今日は。雨のせいで練習はナシになった。 でもそれは。あたしにとっては恵みの雨やった。 これから1週間ぐらいは短いオフやから。 ちょっとゆっくり体を休めることができる。
合宿以来。あたしの体はやっぱり不調。 痛みの範囲が広がって。最近じゃ腰まで痛い始末。 プレー中は必死やから完全に忘れてるんやけど。 ひとつ終わって休憩してるときとかに。ズキズキ痛んでくる。
その痛みは。痛み自体も十分やっかいなんやけど。 自分の体にガタがきてることを。あたしに否が応でも思い出させて。 気分的に沈ませるって意味で。ほんまにやっかい。
練習はなくなったんやけど。今日はまひろに会えた。 1週間オフに入る前に。あたしの好きなCDを貸してくれるってことで。
いつもは洋楽とかあんまり聞かんあたしが。 珍しくまひろの好きなパンク系グループの曲を好きになって。 「おぉー!あんたあーゆうの聞くんや!」ってまひろが感動して。 「CD貸したる!幻の名曲もいっぱいあるから!」って言ってくれて。 あたしも聞いてみたかったから。喜んで貸してもらうことにした。
実家に帰るついでに電車で行くつもりやったんやけど。 たまたまそうるが連絡をくれて。まひろに会うって言ったら。 「えー。うちも会うー。」とか珍しく寂しがったのがかわいくて(苦笑)。 「じゃあバイク出してくれるなら☆」とか言ってやったら。 「そんなの余裕。」って言ったから。結果的に3人で会うことにした。
荷物は大きかったけど。無理やりバイクの後ろにくくりつけて。 あたしは。そうるの座席にいつもよりくっついて乗った。 バイクに乗るときに。大きく足をあげなあかんくて。 そのときに股関節がズキっと痛んで。あたしは思わず声をあげた。
「・・・どした?」って振り返ったそうるに。 「なんでもない。大丈夫。」って答える。 でもそうるは。ちょっと見抜いたように言ってきた。 「ひょっとしてまだ足痛いんちゃうん?」って。
やっぱりバレてたか。そう思ってあたしは苦笑い。 気づいてくれてたことへの嬉しさと。気づかせたことへの悔しさ。 そーゆうのがまたぐちゃぐちゃになって。自然と笑ってた。 「あー・・・うん。でも大丈夫。」あたしは適当に答える。 分かってほしかったくせに。あんまり追求されたくないとか。 あたしもたいがい勝手な性格やと思うけど。
そうるもそんなあたしの気持ちが分かったんかもしれん。 それ以上は問い詰めることもなくて。エンジンを噴かせた。
まひろの家で。だらだら過ごしてるうちに。 最近まひろの腰痛がまたひどくなってきたって話になった。 椎間板ヘルニアの軽いやつで。まひろは去年から苦しんでて。 試合前になると注射打ってもらったりして。どうにか乗り切ってた。
まひろは。あんまり自分から痛いとか言う性格じゃない。 いつ聞いても。「痛いのは常にやからな。」って言う。 それをそうるも分かってるから。普段からかなり気にしてて。 ことあるごとに。「腰大丈夫なんか?」ってまひろに声をかけてる。 そんなときのそうるは。めちゃめちゃ優しい顔をしてて。 あたしは。時にはそれにすら嫉妬するんやけど。 同じくらいあたしのことも気にしてくれよって思うんやけど。
そうるにいろいろ腰のこととかを聞かれるうちに。 まひろも。あんまり追求されたくないって思ったんかもしれん。 話題を変えるみたいに。あたしに聞いてきた。 「そういやあんたの足はどうなん?」って。 「あー。痛いよ。相変わらず。」って。あたしも答える。 「前病院行くって言ってなかった?精密検査とかした?」って聞かれて。 「MRI撮れって言われたけど高かったから断った。」って言ったら。 そうるが。えらい怖い顔してあたしを叱り始めた。
股関節靭帯炎のことは言ってたけど。MRIを断った話はしてなくて。 そーゆうのを黙ってたから。キレられた感じもあったけど。 とりあえず。出だしからそうるは不機嫌さ全開やった。
「なんで撮らんねん。高いとか行ってる場合ちゃうやろ。」 「・・・でも7000円とか8000円とかするねんで。」 「あほ。今そんなんケチってもっと悪化したらどうすんねん。」 「MRIって診断やで。治療ちゃうで。撮っても撮らんでも変わらんし。」 「変わるわ。原因見つけてもらったら悪化せんくなるわ。」 「・・・でも・・・。」 「今撮らんくて悪化したらまた金かかるで。それこそ元も子もないやん。」 「・・・・・・。」 「撮ってきなさい。ええな。」 「・・・・・・。」
後半は。ほとんど命令に近いような言い方やった。 「あほ。」って言うのも。いつもみたいには聞こえんくて。 ほんまにバカにされてるような「あほ。」って響きを帯びてた。 あたしは。言い返すこともできんくなって。黙って聞いてた。
そうるは。ときどきこうやってあたしに対して圧倒的に怖くなる。 悪いのはあたしやし。正論を言ってるのはそうるなんやけど。 あたしの言い分を全く受け付けてくれんようなその言い方は。 たたみかけるような強い口調は。正直聞いててしんどいときもある。
「・・・ほんまやで。他を節約してでも撮った方がええで。」 そうるとあたしのやり取りを黙って聞いてたまひろが。 緩和剤のように。やんわりとあたしに言う。 「原因分かった方が安心するやん。悪いこと言わんから撮ってき。」
まひろに言われて。あたしはようやく素直に答える。 「・・・分かった。この休み中に撮ってくる。」 どうしてそうるにはこう答えられんかったんやろうと思いながら。 まひろの方を向いて。まひろにだけ答えた。 それは。軽くそうるへの反抗をこめてたかもしれん。 そうるはどう受け取ったか分からんけど。
ねぇそうる。あんたにキツイことを言われるのは慣れてるけど。 親みたいに。しっかり怒ってくれるのもほんまは嬉しいんやけど。 どうしてやろう。今日はなんか素直になれんかった。 まひろがおったからやろうか。人に見られてたからやろうか。 ダメなコって感じに扱われてるのがイヤやったからやろうか。 ごめんそうる。あたし自分でもよく分からんのやけど。 今日は。ちょっとあんたの言い方が好きじゃなかった。
気にしてくれてるからこそやと思うし。それは嬉しいことやのに。 冷静に今考えれば。諭してくれたのは幸せなことやと思うのに。
あんたはもしかしたら不快やったかもしれんね。 だって自分の熱弁に対しては沈黙してたあたしやのに。 まひろのひと言で。あっさりと心を決めたあたしやったから。 なんでやねんって感じで。イヤな思いさせたかもしれんね。
ごめんそうる。ごめんね。でも願わくば。 もうちょっとだけ言い方を考えてほしかった。 わがままやけど。もうちょっとだけ優しく言ってほしかった。 例えばそれは。いつもあんたがまひろに言うように。
あぁ。いつもなら聞き流せそうなことやのに。 なんであんなに引っかかってもたんやろう。 あたしって。ほんまに気分屋すぎる。
後悔したって遅いんやけど。今となっては祈るだけ。 どうか。そうるがあたしの反応を引きずっていませんように。 |