自立日記
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「何で2年前別れたか、知りたい?」
見当が付かない。 俺は半ば、ぼーっと聞いていた。 コイツは、今さら何を言うのだろう。 何を言われても、そこそこ感心してやれるように、身構えた。
「neoは、何で別れたか、未だにわからないってメールに書いてたから。」
「4年も付き合ったneoと別れて、平気だったと思う?N子は毎日泣いてたよ。」
勿体ぶってN子が言った理由とは、
俺が就職できてないから。
なんか、頭がポカーンとなってしまった。
就職できてないから、将来が不安になったとか言ってる。
俺は殊勝に、そうだったんだ……って思ってしまった。 やっぱり、俺が今すべき事は、就活で、 結局はそこに行き着くんだって思った。 一番大事なことがそれなんだ。
「別れる時は、neoが好きじゃなくなってた。 気持ちが半分以下くらいになってた。」
……そっかぁ。
ん?あれ? 後からよく考えたら、俺は別れた時は、ちゃんと正社員勤めてたぞ。 てことは、嫌いになって、別れたことを正当化するために、 俺が就職してないという理由にしたってことか? つまり、別れたのを俺のせいにされてるってことか。 まぁ、今の俺には相手をどうこう言う資格ないし、 就職できてないことを言われたらぐうの音も出ない。
俺自身は、N子の気持ちが冷めたのは、マリッジブルーだと判断している。 結婚の約束もしていたし、俺が大阪から東京に住むことになった時だった。 今まで二人で夢見てきた将来が、いざ身近な現実となったときに、 本当にneoでいいのか?という気持ちが沸いてきた。 そう判断している。 遠距離で会えない苦しみがあった。逆にそれが二人を結びつけていた。 しかしそれがなくなった途端、何かバランスが崩れたんだと思う。 とにかく一方的な別れだったし、俺は納得できていない。 この日のN子の告白を聞いても、釈然としなかった。 理由は、後から付けられるモノだ。
変えられない事実があった時、人間は、理由を求める。自分の都合のいいように。 そして真実のほうをねじ曲げる。自分を正当化するために。
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話終えたN子は、すっきりとした抑揚で、
「またヨリを戻せるとかいう話だと思った?」
などと無邪気に聞いてくる。 何を考えてる……??必死に頭を働かせる。 どういう意味だ???何と答えていいかわからない。何と答えればいい?
「バカ言えよ……」 結局はどちらにでも取れるような、こんな相づちを言ったと思う。
「neoが就職して、迎えに来てくれるかなぁとかも考えたけど……」
コイツは何を考えてるのだろうか。何がしたいんだ……? 俺の心のどこかに、ヨリを戻したい気持ちがある。 N子が一番身近だからだろうか。 そう思ったところで、コイツは指の間からすり抜けていくんだろうけど。
そう思ったのは、N子の声のトーンが優しくなっていたからだと思う。 はっきりと感じる。冷たくない。あたたかい感じがする。 これは、俺が好きだったN子だ。 舌足らずで、泣きそうな声。 俺のことをキミじゃなくて、名前で呼んでくれる。 俺もいつの間にか、キミじゃなくて、N子って呼んでた。 それまではキミは……って話してた。N子と呼べないでいた。 だけど自然に、N子のことをN子って呼んでた。 2年前のN子に戻ってると思った。 この時の電話の前半と後半で、声のトーンが全然違っていた。 なんだ、戻れるんじゃん……。そっか。そうなんだ……。
俺の好きなN子は、俺の心の中だけに生きていると思ってた。 もう、どこにも居ないと思ってた。 だから想い出だけで、思い出すことで、幸せだった気持ちに浸ることができた。 それでもいいと思ってた。本当に幸せだったから。 だけど、まだN子の中にも生きているのかな……。
俺はこの時の話は、こういう風に締めくくった。 締めくくるのはいつも俺の役目だ。
「俺が不甲斐ないということがよくわかったし、 俺やN子が今度どうなろうと、 自分に合った人を探せたらいいよ。 せっかく別れたんだから、俺以外にもっと合う人を見つけてみなよ。 そしたら、俺との違いもわかるしさ。」
……悔し紛れだった。 信じられないかもしれないが、俺は、本当に、こんなことを言ってしまった。 単なる強がりだ。バカだ。向こうも面食らっていたと思う。
俺もN子も、自分たち1人とした付き合ったことがない。 だからお互い、別の人を見つけて付き合ってみたら、また別の価値観も見えてくるだろう。 そういうことだ。まぁそれはそれで正論かもしれないけど。
N子は「私はたくさんの人と付き合うために別れたんじゃないよ」とか言ってた。
・・・
俺を捨てたN子が憎かった。今でも憎い。 向こうのほうからヒョッコリ電話をかけてきて、それで、 ハイソウデスカって、じゃあ就職頑張るから、俺を見直してよ。 とか言えるわけない。 もう2年だ。 いつか就職するよ、なんて、もう何度も言ってきた。向こうだって聞き飽きてる。
しかし俺には、 『就職したら迎えに行くから、待っててくれ。』 ……って言うこともできたはずだった。 それが一番男らしい選択だった。 そう言うこともできたんだなぁって気が付いたのは、次の日だった。 その時の俺にはとてもできなかった。
……その3日後くらいだっただろうか。 またN子から電話があった。 N子は泣いていた。(つづく)
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