戯言。
2004年05月13日(木)  031.あきらめましょう[LOTR/笑い系]

副題-馳夫の悲劇-


とある、夜のこと。
この日も長い道のりを旅した仲間達は、不寝番のレゴラスを除いて皆ぐっすりと寝入っていた。

そんな中、もそりと起き上がる影がひとつ。
その影は焚き火の傍に座るレゴラスに近づいていき、それに気付いたレゴラスと顔を見合わせにたりと笑った。
焚き火に照らされるその顔は、他の誰でもない、フロドであった。

フロドを抱え気配を殺しつつ、レゴラスはある人物の元へと歩み寄る。
そしてフロドを下ろし、眼下で寝入るその人物の頬をつついてみた。
つつかれても頬を引っ張られても微動だにしない。

「起きないね!うまくいったみたい」
「そりゃあエルフの薬だもの。暫くは起きないよ」
「じゃあ早速」
「「やりますか」」

そう言ってにやりと笑うと、懐から何やらいろいろ取り出しせっせと作業に勤しむ。
暫くして何かしらやり遂げた達成感のようなものを感じたのか、満足げに頷いた直後、フロドが口元を抑えた。
それを見たレゴラスは少し慌ててフロドを抱え上げ、離れた所まで走って行く。
森の奥で、ホビットとエルフの笑い声がこだました−−−−−
全てが終わるとフロドは寝床に戻り、レゴラスは焚き火の傍に戻った。
少しして寝息をたてはじめたフロドは、それはそれは満足そうに微笑んでいた。


翌朝。
いつもより良く眠れたようだ、と清々しい気分で起き出したアラゴルンは、近くの泉へと歩いて行った。
顔を洗おうとして覗き込んだその水面に映ったものは、変わり果てた自分の姿。
森の奥で、声にならない悲鳴がこだました−−−−−


ゆらゆらと怒りのオーラを纏いながら戻って来たアラゴルンを迎えたのは、魔法使いの一言。

「おおアラゴルン、今日は一段と男前だの」

その言葉に彼の方を見やった仲間達は、こみあげる笑いを抑えきれずに吹き出した。
彼ご自慢の髭は綺麗に剃り落とされ、髪はきちんと(くしけず)られた上、ご丁寧にも真っ直ぐに伸ばされている。
昨日までの野伏ぶりは、どこにも見当たらない。
ホビット達はもとより、日頃この手のことにあまり関わろうとしないギムリやボロミアさえ、声を殺して笑った....いや笑い転げた。
その笑い声を止めたのは、地を這うような低い低い声。


「........誰がやった」


笑い声はピタリと止み、その場は静寂に包まれた。
口をつぐみ、恐怖に身を固める彼らの顔をアラゴルンはじっと見て回る。
まず、ヒゲトリオは除外。サムも恐らくシロだろう。
ここで怪しいのは、普段から騒ぎを起こしてばかりのホビット2人組。
ボロミアなどは格好の標的となっており、日々苦労が絶えないようだ。
(実際、自分も見事にすっ転ばされた経験がある)
だが、彼らにこの所業は成し得まい。
腐っても野伏、彼らが周りでゴソゴソし、まして自分の顔にいたずらを仕掛けたりなどしたらすぐに起きるだろう。

と、いうことは。
アラゴルンはぐるりと振り返り、未だくすくすと笑いつづけるホビットとエルフのもとへと歩み寄った。

「............お前たちの仕業だな」

そうなのだ。
旅の仲間の中で最も性質が悪いのは、この凸凹コンビだった。
一見おとなしそうに見えるフロドだが、それは見かけだけのこと。
さすがピピンの親戚なだけあってかなりのイタズラ好きであった。
それどころかかなりの策士で、とんでもないことを考え付く。
彼だけなら到底成し得ないようなものも、何故か意気投合したらしいこのエルフが加われば問題なく実行に移れるのだ。
それどころか、この性悪エルフのひと捻りも加わるので手に負えない。
先日はボロミアが縦ロールにされ、その前は確かギムリがおさげ髪にされ、ホビット達の眉毛が繋がっていた。
そして今回の被害者はアラゴルン。
さすがに魔法使いには手を出さないのか、それとも最後のトリと決めてあるのか....どちらにしろ傍迷惑極まりないコンビだ。

