてもらった手紙は、手紙と言えるのかな?
分からないけど・・・
まだ一緒に働いてたころに、あたしのロッカーに入ってた一枚の紙。
あいつの給料明細書の裏に書かれてたんだ。
「今日は12時間の勤務ですね。 頑張ってください! 明日はデートです。 今から、楽しみで仕方ありません。」
たったの4行だけ。
朝、ロッカーを開けたとき、これ見て。
あたしは、自然と顔がほころんだっけ。
メールでは、よく言われている言葉たちなのに。
文字にしたら、ものすごく大きさが違って来て。
あたしの宝物の、ひとつになった。
今でも、手帳の中に入ってて。
仕事に疲れたときとか、たまに読み返す。
そして、あの時と同じように、あたしの顔はほころんでしまう。
あいつは、手紙が好き。
書くのも、もらうのも。
ちゃんとした手紙を初めてもらったのは、最近なんだけど。
あたしが、寝てしまったあいつに、「帰るね。今日はありがと」とかメモみたいな紙に書いたりしたのまで、あいつはすべて取ってある。
だから。
今日、送った手紙も。
きっときっと、ものすごく喜んだ反応が見れるんだろうなぁって。
その反応が、楽しみ。
朝から。
いやーーーなことが、起こった。
あたしが、仕事始めて、こんな嫌なこと、初めて。
バイトの女の子が、お客さまにお冷(最初に出す水です)を、掛けてしまった。
あたしは、遠目にチラッと見てたんだけど、その客が水を持って歩いている彼女に気づかず、急に立ち上がってぶつかったから。
しかし、その客は、怒鳴って。
責任者、呼んでこい。
と。
あたしは、慌てて出ていく。
すいません、すいません、と、その女の子と一緒に謝る。
彼女は泣きだすし・・・
客の怒りは頂点だし・・・
あたしも泣きたいよ・・・
「ねー、責任者って君なの?」
「はい」
「こんな若いお姉ちゃんが?」
「(ムカ!!!)はい」
「こんな子を責任者にしちゃうから、だめなんだよ、この店は!!」
「(ムカムカムカ・・・・)本当に申し訳ありません」
「ちゃんと、教育出来ないから、こんな事になっちゃうんだろ?」
「(あ?お前が急に立ち上がったせいだろ?)はい、申し訳ありません。もう一度、徹底して教育しますので・・・(マニュアルどおり)」
「まったくよー。こんな女が責任者だから、どうしようもねーなー」
「・・・本当に、申し訳ありませんでした。クリーニング代は・・・」
「金とかどうでもいいの。あれだな、もっと上の、本社の人間とか呼んでよ」
「あの・・・しばらくお待ちいただくようになるかと思いますが?」
「じゃー、電話させて。(紙に携帯番号を書いて)これに。君じゃだめだ。女に話しても、仕方ないや」
「・・・・・・・・・・・・・・。かしこまりました」
もー、その客帰ったあと、あたしは半泣きで本社に電話して。
部長に伝えた後。
あいつに電話してしまった。
しかも、大泣きで。
あいつが出る前から泣いてたあたし。
いきなり、「もしもし」より先に、「ちょっとー!!!」って、泣きながら言われたら、あいつも驚くに決まってる。しかも、あいつは寝起き。
「どうした??何?何があった???」
今さっき起こった事を、あたしは泣きながら伝える。
あいつも、一緒になって怒ったりして。
「もう、嫌だ。こんな風に言われて・・・」とか、あたしがぐずぐずしてたら。
「分かった分かった。泣かないの。ね」
と、慰められて。
あたしは、朝両替の時間だったから、電話を切って仕事に戻った。
ちょっと、落ち着いた。
でもまだ、かなり凹んでた。
銀行に行く時間になって、外に出たら。
あいつがいた。
びっくりした。
「どうしたの?学校は?」
「今日は二限から。りりかさんに、元気を補充しに来たよ。銀行まで、乗せて行ってあげるよ。乗って乗って」
なんだか、その気持ちとか言葉が、ものすごく嬉しくて。
あたしは、また泣いてしまった。
車の中でも、あいつはずっと、「泣かないのー」を連発してた。
銀行までの往復20分ちょっと。
いっぱい、元気をもらった。
今日、あいつは学校終わったら、すぐにバイト。
しかも、明け方の五時まで。
だから、寝ていられる時間に、寝ていたい筈なのに。
あたしに起こされて、そして、そのまんま、会いに来てくれた。
今更ながら。
すっげー、優しい。
と、あたしは思った。
あたしをおろして、真っ直ぐ学校へ行った。
そして、メール。
「ありがとう、すごく、嬉しかったよ・・・でも、寝なきゃ、なのにごめんね・・・」
