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斜めうえ行く「オクノ総研 WEBLOG」

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2005年04月20日(水) 放送と通信の融合を斜めうえに考える

放送と通信の融合を斜めうえに考えてみたい。
「インターネットと放送の融合論」には、いくつかのパターンが存在する。

■テレビ側からのアプローチ
−テレビにブラウザを搭載し、番組と連携
−テレビ動画をインタラクティブにする(BML[Broadcast Markup Language]など)

■インターネット(PC)側からのアプローチ
−インターネットで動画配信(ストリーミング、ダウンロードなど)
−インターネットから放送への誘導(EPGなど)

どれにしてもあまりしっくり来ない。
テレビ側からのアプローチは、せいぜい番組に関する詳細情報を得る事、とかコマースに結びつけるとか、アンケートによる番組参加程度。
テレビの前でパソコンを開いてGoogleで検索しながら見るほうが効率的だ。
テレビのリモコンでおたおたと操作するよりもPCのほうがずっと楽に操作できるし、テレビの画面がマルチウインドウになると画面が見づらくなる。
テレビにブラウザを搭載させるよりも、テレビとは別にブラウザがあったほうが現実的には使いやすい。
よって、この領域は死屍累々であり、成功事例はない。

インターネット側からのアプローチは、ニーズとして存在するだろう。
テレビはコンテンツの宝庫である。
テレビの放送コンテンツがアーカイブされ、過去のコンテンツも含めて視聴できるようになれば、便利だと思う。
だが、現実にはうまく行っていない。
理由としては、著作権の問題が大きいとされる。
放送コンテンツには通常の著作権に加えて、著作隣接権が存在する。
CXがLDにネットで自社コンテンツを流す事を拒絶する際の最大の言い訳でもある。
でも、これは処理が面倒くさい、というだけの話であり、ちまちまと人海戦術で権利処理を行うこと、番組制作時に関係者と隣接著作権に関するきちんとした契約を交わしておけば、いずれは何とかなる問題だ。

なので、今回は斜めうえの視点。
民放のテレビ放送は、広告収入で成立しているので、本来はネットで流せるものであれば、いくらでも流したいはずだ。
広告主にとっても、ネット配信時に視聴者のドメイン等から判断して、最適な広告を挿入して流せるはずだ。
プロバイダのアクセスポイントから視聴者の居住地域も特定できる。
ある程度の属性データも組み合わせることができるはずだ。

ところが、現実には放送コンテンツはネットには流れない。
著作権処理に加えてもうひとつの理由は、インターネットによる映像コンテンツの配信はインターネットの構造上、そもそも「ブロードキャスト」には向かないからである。
インターネットのしくみ上、トラフィックはあちこちのサーバーをルーティングするので、リッチコンテンツがそのまま流れてしまうと、インターネットの全体的なパフォーマンス低下を招く。
コンテンツそのものも帯域が確保されないと、きちんと再生できない。
traceroute(tracert)を使ってコンテンツのトラフィック経路を調べてみれば、多くのサーバーを経由していることがわかる。
マトモに動画コンテンツを配信しようとしても、インターネット網は現時点ではリッチコンテンツの配信に耐えられるだけの帯域、容量を持っていない。

よって、動画配信を行うためには、インターネット網を使わず、ウォールドガーデンと呼ばれる専用網を使う事が現実的だ。
NTTが提供するフレッツ網などもその一種だ。
フレッツユーザーは、インターネット網ではなく、フレッツ網を使ってNTTが提供する動画コンテンツを視聴するようになっている。
IP電話も同じだ。
IP電話も動画配信と同じく、インターネット網を使わずに専用線網を使うことにより、帯域を保証している。
ちなみに、SkypeはP2Pなので、意味合いが異なる。

ウォールドガーデンではなく、通常のインターネット網を使って動画を配信しようとするならば、CDN(Contents Delivery Network)を使う。
CDNとは、乱暴に言ってしまえば、コンテンツを配信サーバーから直接配信するのではなく、キャッシュサーバーとして分散配置されたサーバーから配信するしくみである。
コンテンツを一カ所のセンターから流すのではなく、分散配置されたキャッシュサーバーから配信する。
センターからキャッシュサーバーへの配信は衛星等を使う。
コンテンツをエッジ、ユーザーに近いところに寄せることにより、無駄なトラフィックを軽減させる。
コンテンツ配信は、エッジに近づけば近づくほど、キャッシュサーバーの数は増えれば増えるほど効率が良くなる。

では、究極のエッジサーバーは何か?と考えてみる。
それは、ユーザーのHDDである。
究極的には、コンテンツはユーザーのHDDに蓄積されているのが最も効率的だ。
HDDのコストは恐るべき勢いで下落し、大容量化を続けている。
ローカルのHDDにコンテンツをキャッシュしていけば、インターネットのトラフィックを無駄に混雑させることはない。
混雑どころかトラフィックは発生しない。

