戯言。
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2005年06月07日(火) 両手に穴戸・その壱。
朝起きると、隣に誰かが寝ていた。
寝起きの頭でもさすがにおかしいと気付く。
この部屋にいるのは自分だけの筈だ。
今の位置から見えるのは、艶やかな黒髪だけ。
一体誰なんだ、そう思いベッドを降りて反対側に回り、惰眠を貪る侵入者の顔を確認した。
「はあぁ!?」
清々しい休日の朝、目覚めは最悪だった。
いつも通りの時間に目覚め、シャワーを浴びる。
濡れた髪を拭きながら部屋に戻ると携帯電話が振動していた。
ディスプレイを見ると、この時間に起きている筈の無い人物。
天変地異の前触れだろうか、と本人が聞いたら烈火の如く怒りそうなことを考えながら通話ボタンを押した。
「俺だ」
「け、景吾!!大変だ!俺の2人がベッドで....髪が長くて俺が!起きたら寝てたんだよ!」
寝ぼけているのだろうか、意味不明の言葉を発している。
とりあえずは穴戸の気が済むまで叫ばせてみることにした。
「....景吾?おい、聞いてんのかよ」
「聞こえてる」
「じゃあ何か言えよ!寝てんのかと思ったじゃねえか」
寝ぼけてんのはテメエだろ。
そう言いたいのをぐっと我慢して、問い返す。
「で、何の用だ」
「やっぱ聞いてなかったんじゃねーか。だから、起きたら俺が寝てたんだって」
「テメエが部屋で寝てんのは当然だろ?意味分かんねぇんだよ」
「だから....だあぁっ!話すより見ろ!今から俺ん家来てくれ」
「何言ってやが」
「マジ頼む!今日の埋め合わせは絶対すっから。お前しかいねえんだよ、頼む!」
「おい、待」
ツーツーツー
「....チッ、仕方ねぇな」
なんだかんだ言っていつもと違う穴戸の様子は心配だった。
いつもの1/3程度の時間で手早く身支度を済ませ、穴戸の家に向かう。
休日の早朝に他家を訪問するのだから、と穴戸の家の前に着くと携帯で本人を呼び出した。
「おい、着いたぞ」
「ああ、今行く....おい、てめえはここで待ってろ」
「景吾が来たんなら俺が行く」
「ざけんな!俺が行くんだよ」
「俺が行く」
「おい、テメ」
「だあぁっ!....悪ぃ、ちょっと待っててくれ、すぐ行くから」
どんな独り言だ。遂に頭が沸いたか?
受話器を近づけたり離したり、声音くらい変えとけよと無駄な突っ込みをいれつつ待つこと数分。
何でもいいから早く来い、と痺れをきらす跡部を出迎えたのは、酷く焦燥した様子の穴戸だった。
これはただ事ではないらしい。
何があった、と問い詰めたい気持ちを抑え、いつも通り振舞う。
「遅ぇよ」
「悪い....来てくれて助かった」
跡部の顔を見た途端、安堵したのか倒れこんでくる穴戸を抱きとめた。
そのままやんわりと抱きしめ、穴戸が落ち着くのを待ってから穏やかに問うた。
「何があった」
「とにかく見てくれ....自分でも信じられねえ」
名残惜しそうに離れる穴戸に続き、彼の部屋へ向かう。
部屋の前で立ち止まり、困ったように見上げる穴戸を安心させる為に軽く抱きしめてからドアを開けた。
そして部屋に入った跡部が見たものは。
「........どういう事だ」
「こっちが聞きてえよ」
目の前のベッドの上には猿轡を噛まされ掛け布団で簀巻きにされながら呻き、跡部を涙目で見ている長い髪の穴戸。
そして自分の背後には背に隠れるようにして抱きつく、もう見慣れた短髪の穴戸。
後ろから回された穴戸の手を握り締め、跡部は呆然と立ち尽くした。
長い長い一日が、始まる。
*****
跡宍受難話。
良くありそうな展開だが、思いついたのでとりあえず打ち込んでみた。
[その壱]とか言いつつその弐はまだ無い。帰国後なのはほぼ確実だ(ぉ
つーか無駄にくっついてる跡宍....なんだかんだくっついてる跡宍は好きだ。