「何言ってるんだよー。りりかさんが辛いときに、寝ててどうする?一緒に半分こにしようよ。半分、俺がもらうから、無くなった半分にいっぱい楽しい事詰め込んで!」
笑顔のマークがたくさん並んでた。
あたしは、すごく、すごーく。
幸せな気持ちになれて。
こんな、ちょっとの言葉や態度で。
人の心は、不思議だなぁ。
今日は夕方ちょっと前から仕事。
でも、今日は珍しく売り上げの確認だけで帰っていいと言われ、数時間で上がってきた。
こんなに早く終わったんだし、明日は早朝からまた仕事だけど、あいつに会いに行こうかな!って思って。
電話した。
でも、留守電になっちゃった。
着信履歴みたら、掛かってくるかなぁって家に帰って待機してよう!って思って。
だらだら寝たりして。
はっと、気づいたら、もう22時だった・・・
電話は??と見ても、着信もメールも、あいつからはなし。
もう一度電話した。
やっぱり留守電。
・・・。
わざと出ないの?
昨日、なんか言ったっけ???
あれあれ?
昨日は一日仕事で、メールだけだったけど、何回かしたよねぇ?
思い起こしても、思い出せない。
おとといの事は、何も昨日は言ってなかったし、許してくれたのかと思ってたし・・・
あたしが、一人あたふたしてたら、あいつから着信。
「ごめん、携帯忘れて、友達んちに行っちゃってたよー!今日は早く上がったの?」
もう、ホッとしたのと、ムカッとしたのと・・・でもやっぱり、嬉しかったのと。
「もう・・・出ないから、あたし、拒否られているのかとおもってさー・・・何かしたっけ?って考え込んじゃったよ!」
あいつは笑いながら。
「いやいや、そう思うって事は、りりかさんがやましいことばっかりしてるからだね!頭冷やせた?」
「いいえ!やましいことなんか、してないもん!」
「寂しかったくせに」
「寝てたよ、普通に」
「考え込んでたんでしょ?」
「・・・でも・・・寝たのもホントだもん・・」
「まぁ、いいじゃん。そんだけ、寂しかったって事だよ。ねー、りりかさん♪」
それから一時間くらい話して。
明日朝早いからって、切って。
電話切ってからも、いろいろ考えたなぁ。
あたしは、たった数時間なのに、連絡が取れないことに不安を覚えて。
そんな不安がっているあたしを、あいつは楽しんで。
楽しんで・・・って言うより、喜んで。
そう言えば。
今日、仲良しの主婦に言われた。
「りりかって、強がってばかりでめったに頼らないじゃん?だから、たまに頼られて、甘えられたら、男はきっと、あ!俺にだけはこう言う面を見せてくれるんだ!って勘違いするよねぇ。それって、りりかの手なの?」
「そんなことないです」
「でも、そう見えるなぁ。引いてるなぁって思ったら、急接近してくるとか、きっと無意識にそうやってるんだねー」
「知らないー」
「そういうの、意識的に直さないと、H君に呆れられちゃうからね。そう言うことしていいのは、H君にだけだよー」
意識的に直す、第一歩として。
まず、あいつといるとき以外に酔う事をやめよう。
2002年11月09日(土) |
GIVE AND TAKE |
あいつは、ずっと待ってた。
携帯は電池がなくなってしまったらしい。
それで、電池を買いに、コンビニに行っている間に、あたしが来たからすれ違った。
「ごめんなさい」
車に乗ってからも、乗る前も、あたしは謝り続けた。
あいつは黙ってた。
「ごめんね、本当に・・・」
やっと、口を開いた、あいつの言葉は。
「何に対して、ごめんね、なの?」
遅刻した事。
飲んでしまった事。
と、あたしは言った。
「俺が怒ってるのは。これが普通の飲み会ならいいわけ。けど、違うでしょ。Kがいるんじゃん?でも、社員同士の飲み会って聞いちゃ、仕方ないかなって思うし。りりかさんから、22時に終わるから迎えに来てって言ったんだし。その上、酔わないって約束したのもりりかさんだし」
「酔ってない、酔ってない」
「顔、赤いよ?」
「そりゃ、ちょっとは飲んだから」
「隙が出来てたよ?」
「は?」
「さっきの電話のとき」
「隙なんか、出来て無いよ・・・」
「ケラケラ笑って、楽しそうに?俺行かなかったら、Kとどっか行っちゃったんじゃないの?」
「行くはず無いでしょー・・・」
あたしの家につく。
あたしが降りても、あいつは降りない。
「帰るの?」
「うん」
「そか・・・分かった」
