周回遅れに気をつけろ!
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2003年02月20日(木) |
子供の頃の記憶「チハラさん」(後編) |
昨日の続きです。
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1日の保育時間が終わり、 帰りのバスが来る時間になると、 保母さんが呼びに来る。 保育園からバス停までは、子供の足で 5分くらいかかったんじゃなかったかな。
田舎の赤字路線。 一時間に1本しかないので乗り遅れたら大変だ。 遊びに夢中になる子供をかき集めるのは、 さぞかし大変なことだっただろう。 そして、バス通園の子供達を集める時に、 保母さん達が叫んでいた言葉は 「チハラさ〜ん!、バスですよ〜!」だった。
バス通園の子供達が降りるバス停である茅原沢[チハラザワ]。 途中のバス停で乗り降りする園児はいないので、 バスで通ってくる園児のことを、 「チハラ(ザワのバス停で降りる、 茅原沢方面に向かうバスに乗る園児の皆)さん」 略して[チハラさん]と呼んでも、 何の問題もないはずだった。
しかし、子供の私には その略されている部分が理解できず、 毎日問題なく帰れているにも関わらず、 実は独り不安にかられていたのだ。
[チハラさん]と言えば普通、 茅原沢に住んでいる人の事なんじゃないのかな?。 ボクが住んでいるのはその隣町[オイダイラ]だ。 そのボクが[チハラさん]のための バスに乗って大丈夫なのだろうか? 今までは、たまたま大丈夫だっただけで、本当は、 ボクは毎日間違ったバスに乗っているのかもしれない。 もしかしたら[チハラさん]のバスの他に、 [オイダイラさん]のバスもあるのでは?
それともボクはず〜っと[オイダイラ]に 住んでいると思っていたけど、 実はここは[チハラ]だったのだろうか?
そんな疑念を抱きながらも 「チハラさ〜ん!、バスですよ〜!」と呼ばれたら、 皆と一緒にバスに乗って帰っていた。
しかしある日、私は意を決して母に聞いてみた。 「お母さん、ボクが住んでいるのは [チハラ]じゃないよね?[オイダイラ]だよね?」 私が何を考えていてこう聞いたかを知る由もない母は、 もちろん「そうよ」と答える。 だがこれで、私の中での疑問は確信に変わった。 やっぱりそうだった。ボクは[チハラさん]ではなく [オイダイラさん]なのだ。
そして次の日、私は重大な決意を持って登園した。
いざ帰る時間になって、保母さんはいつものように 「チハラさ〜ん!、バスですよ〜!」と呼び掛ける。 しかし、私は動こうとしなかった。 保母さんが心配して直接呼び来る。
「バスが来るよ。早くしなきゃ。」 「でもあれは[チハラさん]のバスでしょ?」 「そうよ。」 「ボクは[チハラさん]じゃないから、乗らない。」 「何言ってるの? あなたは[チハラさん]でしょ? あのバスに乗らなきゃ。」 「違うもん。ボクは[チハラ]じゃないもん。 [オイダイラ]だもん。」 「???[オイダイラ]は[チハラさん]でしょ?」 「[オイダイラ]は[オイダイラ]じゃん。 [チハラ]じゃないじゃん。」 「そうじゃなくて・・・」 「ボクは[チハラ]じゃないから [チハラさん]のバスは乗らない。 [オイダイラ]のバスに乗るんだ!」
バスの時間がせまり、焦っている保母さんは、 私が理解できるように、順を追って説明する余裕がない。 なぜ突然私が[チハラさん]じゃないと 言い出したか分からなくて、困っただろうなぁ。 いやぁ、申し訳なかったです。
そんな私を残し、他のみんなはバスに乗って帰って行った。 電話で連絡を受けた母が車で迎えに来るまで、 鉄棒につかまって泣きながら、 「ボクは間違ってない。 だってボクは[オイダイラ]だもん。」 と言い続けた私。
真っ赤な夕焼けの空と、寺の森に集まってくる カラスの鳴き声とともに、 強烈に印象に残っているできごとだ。
と、きいちさんのネタを読んだ時に このエピソードを思い出しましたとさ、という話。
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