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2005年02月01日(火) 「一太郎」判決をきっかけにソフトウエア特許の議論を高めよう

僕は「一太郎」判決をきっかけになり、ソフトウエア特許に関しての議論が日本の一般消費者も巻き込んで、盛り上がっていくことを期待している。

僕は、ATOKユーザーである。
一太郎、花子は使ったことがない。
僕の日本語力はめちゃくちゃなので、ATOK(共同通信記者ハンドブックつき)がないと、文章が書けない。

僕は、今回のジャストシステムに対して出された「製造・販売の中止と製品の廃棄」という判決に関して「個人的には」妥当だとは思わない。
ジャストシステムは控訴して当然だと思う。
だが、一方で、松下電器を批判するつもりは毛頭ない(「毛頭ない」という表現は差別用語なのだろうか?)。
ジャストシステムの控訴も松下電器の訴訟も両社ともに当然の行為だと思う。

今回の問題となった特許は、いわゆるソフトウエア特許である。
当該特許の出願時期は1988年であり、ソフトウエア特許に関する議論が今ほど盛んではなかった時期である。
今、このようなレベルのソフトウエア特許を出願しても、成立は困難だろう。
だが、現実には、日本だけではなく、海外でも「こんなの誰だって思いつくだろう」というような陳腐レベルの特許は数多く成立している。

このような既に成立してはいるが、あり得ない特許に関しては、裁判により再判断を行う事は珍しいことではない。
ソフトウエア特許、ビジネスモデル特許は、解釈が難しい。
国によっても解釈が異なるし、特許の審査官レベルでさえ解釈は異なる。
特許がたとえ既に成立していようとも、裁判により成立特許に対して異議申し立てを行うことは決して珍しいことではない。
特許侵害で訴えられた側の企業が、異議申し立てを行ったり、逆提訴することも日常茶飯事である。

今回の事件は、たまたま「一太郎」という超メジャーソフトが対象であり、判決が「販売中止、在庫廃棄」という、厳しいものであったため話題になってしまった。
ジャストシステムは、控訴を行うべきだし、松下電器も自社の知財保護に努めるべく堂々と戦うべきである。
現行の特許、知財に関する法律、なかでもソフトウエア特許、ビジネスモデル特許に関する解釈は、不完全だ。
そして、「個別の特許」においてもそれぞれ解釈は異なる。
だからといって、特許法および特許庁の審査官に完全性を求める事にも無理がある。
ソフトウエア特許についての議論は、未だ完全な結論は出ていない。
今現在も、あちこちで議論されている真っ最中なのだ。
面倒でも「個別の特許」に応じて、裁判により判断していくしかないのだろう、と思う。

僕は、ジャストシステムの控訴も松下電器の告訴も理に適っている、と思う。
裁判で争えば良い。
ただ、「今回」の裁判の結果を見る限りにおいては、裁判官の判断は正しい、とは思えない。
ジャストシステムの言い分は正しいと思う。
だからと言って、松下電器を非難するのは筋違いである。
ジャストシステムは控訴する、と言っているのだから、決着がつくまで、裁判を続ければ良い。

だが、松下電器は、期せずして消費者の反感を買ってしまった。
一般消費者の目からみて、今回の判決はどうしても「弱いものイジメ」に映ってしまう。
なぜ、訴訟の対象がジャストシステムなのか?
マイクロソフトではないのか?
かつてのソーテック集中攻撃にみられるように、松下電器の訴訟対象企業は、法務部門が弱い企業を狙い撃ちしているように見うけられる。
とりあえず法務部門が弱そうな企業を吊しあげて裁判に勝った実績を作り、同様の特許侵害を行っている企業をけん制しておこう、という作戦に見える。
ずるく見えるが、これは資本主義社会における私企業にとっては当然の権利であり、戦略なので、外部からどうこう言う筋合いのものではない。

松下電器にとっての誤算は、消費者やマスメディアが予想外に松下電器を悪者に仕立て上げてしまったことだろう。
松下電器製品の不買運動すら始まっている。
消費者もマスメディアも脊髄反応しすぎ、の感がある。
これは、民事裁判であり、議論の場が裁判所、というだけの事なのだ。

企業が、特許を取得する目的をいくつかあげる。

①知的財産権による収益
ごくごく一般的な、企業の特許戦略。日本のような資源もなく、労働コストも高い国は、知的財産権でしか収益を上げられなくなりつつある。企業にとって知的財産による収益増を狙うのは、当然の流れである。

②他社が特許を出願してきた場合の防衛
企業は、必ずしも特許により、収益を上げようとしているわけではない。オープンソース的にライセンスフリーで自由に使ってもらってもよい、と考えている特許も多い。これらは、競合他社が先に特許を出願し、自社が特許侵害になることを恐れるために出願される。先日のIBMやSunのように取得済みの特許をオープンにします、と宣言するケースもこれに近い。デファクトスタンダードを狙い、かつライセンス料を求めない、という戦略も多い。

③出願して競合をビビらせる
成立前の出願特許を見ていくと、どう考えても成立しないと思われる特許が多い。これは、出願した企業側も成立するとは考えていないケースがある。特許は出願すると、一定期間を経て公開される。特許は出願しても成立するとは限らないが、特許の出願情報は公開されるので、競合企業に対して、脅威を与えることができる。だが、逆に特許を出願することにより、本命の戦略も外部に公開されることになるので、その両者を天秤にかけて検討することが必要となる。

僕は、特許、そのなかでもソフトウエア特許、ビジネスモデル特許に関する議論が、これを機に一般消費者のなかでも高まる事を期待している。
企業にとって、特許戦略、知財戦略は非常に重要である。
だが、法整備は、現実に追いついてはいない。
逆に言えば、法整備は現実に永久に追いつけないのかも知れない。
法律はテクノロジーの進化の速度に追いつけない。
法整備を待つ事よりも、どんどんと裁判により、判例を作っていく事が必要なのではないか、と思う。

特許侵害をされた企業は、どんどん訴訟を起こすべきだし、訴えられた企業は異議があるのなら受けて立つべきだ。
そうやって、議論が高まっていく事を期待したい。

■「一太郎」判決の衝撃
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0502/02/news080.html
■オープンソース界の大物らがソフトウェア特許を酷評
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0502/02/news104.html




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