あいつは、帰って行った。
あたしは部屋に入って、相当怒ってたなぁと思う。
そりゃ、そうだ・・
シャワー浴びて出てきたら、あいつから着信あり。
すぐに電話する。
「どうしたの?ついた?」
「とっくに」
「ごめん、シャワー入ってて・・・」
「うん」
「Kってさ、りりかさんが離婚したって分かって、ものすごく嬉しいだろうね」
「なんでよ?」
「だって、チャンス到来!とか思ってるんじゃない?」
「はー?」
「Kは、お気に入りじゃん。りりかさんが」
「いやいや、そんなことないって・・・」
「そう思ってるのは、たぶんりりかさんだけだよ」
この人のこう言う話が始まると、とにかく長い。
延々と責められる。
「たとえ、そうだとして。でも、あたしは、ありえないよ、安心して。あたしはHだけだよ」
「あのさ。あり得ないから、ならOKとか、あり得るから、ならだめとか、そう言う話じゃ無くないか?」
「?」
「りりかさん、逆の立場になってみな。俺の事すきって言っている女がいたとして。それで、りりかさんはその女と俺が飲みに行ったりするの、いやじゃないの?その女と飲みに行っているのに、遅刻されたりして、いやじゃないの?気持ちの問題でしょ。それで、りりかさんが早く帰って来る、または絶対に飲まない、とか。そう言うのみて、俺は安心するんでしょ」
言ってる事、よく分かるけど・・・
「りりかさんに、与えてばかりだよね、俺。りりかさんは、俺からいろいろなもの、与えられすぎて、もう麻痺しちゃってるんだよね。たぶん、俺は自分から離れて行かないって安心しすぎちゃって、俺には何もくれないんだよね?」
与えて無い・・?
そうかな・・・あたしは、あなたがすきって言う気持ち、いつも出しているつもりでいたけど・・・
「俺があげてる安心と同じ位の量の安心を、俺にもちょうだい」
あたしが、黙ったままでいたら。
「いくらりりかさんが離婚したって。いつだって、俺は不安なんだよ」
その不安な事は。
あたしが飲みに行って記憶をなくすとか。
そういう事だけではなく。
あたしがいつか。
また。
・・・・。
そんな事は、無いよ。
あたしは、君だけを見てるよ。
でも、あたしの行動は、君にとって不安だらけになってしまうんだね。
ごめんね・・・。
もっともっと。
君が好きだと、行動で。気持ちで。
示せるようにしたい。
ふらふらしないように。
揺れないように。
ちゃんと、真っ直ぐ、君だけを、見ている。
そして、安心させたい。
君があたしをすきだって気持ちを。
いつもあたしにくれているみたいに。
それであたしが安心しているみたいに。
本当に、ごめんなさい。
「今日、送別会終わりそうになったら連絡して。迎えに行くから」
朝、メールが来た。
あたしも素直に。
「うん、お願いします」
て、メールした。
一次会はカラオケだった。
だから、一次会で帰ろうと思ってたあたしは、カラオケの予約時間を3時間と聞いてたし、「22時には終わりそう」ってメールした。
あたしは、約束通り、お酒は最初の乾杯だけで、後は体調が良く無いって事で、辞退させていただいてた。
けど、例のあいつが嫌いなマネージャー(Kさん)が、「○○(あたしの旧姓)さん、になったんですよね!いやー、びっくりしましたー。さー、独身同士、飲みましょう」とか、注いで来た。
あたしは、やんわり断り続け。
Kさんは「じゃ、一杯だけ、お願いします」とか言う。
あたしも、一杯だけ。って事で、付き合った。
「なんだよ、最後まで飲み干して無いじゃんー。りりかさん、それは失礼ってもんですよ」
とか言われて、また注がれる。
心の中で「このやろー」と思いつつ、二杯目。
乾杯ビールも入れたら、三杯目か・・・
顔は熱くなってくるの、分かってたから。
まだ注いでこようとするKさんに。
あたしは「本当に、風邪引いているので」って断った。
トイレに行っている間に、あいつに電話した。
「平気、酔ってない。22時には出るから」
「はーい。わっかりました」
席に戻って、「これどうぞ」とKさんに言われて渡されたピザを食べる。
・・・。
すげー、辛い。
「なに!?」
「あ、タバスコ?」
にやにやしながら、タバスコを見せる。
こいつ・・・!と思いながらも、一応上司(でも年下)なので、笑顔で「辛いの平気なほうなんですけどねぇ、どれくらい掛けたんですか?」とか返して、ウーロン茶を一気飲み。
唇はひりひりするし・・・
ん?
