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鈴木君たちのシュールな一日
信井柚木
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2003年02月02日(日)
「学園祭」編(高二)  その7 <・・・リンゴ?>


「白雪姫がお城を脱出して、森の小人と親睦を深めている頃〜。
 お城のおきさきサマは、白雪姫が逃げたことに気付いてなにやら考え込んでましたー。
 ていうか、オウサマは何してるんだろう・・・ねぇ、おきさきサマ?」

 もはやおなじみと化したナレーションの問いかけに、ステージ上をずんずん歩いていた継母鈴木はピタリと止まり振りかえる。

「俺に・・・いや、わたしに尋ねられてもな。
 多分仕事三昧なのだろう。
 気を付けないと、うっかりと家庭崩壊の危機だな」
「あはは、ホントだねー!」

 真面目くさった答えを返す「継母」だが、間違っても ―― 、

「ふむ。可愛い娘を抹殺しようとしている継母の言うセリフではなかったかもな」

 ・・・自覚はあったのか、珍しく。
 というか、既に『崩壊』している気もしないではないが。

「あはははは、それもそっかー。
 で、白雪姫、森に逃げちゃったけど、おきさきサマどーすんの?」
「そうだな・・・ここで諦めてみるのも一興だが、それでは話が続かないか。
 止むを得まい。
 ちょうどいいから実験台になってもらおう。この・・・毒リンゴの」

 継母はそう言って、すちゃっとリンゴを取り出した。
 実験台というあたりがなんとも彼ららしいが、どうやら白雪姫「らしい」展開に突入しつつある模様。
 感心したような「おおーっ」というナレーションの声に和するように、観客席からも「おおーっ」とどよめきが起きた。
 この場合、言葉は同じだが意味がまるで違うのは当然ながら。
 だが。
 ここで普通に終らないのが「二年五組の鈴木」である。

 鈴木が高々と差し伸べた時には、間違いなくソレは普通のリンゴだった。
 小道具担当が近くの商店街で購入してきた、籠一山三つで200円のごく普通のリンゴである。
 それが。

 シュワシュワシュワ・・・。

「・・・」
「あっれぇー?」

 スポットライトを浴びた鈴木が掲げている間に、リンゴから謎の煙が立ち上っている。
 三つ200円のリンゴは、観客と白雪姫を始めとするクラス全員の目の前で、謎の物体へと変貌を遂げ始めていた。

「・・・・・・おや」

(おや、じゃねぇぇぇぇぇぇ!!!)
 舞台袖の白雪姫は、いつもと変わらぬ表情で手の中の(元)リンゴを眺めている輩を、よっぽどドツキに行こうとして・・・ぐっと思いとどまった。
 ここで自分が飛び出しては、今まで以上に劇が崩壊する。
(・・・俺は見てない、なにも聞いてない・・・!)
 頭を抱えて、必死で見ないふり聞かないふりをしているそんな白雪姫佐藤の努力を、継母鈴木は木っ端微塵に粉砕する。
 継母は、色も形もリンゴとかけ離れつつあるそれを眺め、ふっと息を吐いた。

「・・・何か思ってもいないものになりつつあるようだが・・・まぁいいか。これを食べさせれば、白雪姫もきっとイチコロ」

 おい。

「よし、いい具合に道具も整ったことだし。
 少しばかり森へと出かけてこよう。結果がどうなるか楽しみだな」
「・・・そうだねぇーどうなるんだろうねー。
 ていうか、ホントにイチコロになりそうで怖いかもー、あはははははは」

 さすがに急激に温度の下がった体育館の空気を撹拌するかのように、からりとしたナレーションの笑い声だけが響き渡った。
 ・・・・・・・。
 舞台袖には、蒼白になった『美少女』が約1名。
「・・・笑い事かよ、オイ。
 ていうか、マジであれ使う気なのか、あいつはーー?!!」

 (いつ終るんだ)