戯言。
2004年07月01日(木)  鋼は難しい。

とりあえず書くには書いてみたが微妙。
やっぱ鋼は人様の素敵文章を眺めてる方がいいらしい(爆

*****

雨の日は、あの日々を思い出す。
この手で得たものと、失ったもの。
こうして眺めている限りは、何の変哲も無い唯の手なのに。


「大佐は雨、嫌いだと思ってた」

ふとかけられた声に横を向くと、先ほどまで目の前のソファーで本を読んでいた少年が真横に立っていた。
その視線は、さきほどまで眺めていた手に注がれている。

「これが、出来ないからかな?」

パチッと指を鳴らすと、素直に頷く。

「確かに湿度が高ければ発火布は使えないが」
「無能だな、無能」
「....人の話は最後まで聞くものだよ、鋼の」

ああ悪ぃ、と言いながら全く悪びれずに話の続きを促す。

「で?」
「まったく....確かに発火布は使えないが、戦い方は他にもあるだろう」
「デスクワーク三昧のオッサンが何言ってやがる」
「鋼の....私はまだ20代だ」
「オレからすりゃオッサンだろ、三十路に片足どころか殆ど両足突っ込んでる癖に」
「....人生経験が豊富だと言って欲しいね」
「女性経験、の間違いじゃないか?」

ああ言えばこう言う。
だが、彼との会話はそれでいて心地良い。

「それで、何故[思ってた]と過去形を使ったのかね?」

気になっていたことを問うと、少しバツが悪そうに。

「なんとなく。雨と手、見ながら微笑ってたから」
「....私は、笑っていたかね?」
「ああ。それに、嬉しそうに見えた....ちょっとだけ、だけど」
「.................そうか」

どうやら今日は少し気が緩んでいるらしい。
それもきっと、この金色の少年が傍らにいるお陰なのだろうが。


沢山の人の命を奪ったあの戦い。
命令とはいえ数多くの命を、その可能性の芽を摘み取った自分。
自らの生み出す焔に、生きながら焼かれる人々の断末魔の悲鳴。
大事な人を目の前で殺される人々の悲鳴、怒号。
眼前には、文字通り消し炭になった、人であったモノ。

あれから数年経った今でも、頭から離れない。
いや、一生離れはしないだろう。
それでも至高の場所を目指し、進み続けるのだ。
あの光景を、悲鳴を、そしてこの痛みを無駄にしない為に。
その手段として、また殺す。


「大佐?」

いきなり黙り込んだ自分を訝しく思ったのか、こちらを見やる。
真っ直ぐな瞳に屈服しそうになる自分を叱咤しつつ、何事もなかったかの様に話を続けた。

「すまないね。君の熱い視線を感じたものだから」
「ンなもん送ってねぇッ!」
「そうかね?照れなくても良いんだよ、鋼の」
「だから、照れてもいねぇっての!」

顔を真っ赤にして叫んでも説得力はないのだがね。

まだ何か喚き続ける彼を腕の中に抱きこみ、柔らかい髪に顔を埋める。

「なっ....」

何しやがる、と再度怒鳴ろうとする彼の声を遮り。
少しだけ、本音を吐き出した。

「確かに、私は雨の日は嫌いではないよ」
「無能な癖に?」
「だから....だよ、鋼の」

そう言って更に強く抱きしめた。

雨の日は、無能。
無能だからこそ、安心できるのだ。

今日は焔は出せない。
あの光景を見ずに済むのだ、と。

勿論軍人であるからにはそれなりに体術も修めてあれば銃器も扱える。
当然それらもかなりのレベルであり、殺傷能力も高い。

それでも焔が出せないというだけで安堵する自分がいる。

この血塗られた手を、洗い流してくれるような気がするから。
少しだけ、ほんの少しだけ、かつて夢見ていた鮮やかな未来が見えるような気がするから。
あの頃掴みたかったモノに、手が届きそうな気がするから。
そして、この真っ直ぐな少年に躊躇い無く触れることができる様な気がするから。

「....大佐?」

再度押し黙った自分に、かけられる声も自然と不審げなものになった。
参った。
聡い彼のことだから、迂闊なことは言えない。
腕の力を緩めて、視線を合わせる。

「鋼の、君は雨の日は嫌いかね?」
「オレ?」
「ああ」
「そんなこと考えたこともないな。まあ雨が降らないと生活にも支障が出るし....あんまり降って列車が遅れるのはご免だけど」

あまりにも彼らしい答えに、くすりと笑いが漏れた。

「自分で聞いといて笑ってんじゃねえよ、バーカ」
「馬鹿とはなんだね、馬鹿とは」
「んじゃ無能」
「........鋼の!」

あまりの言い様に更に緩んだ腕の中から抜け出し、もう行くから、とドアの方へ歩いていく。
瞬く間にすり抜けていった温もりを惜しみつつ彼を見やると、ドアを開けながら振り返った。

「オレも雨の日は嫌いじゃないぜ。....どこぞの無能大佐が先走って危険なことに首突っ込まなければな!」

そう言ってバタンと音をたてて扉を閉めて出て行った。
その顔は真っ赤になっていることだろう、見なくても分かる。

他でもない、君が私のことを気にかけてくれていると思えば尚更。

「私も今までより好きになれそうだよ、雨の日が」

嫌いではなかった、雨の日。
これからはあの日々とともに、思い出すのだろう。
先ほどこの手の中からすり抜けていった、金色の少年を。
そして彼がくれた、優しい言葉を。

未だ少しだけぬくもりの残る手を眺め、静かに、微笑んだ。


*****

やぱ締めがクソだな....ぐあぁ。
っていうかこれロイエドか?ロイ&エドの間違いじゃねぇのか?
しかも合うお題が無かったので無駄だなぁコレ。


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