ウーロン茶の味が変・・・
てか、これ、ウーロン茶じゃないだろ・・・
「これって・・・」
「ウーロンハイでしたー☆」
一気飲みなんかしちゃったから、酔いが回る回る。
やばいなぁ、やばいなぁ・・・と思いながらも、その反面、ま、いっか。とか思う自分もいたりする。
その後は余り覚えて無くて。
ただ。
気づいたら、23時回ってて・・・
あたしは、一気に酔いが醒める。
うるさくて聞こえなかったけど、携帯にはメールも着信も留守電も・・・
全部、あいつから。
「あの、あたし帰りますね、電車なくなっちゃうんで」
「いやー、タクシーがあるだろうー」
とか、別の上司に言われながら、あたしはあわてて外に出た。
エレベーターの鏡で顔を確認する。
赤い・・・
一人で「らりるれろ」とかつぶやく。
よし、ろれつは回ってる!
待ち合わせの場所に行くと、すでにいなかった・・・
当たり前だー・・・
メールは「まだ?」「何してるの?」「30分経過です」とかで、留守電も「どうした?」「しらねーからな」と言う言葉で終わってて・・・
すぐに電話する。
でも、電源が切ってあるらしく・・・
はー・・・やっちゃった・・・
タクシーであいつの家に行くか。
と思ったら電話。
Kさんから。
「今どこ?」
「今、タクシー乗り場です」
「電車あるでしょ?」
「はぁ、まぁ」
あたしの家に帰るには、電車がある。
でも、あいつの家に行くにはバスかタクシーしかない。
バスは、もう終わってた。
「タクシーで帰るなら、もう少ししたらみんな同じ方面多いんだし、一緒に行けばいいじゃん。だから、戻っておいでよ」
「うーん・・・いえ、ちょっと気分が悪いんで・・・」
「そうなの?そんなに飲んでました?」
「飲んでたじゃないですか〜・・・Kさんが無理矢理飲ませるから、酔いましたよー」
「りりかさん、酔うとかわいいから、ついつい。ごめんなさいー」
「酔うと可愛いって、一応あたしの方が年上なんですけど?」
笑いながら話す余裕も出てきて、そんな会話してたとき。
いきなり携帯が飛んだ。
違う。
飛んだような、「感覚」。
何が起こったか分からないまま、あたしは後ろを振り向く。
「あ・・・」
「あ。じゃねーよ」
あたしの携帯を持ってるあいつがいた。
殴られる!?
と思って、あたしは目をつぶる。
でも、携帯で頭をこつん、と叩かれた。だけ。
「殴りたいのは山々だけど。女を殴ったりしないから。俺って紳士的だろ?」
明らかに、表情は怒ってた・・・
昨日から、ちょっと変な空気のまま。
あたしたちのメール内容も、あたしは仕事、あいつは学校、と、他愛もない事で。
カギの事とか、一切触れない。
そして、明日の飲み会の話にも、触れない。
「今夜、会えませんか?」
「うーん、明日早いから・・・無理かな」
「ですよね。分かりました」
で、終わり。
今日のメール。
明日、迎えに来るって話は、どうなったのかな・・・?
