自立日記
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2004年02月11日(水) 別れた理由

「何で2年前別れたか、知りたい?」

見当が付かない。
俺は半ば、ぼーっと聞いていた。
コイツは、今さら何を言うのだろう。
何を言われても、そこそこ感心してやれるように、身構えた。

「neoは、何で別れたか、未だにわからないってメールに書いてたから。」

「4年も付き合ったneoと別れて、平気だったと思う?N子は毎日泣いてたよ。」

勿体ぶってN子が言った理由とは、

俺が就職できてないから。

なんか、頭がポカーンとなってしまった。

就職できてないから、将来が不安になったとか言ってる。

俺は殊勝に、そうだったんだ……って思ってしまった。
やっぱり、俺が今すべき事は、就活で、
結局はそこに行き着くんだって思った。
一番大事なことがそれなんだ。

「別れる時は、neoが好きじゃなくなってた。
 気持ちが半分以下くらいになってた。」

……そっかぁ。

ん?あれ?
後からよく考えたら、俺は別れた時は、ちゃんと正社員勤めてたぞ。
てことは、嫌いになって、別れたことを正当化するために、
俺が就職してないという理由にしたってことか?
つまり、別れたのを俺のせいにされてるってことか。
まぁ、今の俺には相手をどうこう言う資格ないし、
就職できてないことを言われたらぐうの音も出ない。

俺自身は、N子の気持ちが冷めたのは、マリッジブルーだと判断している。
結婚の約束もしていたし、俺が大阪から東京に住むことになった時だった。
今まで二人で夢見てきた将来が、いざ身近な現実となったときに、
本当にneoでいいのか?という気持ちが沸いてきた。
そう判断している。
遠距離で会えない苦しみがあった。逆にそれが二人を結びつけていた。
しかしそれがなくなった途端、何かバランスが崩れたんだと思う。
とにかく一方的な別れだったし、俺は納得できていない。
この日のN子の告白を聞いても、釈然としなかった。
理由は、後から付けられるモノだ。

変えられない事実があった時、人間は、理由を求める。自分の都合のいいように。
そして真実のほうをねじ曲げる。自分を正当化するために。

---

話終えたN子は、すっきりとした抑揚で、

「またヨリを戻せるとかいう話だと思った?」

などと無邪気に聞いてくる。
何を考えてる……??必死に頭を働かせる。
どういう意味だ???何と答えていいかわからない。何と答えればいい?

「バカ言えよ……」
結局はどちらにでも取れるような、こんな相づちを言ったと思う。

「neoが就職して、迎えに来てくれるかなぁとかも考えたけど……」

コイツは何を考えてるのだろうか。何がしたいんだ……?
俺の心のどこかに、ヨリを戻したい気持ちがある。
N子が一番身近だからだろうか。
そう思ったところで、コイツは指の間からすり抜けていくんだろうけど。

そう思ったのは、N子の声のトーンが優しくなっていたからだと思う。
はっきりと感じる。冷たくない。あたたかい感じがする。
これは、俺が好きだったN子だ。
舌足らずで、泣きそうな声。
俺のことをキミじゃなくて、名前で呼んでくれる。
俺もいつの間にか、キミじゃなくて、N子って呼んでた。
それまではキミは……って話してた。N子と呼べないでいた。
だけど自然に、N子のことをN子って呼んでた。
2年前のN子に戻ってると思った。
この時の電話の前半と後半で、声のトーンが全然違っていた。
なんだ、戻れるんじゃん……。そっか。そうなんだ……。

俺の好きなN子は、俺の心の中だけに生きていると思ってた。
もう、どこにも居ないと思ってた。
だから想い出だけで、思い出すことで、幸せだった気持ちに浸ることができた。
それでもいいと思ってた。本当に幸せだったから。
だけど、まだN子の中にも生きているのかな……。

俺はこの時の話は、こういう風に締めくくった。
締めくくるのはいつも俺の役目だ。

「俺が不甲斐ないということがよくわかったし、
 俺やN子が今度どうなろうと、
 自分に合った人を探せたらいいよ。
 せっかく別れたんだから、俺以外にもっと合う人を見つけてみなよ。
 そしたら、俺との違いもわかるしさ。」

……悔し紛れだった。
信じられないかもしれないが、俺は、本当に、こんなことを言ってしまった。
単なる強がりだ。バカだ。向こうも面食らっていたと思う。

俺もN子も、自分たち1人とした付き合ったことがない。
だからお互い、別の人を見つけて付き合ってみたら、また別の価値観も見えてくるだろう。
そういうことだ。まぁそれはそれで正論かもしれないけど。

N子は「私はたくさんの人と付き合うために別れたんじゃないよ」とか言ってた。

・・・

俺を捨てたN子が憎かった。今でも憎い。
向こうのほうからヒョッコリ電話をかけてきて、それで、
ハイソウデスカって、じゃあ就職頑張るから、俺を見直してよ。
とか言えるわけない。
もう2年だ。
いつか就職するよ、なんて、もう何度も言ってきた。向こうだって聞き飽きてる。

しかし俺には、
『就職したら迎えに行くから、待っててくれ。』
……って言うこともできたはずだった。
それが一番男らしい選択だった。
そう言うこともできたんだなぁって気が付いたのは、次の日だった。
その時の俺にはとてもできなかった。



……その3日後くらいだっただろうか。
またN子から電話があった。
N子は泣いていた。(つづく)


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