2007年11月08日(木) |
ビートルズの「赤盤」、そして… |
この二枚組のセットを手にしたのは何年前になるのだろう。 「ベストアルバム」というものを一度も出したことのないまま解散したビートルズの、解散後の1973年に出された公式の最初のベストアルバムである。(ビートルズは1970年に解散した)
現在ではアルバムに入っていなかったシングルばかり集めたコンピレーションはじめ、様々なセレクションが為されたベストアルバムがリリースされているけれど、ぼくにとって(そして、たぶん多くのビートルズファンにとって)ビートルズの「ベストアルバム」といえば、「赤」の二枚組と「青」の二枚組である。 (それぞれ「赤盤」「青盤」とファンの間では呼ばれている)
「赤盤」は1962年から1966年までの、「青盤」は1967年から1970年までの代表曲が収録されている。発売当初はあれが入っていない、何でこの曲が入るんだ、とずいぶんぶつぶつ言っていたような記憶があるけれど、その後はさらりとビートルズを聴きたいときはこのベストを聴いていた。
ジャケットが秀逸なのも見逃せない。EMI本社ビルの同じ場所から下を見下ろす四人。同じポジション、同じポーズ、同じアングル、カメラマンも同じである。 赤盤の写真が1963年、青盤が1969年。6年の時間が二つの写真の間に流れている。時間が「見える」ような、そんな感慨にふけることができる。 CD化は1993年だった。ぼくはアナログから即座に乗り換えた。
今回、「赤盤」のことを書こうと思ったのは、もちろん最近よく聴くからなのだけれど、それは先月、故人の車の中からビートルズのバラードばかり集めたCDが見つかったからなのだ。
ちょうどビートルズのメンバーと年齢が重なる故人は、ぼくに対してはビートルズなんて聴いていないように振る舞っていたのだけれども、車の中で一人、聴いていたのだ。 つまり、そのCDが引き金になって部屋でビートルズをかけることが増え、その中でもっともよく流れているのが「赤盤」そしてぼくの好きな「リヴォルバー」というわけなのだ。
ずっと小説と詩を書き続けてきていて、今回のことは正直かなりこたえた。二度と書けない、と思うほど書くことを忘れた瞬間もあった。それでもなんとか「おとなのコラム」の連載は書くことができたけれど、まだまだ不安定な状態が続いていて、最近ようやく、リズムを取り戻しつつあるかな、という感覚が戻ってきているところである。
時間が経過したことがもちろん大きな要素だけれど、ビートルズの曲たちが後ろから押してくれたこと、つまり書くことに向かう大きな力になった。 明日の連載のタイトルはビートルズの曲からの引用である。
それともう一つの重要なポイントは 村上春樹「走ることについて語るときにぼくの語ること」だ。 このエッセイにはとにかく励まされる。そして説得される。学ぶことがたくさんある。 走ることについて?もちろんそれもそうだけれど、小説を書くことについての彼なりの矜持が余すところなく披瀝されているからだ。今、この時期にこの本に出会えたことに感謝したい。 ブルースばかり聴いていたぼくをビートルズに向きなおさせた「何か」にも、もちろん。
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