と、ちょっと思った。
今度の金曜、職場の送別会がある。
もちろん、職場の、だから、あいつは出席なんか出来ない。
その事を、凄く凄く心配している。
あたしが「大丈夫だってー」と言っても、「りりかさんは、弱いくせに飲んで、酔って、隙が出来て、記憶なくすからなぁ・・・」と言われる。
そんな、上司の前でなくしません(笑)
言い合ってた。
行くなとは言わないけど、酔わないで、迎えに行かせて。
分かった、酔わない。迎えに来てもらう。
何がいやって・・・
あいつの嫌いなマネージャーが来るから。(過去日記6/14参照)
あの時、行かないって約束はしたけど、今回のは仲間内、とかじゃなく、職場の、だから、行かないとも言えないあたし。
それを、あいつは分かっている。
だから、いくなって事は言わない。
あいつとマネージャーがなんでそんなに仲が悪いのか、あたしはよく知らなかった。
仕事中、喧嘩になったとか、言い合いになったとか、そう言う話をちょっと聞いただけ。
「なんで嫌いなの?」
「合わないの!」
だけしか、答えてくれない。
「りりかさんを迎えに行ったときに、酔わなかったら、いい物あげるー」
「何々??」
「それはお楽しみだよ」
「そう、ならいいけど、それでも」
「もっと突っ込んでよー・・・今知りたいのぉ♪とか言ってよ・・・」
「言わない。酔わない自信あるから、そのいい物はあたしの物になるのは確実だから」
「でも、本当は今知りたいんでしょ?ね、知りたいんでしょ?」
「・・・君が言いたいだけじゃん?」
「あたりー」
「・・・。」
あいつが「目を閉じて」と言う。
あたしは言われた通りにする。
手のひらに何かおかれる。
「目を開けていい?」
「待って。開ける前に、何だと思う?」
「んー・・・」
あたしは両手でちょっと触っただけで、分かった。
「カギ・・・?」
「お、すげー!って、すぐ分かるか」
あたしは、目を開けて、手のひらを見た。
カギ。
キティちゃんのキーホルダー付けてあって。
「うちのカギ。俺がいなくても、入れるように」
あたしは黙ったまま。
カギを見つめて。
そして、ゆっくり言った。
「もらえない」
あいつが、笑顔から真顔になった事に、あたしの胸がものすごく痛んだ。
あたしは、もう一度言う。
「ごめん、もらえないよ」
カギを、テーブルの上におく。
「なんで?」
あいつが、不思議そうに聞く。
なんで・・・って。
「こう言うの、今はまだ、無理。あたしが、君の合いカギ持ってるなんて、おかしいでしょ?」
「おかしい?」
「うん、おかしい。なんか、あたしはそう言うの、まだ出来ないや」
嬉しかったのは、確か。
カギなんてくれたのは、本当に嬉しい。
でもね。
あたしが、君の部屋のカギをもらったりする事は、おかしいと思う。
だから、今はまだ、もらえない。
逆に。
あたしの部屋のカギをくれって言われても、それはもちろん無理。
変なとこに、こだわってしまう。
ごめん。
「なーんだ、俺一人の空回りかぁ」
あいつは、笑顔になって言った。
無理矢理、作ってる、笑顔。
家に帰って、あいつからメール。
「本当に、カギを渡すこと、俺なりにいろいろ葛藤した結果なんですよ。他人にカギを渡した事なんか、今まで一度もなかったから。でも、りりかさんには持っていて欲しいって思ったんです。重たく感じちゃった?ごめんね。」
ごめんね。
は、あたしが言う言葉だよ。
あいつが、一人でカギ作りに行って、キーホルダーを選んで。
そんな光景を想像したら、凄く切なくなった。
素直にもらっておけばよかったのかもしれない。
そう思ったりもした。
でも。
あたしは、なんだかそう言うのが嫌だった。
同棲とか、半同棲とか。
そういう形になっちゃうのがいやだった。
カギなんか渡したり、受取ったりしたら。
知らない間に来られてたり。
うち掃除しといて、なんていわれたり。
そんなことないかもしれないけど、絶対ないとも言い切れないし。