逆説的に言えば、放送のローカルのキャッシュサーバーはHDDレコーダーである。
HDDレコーダーはあっという間に普及してしまった。
放送と通信がどうやって融合しようか、とゴチャゴチャ議論している間に、究極のエッジサーバーであるHDDレコーダーのほうが先に普及してしまった。
コンテンツ配信にインターネットを使わないただのHDDレコーダー。
僕はHDDレコーダーを使用し始めてからそろそろ3年になる。
ネット配信を待つまでもなく、自宅のHDDにはコンテンツが満載だ。
テレビの放送時間を一切気にすることなく、いつでもテレビを見ることができている。
タイムシフト視聴は日常だ。

テレビ局とネット企業がごちゃごちゃと揉めている間に、HDDレコーダーが先に普及してしまった。
既にオンデマンドなんだから今更放送コンテンツのネット配信はいらない。
音楽配信だってそうだ。
日本の音楽レーベルがごちゃごちゃと言っている間に、僕は、さっさとMP3ファイルを一万曲以上溜め込んでいる。
ネットによる音楽配信サービスが始まっても、時既に遅し、である。

コンテンツプロバイダにとっての「当面の敵」はネットではなく、HDDだ。
そして、それは既に普及してしまっている。
HDDレコーダーによりオンデマンドは実現されている。

放送のビジネスモデルは、ネットよりも先にHDDにより殺される。
HDDレコーダーによるタイムシフト視聴は、もはや避けることができない。
タイムシフト視聴が避けられないのであれば、放送局は、タイムシフト視聴をポジティブに受け止め、タイムシフト視聴を前提とした放送形態に移行せざるを得ない。
これは既に起こってしまった事であり、流れには逆らえない。
最悪の事態は、放送局が、音楽配信と同じく流れに逆らったプロテクトなり圧力をかけて自滅に向かう事だ。
流れに逆らう事は長期的には自滅行為でしかない。

タイムシフト視聴は、CM飛ばしと、テレビ放送の編成に大きな影響を及ぼす。
広告収入で成立している民放のビジネスモデルを破壊し、時間帯によるCM枠の料金体系も崩してしまう。

だが、放送局はタイムシフト視聴をポジティブに受け取らなくてはならない。
もはや避けられないのであれば、タイムシフトを前提とした事業形態に移行しなくてはならない。

放送局はゴールデンタイムの価値の相対的な価値低下は受け入れざるを得ないけれど、かつては無価値であった深夜早朝、といった時間帯を価値のある放送時間として得ることができた。
ゴールデンタイムなど一日24時間のうちのほんの数時間に過ぎない。
タイムシフト視聴により、24時間がゴールデンタイムになる可能性だってある。
午前4時、午前5時といったほとんど無価値であった時間帯をビジネスに変えることができる。
ポジティブに考えれば、放送帯域、チャンネルが数倍に増えたことと同義である。

タイムシフト視聴の普及のせいか、深夜帯にアニメ番組が増えた。
リアルタイムで深夜にアニメ番組を見ている視聴者は少数だろう。
多くの視聴者は、録画して後から見る視聴者だと推察する。
放送局もタイムシフトを前提とした放送形態を模索しているのだろう。

テレビ番組、なかでもCMの制作方法に対する考え方は、大きく変わらざるを得ない。
HDDレコーダーによるタイムシフト視聴者は、CMを早送りもしくは、スキップする。
早送りが前提なのであれば、早送りで見ても広告効果があるCMが必要となるだろう。
スキップされるのであれば、スキップされないCM作り、番組内へのCM入れ込みが必要だ。
番組内容と強く連動したCM作りも欠かせない。
スポンサーも高視聴率番組だからというだけで広告出稿してももはや意味がない。
プロダクトプレースメント広告も増えていかざるを得ない。
広告効果を視聴率で計る時代は終わった。

インターネット企業と放送局が、ごちゃごちゃと揉めている間にもHDDレコーダーは普及し、HDDの価格は低価格化、大容量化を続ける。
HDDレコーダーの普及は、逆説的に放送コンテンツのネット配信の促進要因となるだろう。
ユーザーの自宅のHDDが大容量化し、コンテンツが蓄積され続けていけば、放送局によるネット配信の意味あいは薄れてしまう。
だったら、ユーザーの自宅HDDに保存されていないであろう過去のアーカイブをネットに解放したほうがいい。
有料でアーカイブを提供すればいい。
逃げ道はない。
放送局は、ウォールドガーデンを提供するプロバイダにコンテンツを開放すべきだし、CDNを活用してコンテンツを配信すべきだ。

僕にとっては、インターネットと放送の競合、あるいは融合は、重要な論点を踏み外しているように見える。




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