斜めうえ行く「オクノ総研 WEBLOG」
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2005年02月05日(土) |
グローバルマーケットと日本マーケットの乖離 〜携帯電話編 |
最近思う。 テクノロジー領域において、グローバルマーケットと日本マーケットの乖離が進行しつつあるのではないかな、と。 コンピュータ業界は、ハードウエア、ソフトウエア、サービス領域の全てにおいて、完全にグローバル化が定着した。 逆に言えば、日本は完全に敗退した、ということでもあるのだけれど。 だが、携帯電話、デジタル家電領域では、グローバルマーケットと日本マーケットが乖離しつつあるように見える。 もともと、日本は独自文化の強い国だ。 だけど、ここ何年かの間、世界のありとあらゆる文化は「米国スタンダード」を「グローバルスタンダード」と置き換えて均質化してきたかに見える。 ビジネスの世界でも、完全にグローバル化(米国化)が浸透している。 いささか、浸透しすぎた感もある。
ところが、ここに来て、あれれれれ?と思うことが多くなってきた。 携帯電話とデジタル家電領域におけるグローバルマーケットと日本マーケットがどんどん乖離してきているような気がするのである。 日本のマーケットが特殊化しつつあるように見える。
まず、携帯電話に関して。 世界の携帯電話マーケットは、大きく分けると3つである。 「米国」、「EU+その他」、そして「日本」。 2Gの技術で、おおざっぱに分けると、「CDMA」、「GSM」、「PDC」だ。 3Gが中心になると、基本的に世界はほぼ同じになる「はず」なのだけれど、2Gの時代に作られてしまった事業構造が日本と日本以外の地域では根本的に異なる。
2Gで日本以外の地域は、SIMカードを採用し、携帯電話事業のネットワーク、プラットフォーム、端末を分離した。 それに対し、日本では携帯電話キャリアが、ネットワーク、プラットフォーム、端末までの全てを支配する垂直統合モデルを採用した。 日本以外の国では、携帯電話キャリアは、あくまでもネットワーク事業者。 端末メーカーは、端末メーカー。 それぞれが独立して事業を行っている。
日本は、携帯電話キャリアが携帯電話事業の全てのバリューチェーンを握っているため、携帯電話キャリアだけの判断で、ネットワーク、プラットフォーム、端末を連携させた高度なビジネスを迅速に展開できることになった。 それに対し、日本以外の地域では、ネットワーク、プラットフォーム、端末はそれぞれ別の企業が担当するため、それぞれが緊密に連携した進化は難しくなった。 結果として、日本の携帯電話文化は、恐るべき速度で独自の異常進化を遂げることとなった。
日本はキーボード文化の国ではない。 多くの日本人にとって、最初に触るデジタルデバイスの入力機器は、PCのキーボードではなく、携帯電話のキーボードだった。 日本以外の地域においては、「PCから携帯電話」だったのに対し、日本では「携帯からPC」である。 携帯電話、先にありき。
日本におけるインターネットは携帯電話を中心に、独自に進化していった。 携帯電話は、話すためツールから、電子メールになり、ウェブブラウザになり、ゲーム機になり、音楽再生ツールになり、サイフになり、テレビになり、鍵になり。 日本人の好みに合わせて、恐るべく速度で、独自進化を遂げてきた。 これほど高速で親指を使ってメールを打てる国民、携帯電話をカメラとして常用している国は珍しいだろう。
結果として、日本と日本以外の携帯電話マーケットは、どんどんと乖離していった。 アプリケーションだけではなく、ユーザーインターフェイス、利用方法もどんどんと乖離していく。 主要な端末メーカーも日本と日本以外の国では、全く異なる。 グローバルマーケットVS日本マーケット。 60億人 VS 1億人。 日本の端末メーカーは、日本で培った技術やアイディアをグローバルに展開できないでいる。
ひとつには、日本の携帯電話端末そのものが日本人の好みに合わせて独自進化してしまったことであり、もうひとつは、日本の携帯電話上のアプリケーションが、キャリアが独自に提供するネットワーク、プラットフォーム、端末に大きく依存し、それぞれが緊密に連携しているからである。 日本は、高度に進化した携帯電話文化を持ちつつ、海外に展開することが難しい。 そもそもの事業構造が根本的に異なっていたのだ。
そして、今も日本の携帯電話は、独自の進化を続けている。 それは、日本のキャリア、端末メーカーの海外進出を阻むとともに、海外の携帯電話キャリア、端末メーカーの日本市場への進出も阻んでいる。 もともとは事業構造、文化の問題から端を発しており、誰の責任でもない。
3Gが普及し、ナンバーポータビリティーが始まると、日本の携帯電話の事業構造は、必然的に日本以外の国と同じになる。 まず、3Gになることにより携帯電話の技術的な要素がほぼ同じになる。 そして、ナンバーポータビリティー。
ナンバーポータビリティーが始まると、ユーザーは携帯電話キャリアを電話番号を変えることなく、気軽に乗り換えることができるようになる。 そうすると、ユーザーは携帯電話キャリアを乗り換えるに当たって、従来慣れ親しんできた通話以外のサービスも同様に受け続けたい、と考えるだろう。 携帯電話端末だって、新たに買い換えることなく、従来の機種を使い続けたい、という人も出てくるだろう。 そうすると、必然的に特定の携帯電話キャリアのみで展開される独自サービス、独自端末は淘汰されることになる。
携帯電話キャリアからすれば、既存ユーザーの離反を防ぐため、逆に独自サービスを増やし、ユーザーの「囲い込み」に走るだろう。 これから日本の携帯電話業界では、キャリアを変更してもサービス、端末を継続利用したい、というユーザーの意志とキャリアによる囲い込み戦略のせめぎ合いが始まる。
そして、最終的には、ユーザーが勝利する。 キャリアがいくら囲い込みを行おうとしても、ユーザーの意志に反する事はできない。 いずれ、日本の携帯電話ビジネスは、キャリア主導ではなくなる。 携帯電話ビジネスのネットワーク、プラットフォーム、端末ビジネスは切り離され、携帯電話キャリアは、独自サービスの展開が困難になる。 携帯電話ビジネスは、PCと同じくオープンとなり、オープンプラットフォームのなかで、様々な事業者がプラットフォームや端末を独自に展開するようになる。
と、なると将来は、日本と日本以外の地域の携帯電話ビジネスの事業構造、技術はほぼ同じになるはずだ。 だがその時点でも、日本の携帯電話は日本以外の地域と比較して、圧倒的に進化したものであるだろう。 一方で、日本の携帯電話は、単なる異常進化種として、グローバルスタンダードから無視される可能性もある。
日本の異常進化した携帯電話は、グローバルスタンダードになれる可能性をまだ持っている。 いずれ、世界中の携帯電話ビジネスは、同じ構造になる。 現在、日本と日本以外の地域の携帯電話は、どんどん乖離の方向に向かっている。 だが、いずれは技術、事業構造ともに同じになるのだ。 携帯電話にかかわる日本企業は、コンピュータ業界で味わった屈辱を跳ね返すべく、今から周到な戦略を検討しておくに超したことはない。
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