そして、そのまんま。
ずるずる、「もう二つ部屋借りてるのも、経済的にもったいないから、一緒に住んじゃおう」とかなるのが怖かった。
あたしが、勝手に想像しているだけだけど。
空回りしているのは、あたしだよ。
勝手に想像を膨らませて、君を傷つけて。
「いつか、あたしの気持ちが落ち着いて。そして、相応しい人間になったら。そしたら、あたしにカギをください。お願いします」
ああー。あたしって、不器用だなぁ・・・。
あたしは。
あいつの胸の上で眠るのが好き。
何でだか。
あいつの心臓の音が、ものすごく心地よく耳にひびいて。
なんでだろうね。
あたしが、そう言うと。
俺だからじゃない?愛する俺だから。
なんて、調子に乗ってくる。
あたしは、そうかもな。と思いつつも。
「ばーか」とか言う。
可愛くない・・・
今日は夕方から仕事だったから。
2人で寝転がってばかりいた。
あいつの具合も、咳くらいで、だいぶ良くなってた。
胸の上に頭を乗せて、窓から見えるこの景色が好き。
あいつの部屋はマンションの上のほうだから、遠くまで良く見える。
今日はあまり天気も良くないけど。
でも、好き。
もちろん、天気がよかったら、もっと好き。
自分の胸の上に乗っている、あたしの頭を。
いつまでもいつまでも、なでてくる。
すごく、優しく、なでられている。
いつだったか、こう言う場面があって。
あたしは、その時は、帰らなきゃいけない家があって。
好きなだけ、こうしているなんて事は、不可能だった。
今は。
あたしは、こうして好きなだけいられる。
それは、幸せ。
確かに、幸せなんだ。
いろいろな物をなくして、壊した変わりに、手に入れた幸せ。
そんな幸せは長続きしないとか。
よく言われるけど。
長続きしないでもいい。
この幸せを、今、感じていられるのだから。
あたしは、うとうとはしたものの、ほとんど寝ないで、朝を迎える。
仕事があるため、シャワーを浴びる。
シャワーから出てくると、あいつが起きてた。
「おはよ。具合はどう?」
「まだだるいけど、だいぶ楽かな」
「ならよかったね」
「りりかさん、寝た?」
「うん、少しは」
「平気ー?」
「平気平気。夕方には終わるから。また見に来るね」
「ほんとー?」
「うん、夕飯何が食べたい?」
「えーと。うどんがいいかな」
「わかった、うどんね」
あたしは支度をして、職場に向かう。
何度か、仕事中にもメールを入れる。
昨日よりはメールも返ってくるし、だいぶ良くなったのは本当みたい。
仕事上がりに、材料を買いにスーパーに寄ってからあいつの家へ。
あいつは起きてて、流しの中は綺麗だし、部屋も掃除機が掛けてあって。
「寝てなきゃ・・・」
「うん、でもりりかさん、汚いの嫌じゃん」
「でもねぇ、病人に掃除しろとか言わないよ・・・」
あいつを寝かせて、あたしはうどんを作る。
ちょくちょく見に来ては、邪魔される。
「寝ないで平気なら、あたしは帰るよ???」
「寝ます!」
2人でうどんを食べる。
あいつは、おかわりまでした。
ホント、だいぶ元気になったね!
ベットに入って、一緒にテレビを見る。
テレビ見てたら、急に。
「前よりも大きくなったね」
と言われる。
「何が?」
「俺たちの愛の大きさ」
「そお?」
「うん。凄く思う」
具合が悪いせいで、こんな話しだしたのかな?
「今日も泊まってくれる?一緒にいてくれる?」
「んー・・・だって、元気そうだよ?」
「だめ?」
「・・分かったよ」
あいつは、大喜びで後ろから抱きついてくる。
「変な事しないでね!」
「そこまで元気じゃありません」
笑いあって、くっついて眠る。
眠りにつくまで、いろいろな話をする。
付き合う前の話とか。
付き合ったばかりの話とか。
それから・・・いろいろな事。
いろんな事、乗り越えてきたね。
あたしたちは。
そして、これからも、いろんな事を乗り越えて行かなきゃならない。
分かってる?
分かってるよね?
