デイドリーム ビリーバー
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2002年03月27日(水) シミュレーション

人ごみのなか
ふと、彼の視線が遠くに移ったような気がして。

(前の彼女?)と、思ってしまった。

そんな偶然、なかなかないだろうけど。
でも、まったくないとも言い切れない。



もし今本当に、彼の視線の先に彼女がいたら、私はどうするんだろう。

多分「少し話してきたら?」って言うだろうな。
で、彼は
「宙ちゃんは、そんなこと気にせんでいいの」って
私の腰にまわした手を、おなかのあたりまでもってきて
ぎゅうって、抱きしめるみたいにするんだろう。
そんな気がする。


彼は、本音を言ったら、少しは話したいだろうと思う。
彼女が幸せかどうか、確かめたいだろうと思う。
別れたとはいえ、大切な人への愛情や心配は、あって当然だし。

だけど私が今の状態じゃ、彼は決して、彼女とは話せない。

「今の俺には宙ちゃんとのことの方が大事やの!」
とかなんとか、言ってくれちゃうんだ。

その言葉に、多分嘘はないけど。
私としては、自分が少し情けなくもあり。




彼いわく、
二人が別れた原因に、私のことはまったく関係なくて、
ただ二人の関係がダメになっていたからなんだそうだ。
価値観、結婚観、いろんなことが食い違ってきて、そのことについて
散々ふたりで話し合って、ふたりで決めた結論なんだそうだ。

たとえ、私と仲良くなっていなくても
結果的にはあの時期に別れていただろうって言っていた。
実際、彼女に私のことは、いっさい言ってないらしい。

つきあいはじめた頃、これを言われて
(なんだよぅ。私の方を好きになったからじゃなかったのかよぅ。)
なんて、少し思ったけど
最近になって、私はあのときの彼の言葉に、少し救われている。

あの頃、私は
彼女と争っているような気持ちだったのかもしれない。



でも恋は
そんなものじゃなくて
争うとか、そうものじゃなくて

多分、はじまるもので


それはかつて、彼と彼女の間にもはじまったように
あの時、彼と私の間にはじまっただけのことで

あの日、彼と彼女が終わったように
私達だっていつ終わってもおかしくないんだ。

もちろん終わらないように、できる限りの努力はするけど
気持ちが変わらないとは限らない。




だけど。
だからこそ。

私はしゃんと、立たなくちゃならない。
彼に守られるだけ、ではなく。
彼になぐさめられるだけ、ではなく。

考えてみたら
私のなかに巣食う、中途半端な不安が
彼を不自由にして
それが、逆に私をまた、更に不安に陥れているのかもしれない。


彼が彼女と話して
「じゃあね」って、何の迷いもなく、私のところに戻ってくる

そういうふうにまでなれたら、きっともっと自信がもてる。
自分自身に。二人の関係に。




それに、勝手な話だけど
道でばったり彼女に出会ったとき
「いい感じのふたりだな」って思われたい。

「なんだ、今はあの程度の女とつきあってるんだ。
 レベル低―い。別れてよかった」なんて思われたくない。

いや、「別れてよかった」とは、思われたいんだけど。

「やっぱり私達は、そういうめぐり合わせじゃなかったのね。
 私にはもうほかの人がいるし、あなたたちもお似合いよー」とか?
うーん…。


まあ、それはともかく、そのためには、彼女とばったり会った時に
不安で、彼の腕にしがみつくような女じゃだめってこと。



ちなみに、今の予想ではたぶんこうなる。情けないけど。

彼と彼女がばったり会う。
私は、強がって彼の背中をぽんとたたく。
「少し話しておいでよ。私あっち見てるから」

でも多分私は、結局、こわくて待っていられない。
妄想大暴走。涙ボロボロ。
携帯の電源切って行方くらまして、彼にめちゃくちゃ心配をかけさせて…。

…これはかなりガキっぽい。かっこわるい。情けない。
女がすたる。まぬけ。大アホ。




というわけで、あらためてひとりで、部屋でシミュレーションをした。


彼が、安心して彼女と話せるようなふたりの関係を
まずこの時までに築いておき、
しゃんとした笑顔で、彼の背中をぽんってたたく。

彼は安心して、私に「待ってて」って言って
彼女に「久しぶり」って言う。

二人が話している間、何を考えるだろう。

彼がやっぱり彼女を好きって思うなら、しょうがない、とか。
心は、とられたとか裏切られたとかじゃない、とか。
彼は、自分の心に正直になることを知っている人で、だからこそ
今まで彼と一緒にいられたってことは、本当に素敵なことなんだ、とか。
そして、私は、その奇跡みたいな時間を、ちゃんと大切に生きてきた、とか。

そんなことを考えているかもしれない。



そして、どれぐらいなのか時間が過ぎて、彼が戻ってくる。
「お待たせ。腹へらない?」
かなんか言って。笑う。



この時のリアクションが。
何度考えても考えても。

私は泣いてしまっていて。


30歳の私
70歳の私
いろんな私でシミュレーションしたけど
何度やっても、私は泣いてしまっていて。




情けないなあ。
どうしたらかっこいい女になれるんだろう。
ってさんざん考えたんだけど、わからなくて。

そのうち、ああ、って思いついた。



泣いて、いいのかもしれない。

こういう時は、泣いてもいいのかもしれない。


この時だけは、彼の胸におでこをくっつけて
すこしだけ泣かせてもらおう。
彼に、いいこいいこって、頭をなでてもらおう。甘えさせてもらおう。



もしかしたらそれだって、ある種、いい女かもしれない。


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