そう言えば昨夜、寝しなにレゴラスが茶を淹れてくれた。
どうやらあれに眠り薬が混入されていたのだと、今更気付いた。
何の打算もなくそんなことをする奴では無いと分かっていたのに、何も考えず素直に口をつけてしまった自分が恨めしい。

やはりバレてしまったか、と顔を見合わせて笑いつづける2人を睨みつけると、さすがに怖くなったのかフロドがレゴラスの背後に逃げ込んだ。
それでもレゴラスの服を握る手と肩が小刻みに揺れているところを見ると、笑いは収まっていないらしい。
そしてもう一方のレゴラスはというと、アラゴルンの殺気立った視線にも動じることなく、それどころか

「さっぱりして良かったでしょう、アラゴルン。今の貴方の姿を見たらアルウェンも惚れ直すのではないかな?」

と実に爽やかな笑顔でうそぶいた。


あまりの言い様に返す言葉もなく、怒りに震えるアラゴルンを現実に戻したのは、魔法使いの声。

「起こったことは仕方が無い、まあ諦めるんじゃな。それにほら、急がんと出発の時間が迫っておるぞ」

そう言って、皆に支度をするように促す。
未だ収まらぬ怒りを無理矢理抑えつつ、アラゴルンは黙々と荷物を纏め始めた。

確かにまんまとあいつらの策略に嵌った自分の落ち度も否めない。
それにレゴラスにああ言われて、ほんの少しでも心が動いてしまった自分の浅はかさにも耐えられない気分であった。


その後ガンダルフの好意で髭を元に戻してもらったアラゴルンは、レゴラスとフロドにイタズラの罰として昼食抜きの刑を言い渡した。
その命令を聞いてフロドがショックを受けたのを見て少しばかり溜飲(りゅういん)が下がったが、現実はそう甘くは無い。
昼食時になるとレゴラスとフロドは何処かへと消えていき、戻って来た時にはフロドは満足そうに微笑んでいた。

しまった、とアラゴルンは己の迂闊さを呪った。
このエルフ達がおとなしく自分の命令に従う訳が無い。
確かに自分たちと同じ昼食は食べられなかったが、それに代わるものを探してくるくらいあのエルフにはお手の物だろう。
そしてこのホビットの食欲を満たし、逆襲に出てくるくらいのことは予測して然るべきだったのに。


そして、否とは言えない笑顔と共に差し出された一輪の花。

「フロドが見つけたんですよ。貴方の髪に映えると思って一輪だけ摘んで来ましたが、飾ってくれますか?」

向けられた笑みはエルフらしく、優美なもの。
だがその微笑みの奥、笑っていない目が全てを語っていた。
ここで断ったりなどしたら今度こそとんでもないことになる、と。
背中を冷汗が伝う。

「........有難くいただいておこう」

こう言って花を受け取り、梳られた黒髪に挿すという選択肢しか彼には残されていなかった。
それを見る2対の眼差しは、非常に満足そうなものだったという。


この日、アラゴルンは自らのサバイバル辞書に一つの項目を加えた。

[相手によっては抵抗を諦め、嵐が過ぎ去るのを待つのも戦略のうち]

と。


*****

.................おかしい。
最初は朝の時点で終わるはずだったのに、勝手に動き回られた。
てか今回は珍しく会話調ではなく文章としてネタが浮かんできた話。
自分としてはレゴ&フロのつもりだが、レゴフロにも取れそうだな。
でも書いててちょっと楽しかった(笑

ちなみにこれはLOTR世界のパラレルワールドであり、あの旅の途中にこんなことしとる余裕はあやつら、特にフロちゃんには絶対有り得ないかと。
ま、パロディっつ〜ことで見逃してやって。
ちなみにフロちゃんは映画寄り、レゴは原作寄りっぽい。


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