2002年06月10日(月) >> 雨の魔法。
もう、4年くらい前のこと。
いつもの渋滞もお休みな日曜日に、あたしは早朝から急いでいた。
お泊りしていた友達の部屋から、夜勤明けでお疲れな彼氏の元へ。
「この道、こんな色してたっけ。」
なんて。
普段はそんな色もわからない位に車や人で一杯の道並みに目をやったら
突然、大粒の雨がアスファルトの色を変え始めた。
「わ。あんなに青空なのに、こんな雨なんて・・・。」
あたしはまだ眠るデパートの軒先に身を隠して、やっぱり真っ青な空を見上げた。
太陽が覗きだしたばかりだったはずの空は
もう、ウソみたいに青くて
朝の凛とした空気の中に、大粒の雨がキラキラきれいで
ためいきが出た。
いつもは混雑している街並みの中で
なのに今のこの瞬間だけは、周りにはだぁれもいなくって
視界いっぱいのあふれる光と、胸いっぱいの透明な空気をひとりじめした気がした。
デパートの催し物を告げたパネルカバーのアクリルに
そんなあたしの泣きそうな顔が映った。
最近ずっと、笑顔も息切れしてたからなぁ。。。
深呼吸をしたら
ココロの息つぎの仕方を思い出せたような気がして
少しだけ、泣いた。
空車のタクシーの運転手さんが、心配気に声をかけてくれた。
笑顔と「ありがとう。」だけ伝えたら
この瞬間を、誰かに伝えたくなった。
誰でもいい“誰か”なんかじゃない
大切な、“誰か”へ。
ライラック色した携帯電話であたしがアドレスからリダイヤルしたのは
さっきまで一緒にいた、“カレ”だった。
これから会いに行くはずの、彼氏じゃなかった。
「おはよ。」
「…うん。おはよ。」
まだ眠たそうな声。
「もぉ起きる時間じゃないの?」
「うん、起きる。ありがとー…」
「やっぱりマダ眠たそ。(^^」
「だってまだ4時間くらいしか経ってないでしょ〜。」
「あは。そぉだね。」
ひと呼吸おいたら、キラキラの空気が胸いっぱいに入り込んできた。
「あのね。」
「うん?なぁに?」
もう一度深呼吸したら
苦しくなって、切なくなって
涙のにおいがした。そんな気が、した。
「ううん?なんでもない。気をつけて、いってらっしゃい。」
「ありがと。また後でな。」
云いかけて、やめた。
ホントは
この通り雨のステキを、一番に知らせたかった。
だけどそんなあたしには
これから大切な想いを伝えなければならない人がいた。
ただまっすぐに、あたしだけを見つめててくれている。そんな人の元へ。
ちゃんと。サヨナラを云いに。
想いはいつでも、プラスなキモチばかりではない。
雨があがると、中途半端に濡れたサンドレスを後悔した。
もう少しだけ、濡れておけばよかった。
こんなあたしでも、きっといいコになれる。
そんな特別な魔法が、かかるような気がしたから。
昨夜はそんな
もうとっくに忘れてたはずの夢をみて、泣きながら目が覚めた。
アラームの時間には3時間も早くって
カレはまだ隣で、静かな寝息を立てていて
あたしは
そんな記憶が今さら首をもたげてきたのに驚いて
胸が、きゅうってなって
カラダ中が、痛み始めていた。
おナカ空いたのかな。なんて、自分をはぐらかしみた。
でもそれはきっと
昼間であった突然の通り雨がやっぱりキレイで
まだ余韻の残る気持ちのスイッチを押してしまったせい。
昨夜
いつものように些細なきっかけで始まったケンカの余韻を残しすぎた
そんな涙のスイッチを。
大きな大きな太陽の雨は、これでもかとばかりに光をまき散らしていて
あんなにもきれいで、こんなにもずるい。
あれほどまでにきれいなものに、人がかなう訳なんてないんだもん。
これほどまでにかなわないものに、人が立ち向かえる訳なんてないんだもん。
こうして
涙のコックをしっかり閉めていなくてはならないあたしには
どうしてこんなにもいじわるなんだろう。
あたたかで優しい大きなぬくもりはいつでも
求める程に残酷で、すれ違う程に突き刺さる。
何もかもを怖がって
こうして、目をふせてばかりいるあたしには
自分の手のひらでなんか抱えきれない。
だけどそれは、この先もずっとカワラナイ。
きっと変わる事なんかないのだろう。
だから両腕で
全身で抱きしめてみる。
忘れないように。失くさないように。
間違えないように。
◇◆◇ めぐ。 |