いろんな事乗り越えて来て。
今、あたしたちの気持ちは。
10ヶ月前と比べたら、ずいぶん成長したね。
あなたがいうように、あたしたちの愛は。
うん、ずいぶん。
大きくなったね。
今日は、朝10時から夜12時まで仕事。
あいつから「朝からだるいです」というメールが来たきり、夕方まで来なかった。
心配になって、夕方の休憩で電話する。
「平気ー?」
「ああー・・・まぁまぁ」
「平気そうじゃないねぇ。あたし、仕事抜けられないし・・・終わったら様子見に行くから」
「いやいや。りりかさんも病みあがりだし、今日は仕事が長時間なんだから、帰って寝てください」
「だって、心配じゃん?」
「気持ちだけで・・・いいです」
すごく、苦しそうだったから、電話は切った。
行くつもりでいたけど、よく考えたら、あたしが行ったらゆっくり眠れないから、嫌かな、とか思ったりした。
どうしようかなぁ、って思ってた。
仕事終わって、やっぱり心配だし、様子見てすぐ帰ろうと思って、ヨーグルトとお茶とゼリーを買って行った。
寝てたら・・・と思って、チャイムは鳴らさないで入った。
そしたら。
あいつは、フローリングの上で毛布にくるまって、転がってた。
あたしはびっくりして。
「何してるのよー!!」
「あ・・・びっくりした。来てくれたんだー?水飲みに台所まで行ったら、ベットまで歩くのだるくて・・・」
あいつを抱えてベットに運ぶ。
「すいません」とか何度も言うあいつ。
もともとは、あたしが移しちゃったんだろうからねぇ。
「なんかいる?お茶?ヨーグルトもあるし」
「いえ、お茶だけください」
一気にお茶を飲み干して、「寒気がする・・・」とベットに潜り込んだ。
「あたしは、帰るね、寝てね」
「え・・・。いてくれないんですか?」
「だって、寝れないでしょ?」
「いてほしい・・・」
「わかったよ。いるから、寝て」
あいつはマスクをして、布団をあげる。
「ここに来て、一緒に寝て。マスクしてるから、移らないよ」
あたしは、言われた通りに横に寝る。
いつも、あいつがしてくれるみたいに、頭を抱え込んで、よしよしして。
背中をとんとんした。
そのうち、あいつは寝ちゃって。
マスクは息苦しそうだし、はずした。
あたしがベットから出ようとしたら、服をしっかり捕まれてて。
外そうにも外れなくて。
あたしは、諦めて、そのまま、横に寝た。
夜中に何度も苦しそうな咳をする。
あたしは、背中をさすったり、軽く叩いたりして。
「こうしてると、すげー、安心する・・・なんでだろ」
「何?起きたの?」
「うん・・・なんかね、すごーく、気持ちいい」
「そかそか、分かったから、寝なさい」
「うん・・・このまま、朝までこうしててね」
あたしは、背中をさすって、また寝かしつける。
こうして、子供たちの事も、同じようにしてきたな、と思う。
今、もしも子供たちは、風邪を引いたら、誰にこうしてもらうんだろう。
なんて、また、考えてしまう。
よそう。
もしも、とか、そう言う考え。
あたしは、あたしの人生を自分勝手に進んで行くと決めた人間なんだから。
今更、考えたって、仕方ないんだから。
あたしが手に入れた幸せの証の子供たちを。
自分から手放して。
今、こうしてあいつを抱きしめてる。
この、幸せだけは、手放したらいけないんだよ。
ぼんやりと、あたしは明るくなってくる空を見る。
風邪はだいぶよくなってた。
あいつから「公園に行かない?」と誘われる。
「うん、いいよ」
久しぶりの休みだったし、どこか行きたいね、と話してて。
二人で公園に行った。
急だったから、お弁当とか作れなくて。
おにぎりだけ、急遽作って、おかずは買った。
向かった場所は芝生の公園。
広くて、斜面になってて。
子供たちがダンボールに座ってそりみたいなことしてた。
「あれ、やってみなよ」
あたしが言ったら、
「恥ずかしい・・・やってみたいけど」
とか、いうあいつ。
太陽がいい感じで出てて。
あたしは寝転がって、うとうとする。
あいつはあたしの隣でボーっと遠くを見てる。
「幸せだね」
突然言うあいつ。
「何、いきなり?」
寝転がったまま、あたしは聞く。
「何だか。こうして一緒にいる事が」
あたしは、頷くだけ。
そんな、ゆっくりな時間の流れ。
