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2003年02月28日(金) M&Aは効果よりもリスクのほうが大

僕はこの8ヶ月ほどの間、M&A関連の仕事をしていた。
M&Aの仕事といっても、企業の買収をしていたわけではない。
既に合併が決まった企業をくっつけるための戦略を作っていたのである。

M&Aはコンサルタントにとって、総合芸術的な仕事である。
M&Aはヒト、モノ、カネという企業の3大要素が複雑に絡みあう。
M&Aは買収が決まるまでの、ディールの部分にばかり注目が集まりがちだけれど、コンサルタントにとって面白いのは、企業の統合が決まったあとの実際の統合作業の過程である。
PMI(Post Merger Integrarion)と呼ばれる。
全く異なる企業をひとつにまとめて、1+1を2以上にする作業。

現実世界でのM&Aのほとんどは1+1が1.5くらいにしかなっていない。
統合作業での失敗がほとんどだ。
多くのM&A案件は2つの財務諸表を1つにまとめるだけのものに過ぎない。
特に投資銀行主導の案件はその程度のものだ。

銀行は財務諸表やビジネスポートフォリオ主導でM&Aを考える。
M&Aのディールを検討しはじめたとき、2つの企業を合併させると、大きなシナジー効果が生まれる可能性は大いに存在する。
「きっとこの2つの企業を合併させれば、市場で競争優位を確立し、マーケットを独占できるはずだ」

机上では確かにその通りなのだけれど、企業統合の現実は単純ではない。
ビジネスモデルの違い、サプライチェーンの違い、人事制度の違い、システムの違い、企業文化の違い云々。
現実には企業活動の全ての部分が異なる。
2つの全く異なる企業を、1つにまとめる作業量は膨大。
2つの企業の全てを細部までを含めて洗い出し、異なる部分を統合する。
完全に統合することは、ほとんど不可能であると言ってよい作業だ。
だが、この不可能な作業が企業統合なのだ。

「細かいところは別にいいんじゃないの?」と考えがちだが、現代のビジネスオペレーションのほとんどはシステム化されてしまっている。
システム的に統合するためには、細部まできちんと統合しなければ、ビジネスは動かない。
特にERP的に強く結合されたシステムは、どこか1箇所をいじると、全体に影響をもたらす。
全体最適を狙って完璧に作りこまれたシステムは、ちょっとした変更をも拒否する。

作業だけで済む問題でもない。
工場や支店、製品群なのどの重複するビジネスインフラの整理統合等に目が行きがちだが、それだけではない。
異なる給与体系、人事評価制度をどのようにまとめ上げるのか?
全く異なる企業文化を融合させることは可能なのか?

ほとんどの場合、それらはうまくいかない。
企業の統合の成功事例はとても少ない。
2つの異なる企業を完全に1つにまとめる、なんてことはほとんど不可能に近い。
新聞には毎日のようにM&Aの話題が出ているけれど、統合後に成功した企業はほとんど存在しないのが現実なのだ。
成功確率が少なく、かつ複雑怪奇なプロジェクトだからこそ、僕らに仕事が来るんだけど。

でも僕は、ひとつ前に戻りたい。
M&Aって本当にやる意味があるの?
たぶんM&Aそのものには大きな意味がある。
でも、M&Aに意味があるとしても、企業を完全に統合する必要なんて本当にあるの?

企業統合なんて言わないで、持株会社のもとで別々の2つの企業として財務面だけの統合を行ったり、株を買収して子会社化するほうが、ずっとリスクが少ないと思う。
無理に企業をくっつけても得るものは少ない。
どうせ、財務諸表を連結して、ビジネス領域での重複をなくし、シナジーが出ればいいだけなのだから、大きなリスクをとって、企業のオペレーションまでを完全統合する必要などない。
規模の追求と言ったところで企業が完全に統合されてなきゃいけない、なんて理由はない、と思う。

M&Aは危険が一杯だ、ってことにマーケットもいい加減、気づいても良さそうなものなんだけど。




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