斜めうえ行く「オクノ総研 WEBLOG」
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2002年11月13日(水) |
ユビキタスは携帯電話に福音をもたらすのか? |
携帯電話3社の9月期中間決算が出た。
とうとうというか早くもというか、3社中2社が減収に転落である。 携帯電話の普及状況からして、予想されていたことではあるけれど、あまりにも早い減収転落。
今回の減収の理由について、ひとつ驚いた点があった。 ARPU(Average Revenue Per User/ユーザーごとの収益平均)の下落である。 ユーザー一人当たりの支払い金額が少なくなっているのだ。 これは意外だった。
携帯電話会社の基本戦略は「音声通話からデータ通信への移行」である。 音声通話が爆発的に伸びることは考えられないので、携帯電話事業者はデータ通信にフォーカスした戦略を進めてきた。 そのためのiモード、iアプリ、写真メール、動画メール、TV電話、メッセンジャーである。 携帯電話会社は少しでも容量の多いパケットを頻繁にやりとりをさせるために知恵を絞り、機能を追加してきたのだ。 端末の通信速度の高速化もその一環である。
ところがそのデータ通信がアダになってしまった。 携帯メールの普及により、音声通話が減少した。 利用者は相手の都合に気兼ねなく送ることができ、かつお金もかからない、携帯メールにシフトし、音声通話をあまり利用しなくなってしまったのだ。
これは盲点だった。 僕は音声通話は横ばい、データ通信は増加、になると思い込んでいた。 でも固定電話のことを考えれば、当然の事だった。 確かに電話で人と話すことは極端に減った。 いまやほとんどのやりとりはeメールである。
と、なると携帯電話会社の今後の業績はかなり深刻である。 携帯電話会社の今後の成長戦略は ①一人複数台の端末普及 ②データ通信の増大によるARPUの増大 だからだ。
一人複数台の端末普及とは「動くモノ全てに携帯通信モジュールを埋め込むこと」である。 ユビキタスともいう。 ペットや徘徊老人の位置情報検索や、クルマ、自動販売機、テレビ、冷蔵庫、炊飯器等々何でもかんでも通信モジュールをつけちゃえ、という発想である。
この戦略は通信事業者にとってはおいしいようで実はかなり厳しい。 今後、あらゆるデバイスににIPアドレスが振られ、通信機能を持つことになることは確かである。 しかし、これが携帯電話事業者の利益に直結するかというと、そうも言い切れないのだ。
理由は ①携帯電話インフラを使う必然性はない ②やりとりされるデータは小さなパケットデータのみ だからだ。
例えば、自動車用(テレマティクス)の通信モジュールは携帯電話である必要はない。 既に渋滞情報や駐車場の空情報はカーナビのVICSで得られるし、高速道路の料金所で使われているETCのDSRCは駐車場やドライブスルーの決済に応用することも可能だ。 地図や音楽といった大きなデータのダウンロードはガソリンスタンド等に無線LANインフラを用意し、そこで給油時に一緒に落とせばいいのだ。 遅くて高い携帯電話インフラを使用しなければならない必然性はない。 携帯電話インフラの必然性があるのは、緊急通報と盗難車の追跡サービスくらいのものである。 少なくとも大容量、高速の携帯電話インフラは必要ない。 既に無線LAN、Bluetooth、無線ICカード、VICS、DSRCといった携帯電話インフラを必要としない無線でのデータ通信方法がいくつも存在するのだ。 コンテンツに関してはデジタルTVやデジタルラジオも控えている。
では、仮に携帯電話が一人複数台普及したとしよう。 でも、そこでやりとりされるデータは位置情報や状態に関する小さなパケットデータのみなのである。 人間以外の機器相互の通信にはリッチコンテンツを必要としない。 ユビキタスネットワークにおける機器相互の通信、M2M(Machine to Machine)では音声も必要ない。 ユビキタスネットワークでやりとりされるデータは、常時接続である必要はあるものの、基本的には小さなパケットデータばかりなのである。 つまり、ARPUは伸びない。
そのうえ複数台持たせるためには基本料金の値下げは必須である。 そもそも基本料金が安くなければ複数台の携帯電話契約なんてできない。 それに機器相互の通信であればIP通信のみで良い。 ならば、音声通話はいらないので基本料金をもっと安くしろ、という圧力は高まるはずだ。 それに加えて音声通話もいずれはIP化する。 IP接続のみであれば、回線を占有する必要がないので料金は安くできるはずである。 料金体系を値下げせざるを得なくなるのだ。
ユビキタス時代が到来するからと言って携帯電話事業者の未来はバラ色というワケではないのだ。
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