戯言。
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2004年11月20日(土) 跡べー風邪をひく・後編。
前回の続き....っていつだったっけ?(遅すぎ
ちなみにワタシの風邪はとうの昔に完治している(笑
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「........」
マズい。確実に怒っている、それもかなり。
何処かのテニス部員の言葉を借りれば、[宍戸がキレている確率97%....否、100%だ]といったところだろうか。
普段こんな風に笑わない奴だからこそ、実に怖い。
こういう時の宍戸には下手に逆らわない方が身の為だと分かってはいるが、今日ばかりはおとなしく帰る訳にはいかない。
熱に浮かされた頭でどうこの場を切り抜けたものか必死に考えるが、実のところふらつかずに立っているだけで精一杯だった。
「どうした?口聞く余力も無えほど腹減ってんのか?」
にっこり、とでも擬態音がつきそうな笑み。
その笑みの奥に見える眼差しは、とてつもなく冷たい。
「....何か用か?」
いろいろ考えた挙句絞りだしたのは、なんともお粗末な一言だった。
それに呆れたような顔をしつつ、宍戸が返す。
「まあ、用っちゃ用だな。ちょっと顔かせよ....樺地、荷物頼んだ」
「ウス」
「....なっ」
宍戸に気を取られて気付いていなかったが、どうやら樺地も控えていたらしい。
自分の荷物を纏めて持ち去る樺地を呆然と見送りつつ、宍戸に腕をとられて連行された。
「おい、いきなり何しやがる」
やっと動き出した頭で問うと、今度はキッと睨まれた。
「黙ってついて来いよ。言っとくけど、俺は今かなり頭にきてんだぞ?」
「ンなこた聞いてねえ。何考えてやがんだよ」
「それはこっちのセリフだ。てめえ熱あんだろ、しかもかなり高えの」
「何の話....」
「一目見りゃ分かる。ったく、無理してんじゃねえよバカ。熱すぎだっつの」
まあ他の奴は気付いてねえけどな、そう言って額に手をあてられる。
普段温もりを与えてくれるその手は、ひんやりとして気持ちが良かった。
だが、その後続けられた言葉はとんでもないものだった。
「という訳でもう帰れ、担任にはもう了解取ってある」
「....は?」
冗談じゃない。
何の為に熱をおして耐えていると思っている、そう言いかけると先手を取られた。
「ちなみにてめえに拒否権はない。連絡会については問題ねえよ、生徒会側は副会長に頼んだし、テニス部の方は俺が行くから。監督にも了解取ってあるから心配しないでいいぜ?ああそれと、てめえは家の用事で早退するって言っといたから、後で口裏合わせとけよ」
跡部が反論する隙を与えず、言い切る。
そのまま振り向き、何か言いたいことはあるか、と聞いてきた。
今の自分に彼の意志を覆せるような反論が出来ない、と分かった上で聞いてくるのだから、質が悪い。
それでも悔しいので、皮肉を言ってみる。
「....随分と手回しの良いことで」
「はいはい。今は何言っても無駄、文句言いたきゃ早く治しやがれ」
予想通り、鼻であしらわれた。
完治したら絶対にやり返してやる、そう決意する。
「........フン」
「ほら、辛いんだろ?誰も見てねえから少し寄りかかれ」
そう言って肩を貸してくれ、歩く速度も落とす。
ふと周囲を見回すと、確かに人影は殆ど無い。
それもそうだ、今歩いているのは裏門へ通じる通路だった。
車も裏門に回させたと言うその心遣いに感謝しつつ、いつの間に自分の家の運転手に連絡を取ったのかと尋ねると朝練の直後、という答えが返ってきた。
どうやら自分の張っていた虚勢は朝の時点で既に見破られていたらしい。
そして全てを手配し退路を全て閉ざした上で、迎えにきた。
全くもって自分の扱い方を良く心得ている。
「ああ、そうそう」
ふと宍戸が思い出したように顔を上げた。
「....なんだよ」
「言い忘れてたけど」
「何を」
「樺地さぁ」
「あぁ?」
「あいつは最初、お前の好きなようにさせるつってたんだ。でも俺がちょっと....いやかなりの勢いで無理強いしたから、怒んないでやってくれ」
言われなくとも彼にどうこう言うつもりはない。
どう考えてもあの絶対零度の笑みを見てしまったら断ることは出来ないだろう。
....思い出しただけで身震いしそうになった。
そこまで考えて、ふと気が付く。
「ところで、あいつも気付いてたのか?」
「いや、俺が話した。ま、てめえの下手クソな演技もそこそこ有効なんじゃねえ?」
「....言ってろ、バーカ」
一目見ただけで見抜けるなんざてめえだけだ、そう心の中で毒づきながら、その反面嬉しくも思った。
そして宍戸の指示通り裏門で待機していた車に放り込まれる。
ドアを閉めようとすると、ちょっと待て、と制止された。
「これ、食え」
差し出されたのは、カフェテリアで売られているフルーツゼリー。
「何だよ、いきなり」
「いいから食えって。でないと薬、飲めねえだろうが」
「そんなの....」
家に帰ってから飲む、と続ける前にまたもや。
「てめえがおとなしく飲むワケねえだろ。どうせ寝てりゃ治る、とか言って我慢するんだから」
「....」
完全に読まれていた。
仕方なく、差し出されたゼリーを受け取り黙々と食べる。
程よく冷えたゼリーは思っていたよりもすんなり喉を通り、食べ終わるのにはさほど時間がかからなかった。
そして空になったゼリーのカップと入れ替わりに飲み薬と教室から持って出たペットボトルが手渡され、仕方なく飲み込んだ。
「....テメエ、わざとだろ」
「何がだ?」
「しらばっくれてんじゃねぇ。わざわざ粉薬持って来やがって」
「当然だろ、具合悪いなら家でおとなしくしときゃいいのに朝練にまで出てきたバカにはこれでもまだ足りねえくらいだ....心配させんなよ、バカ野郎」
「....悪かった」
「反省してんならいい」
そう言って、口に何かを放り込まれた。
何だ、と視線で訴えると、口直し、と微笑む。
そのままドアを閉められ、帰りに寄るからおとなしくしている様に、としっかり念を押されてから車を出すように合図した。
宍戸に押し込まれたキャンディは、彼が好んで口にするミント味だった。
家に着き、なんとか一人で着替えてベッドに横になる。
少しは薬が効いてきたのか、頭痛も耳鳴りも少しはましになっている。
だが、倒れこんだ身体は休息を求めていて、押し寄せる眠気に身を任せた。
次に目を覚ます時、傍らにいるであろう人物のことを想いながら。
*****
なんか予想と違う終わり方したのでアレだが、まあいいや。
宍戸さんったら跡べー甘やかしすぎ。
とにかく今年の風邪は辛いワケだ。
まずは熱と喉の痛み、その後鼻にきた。
最初の期間がほんと辛いんだよな、熱とそれに伴う関節痛、頭痛、耳鳴り。
いやほんとお疲れ、跡べー。
とりあえず宍戸さんに伝染すなよ〜(ぉ