横縞日記
kyo-ko



 『プライベート・ジムナスティックス 全3巻』 藤たまき

以前に1,2巻をさらっと読んだ時は、
スケートを舞台に恋をする少年達のイチャイチャ物語(笑)
だと思っていましたが、読み返したら全然違いました。
3巻を読む前に、もう一度読み直して良かったです。

一言で言うと、とにかくすごいです。圧巻です。
3巻もの長さ(と言っても分量的には4巻くらい)を、
ここまで延々と心理描写だけに絞って
描いたBLは初めて読みました。

主人公二人も成長しているので、環境が変わったり、
周囲で色々なことが起こったりはしますが、それでも。
二人を邪魔するライバルが現れるでもなく、
どちらかが死にそうになったり
自殺未遂をするでもなく(苦笑)、
ごく普通の日常・毎日を淡々と描いてあります。
(スケートというのが特殊ですが、それ以外は本当に普通)

主人公の甘夏(カンナ)も普通の少年で、だからこそ、
セラという少年を好きになり、
身体を繋げてしまったことで悩み苦しみます。
それはもう、こんなに悩まなくてもいいんじゃないか、
というくらいに。

最近のBL世界では、
男同士のタブーなんて問題にされなくなっちゃって、
当たり前のようにイチャイチャしている作品が多い中で、
あくまでも「否定的」なスタンスを
貫き続けているのが驚きですね。

カンナも、そしてセラもひたすら子供なのです。
自分のしたことに責任を持てない「子供」でありながら、
お互いに愛し合ってしまい、
お互いを欲しいと思う気持ちが高まっていき、
情熱の赴くままに、流されるように
身体の関係を持ってしまうのですが、
それがますますカンナを悩ませることになります。

これはいけないことだ、という自覚はあり、
止めようとも思うのだけれど、
それが止められないのが恋であって、若さである訳で。
苦しみもがきながらも、恋を捨てることも出来ない。
別れよう、と思っても、会ってしまえば愛しさがつのる。
そんなカンナの葛藤や悩みが延々と綴られています。

それでも生きるの死ぬのと大騒ぎしないのが、
これまでの藤たまき作品と違うところでしょう。
カンナが日本人だというのも関係しているかも。
相手のセラは外人だからか、
あまりタブーという意識もなくて、
二人の関係がバレたって構わない、何も恥じることはない、と
あっけらかんとしているから余計なのでしょうね。

純粋で無邪気で真っ直ぐなセラに、
嘘をつかせて隠し事をさせて苦しめているのは自分なのだ、と
カンナが追いつめられてしまう原因になってしまうのです。

出口も見えない暗闇の中で彷徨っていたカンナですが、
自暴自棄にならずにいられたのは、スケートがあったから。
舞台がスケートだという意味はあるの?雰囲気だけ?
と、最初は首をかしげていましたが、最後まで読んでみると、
この作品にはスケートが必要だったのだな、
と改めて思わされました。

そしてBLを読んでいてたまに思うことの中に
「これって男同士である必要はないんじゃない?」
というのがありますが、この作品は違います。
これは男同士ではなくてはならなかったのです、どうしても。
同性ゆえのタブーであり、罪の意識であるのですから。

昔のBLには割とこういう作品もあったような気がしますが、
最近はただイチャイチャラブラブしている作品が多い中で、
(そういうのも好きですが)
よくぞ描き切ってくれた、と感動すら覚えました。
脇役が良い味を出していて、
必要以上に悲壮な雰囲気にならなかったのもヨシ。

延々と書いてきましたが、
私の拙い言葉では表現しきれないので、
シリアスなBLが好きな方はぜひどうぞ。


2003年09月01日(月)
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