お日様がゆっくり傾いても。
あたしたちは、そのまま、寝転がって。
「手が、冷たいなぁ」
あたしの手を、自分の両手で包んでくれる。
あたしがあいつをじっと見る。
あいつはそれに気づいて、恥ずかしそうにする。
「何?」
「ううん、Hは優しいなぁと改めて思って」
「はぁ?」
「いいの。気にしないで」
「ちょっと寒くなってきたし、もう行かなきゃね。病み上がりなんだから」
あいつが、あたしの腕を持つ。
あたしは、ずっとここにいたいような。
そんな感じだったんだけど。
歩きながら、あたしはいっぱい話した。
なんか、どうでもいいような話。
あいつは「うんうん」って笑顔で聞いてくれる。
あたしが話しながら思い出して怒ったり、笑ったり、そういうのを、満足そうにみてる。
あたしが咳すると、すぐに背中をさすって、また話を聞いてくれる。
「あたし、あなたが、好き」
いきなり言ってみる。
あいつは、最初真顔になって。
すぐにいつもの笑顔になって。
あたしの頭をなでながら。
「俺も。ありがとね。好きでいてくれて」
本当に、好きだなぁって。
思ったんだ。
毎日急かされているみたいな、時間の流れの中にいるあたし。
たまの休みだからって、あれしなきゃ、これしなきゃって、いっぱい用事を詰め込んじゃって。
そういうの、あいつは知ってて。
こういうゆっくりな時間をくれて。
あたしは、あなたが、大好きです。
あなたも、あたしを、大好きでいてくれて。
ありがとね。
学芸会。
あいつに送ってもらって、来た。
「平気?ふらふらしてない?」
「うん、ありがと。平気だよ」
「じゃー、俺、その辺のファミレスかなんかで待つから。終わったら連絡ちょうだい」
あたしが知らない学校。
ここで、子供たちは勉強したり、友達と話したりしているんだなぁと。
あたしが知らない生活をしているんだなぁと。
門をくぐる時、思った。
あたしは、会場の一番後ろの席に座った。
だんな様は・・・と見回すと、見つからなかった。
そうだよね、こんな人ごみの中。
次女の劇が始まって。
あたしは、食い入るように見てた。
そのとき、「あ、○○(次女の名前)ちゃんだ!」と言う声がすぐ近くでした。
え?と思って、声の方を見ると、ライラがだんな様に抱っこされて見てた。
こんな近くにいたんだ・・・
あたしは、すぐ近くだし、声を掛けようか悩んだけど、約束だし、やめておいた。
見つからないように、場所を移動した。
向こうからは見えそうもない場所から、次女とライラを見てた。
長女の劇は次女のすぐ後だった。
だんだん飽きてきたライラを、だんな様がなだめたりしてた。
ああ、そんなときは、ライラの好きなタオルを持って来てれば、おとなしくなるのにぃ・・・とか、あたしは、はらはらしてみてる。
劇も終わって、全校生徒で合唱をした。
大きな古時計。
この曲、流行っているもんね・・・
終わりの言葉を代表の子が言って、父兄たちも出て行く。
あたしは、ボーっとしたまま。
立ってた。
1ヶ月ぶりに会った(見た)、子供たちは。
たった1ヶ月なのに、凄く成長したように見えた。
声を掛けられなかった事は、残念だけど。
会えただけ、写真じゃなく、実物にあえただけ、感謝しよう。
あたしは、車に乗り込むだんな様に、遠くから「ありがとう」って、心の中で言った。
家に帰る途中、だんな様から電話が来た。
「見れた?」
「うん」
「ライラも、見れたでしょ?」
「うん・・・知ってたんだ?」
「わざと、りりかの傍に行ったんだよ。でも、ライラには気づかれない程度の距離に」
「・・・そうだったんだ、ありがと」
「まだ、やっぱり会わせられないよ。整理がつかない」
「うん、分かってる」
「悪いな」
「ううん・・・」
悪いのは、あたしだもん。
謝らないで、ください。
あなたは、当然の事をしたんだから。
あたしが逆でも、同じだよ。
むしろ。
そんな、優しい言葉、掛けられない。
わざと、近くに来るなんて、そんな優しさ、あたしにはない。
電話を切った後、不思議な、気持ちになった。
あたしは、充分。
幸せなんだって。
なんとなく、そう思った。
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