心波検査
カルテ|検査結果|予約
本当に勇気があるのなら、直ぐそこの高層マンションから飛び降りて、消えてしまいたい。 実際飛び降りたら、醜い死体に変わって、消える事は出来ないのだけれど。 前から書いている通り、私は勇気がない。心臓が小さい。 だから死ぬなんて出来やしない。
その勇気のなさを、主治医は歓迎する。 「命を繋ぎ止めるなら、それがどんな形でも構わない。怖いから、死ぬのが怖いからそれだけで生きている。それでいい」 と主治医は言う。
前に一度、そのマンションの8階まで登ったことがある。 まだまだ寒い3月の夜中。誰も居ないマンション。階段を一段ずつ上がるたびに、 これがあの世への階段なんだと自分に言い聞かせた。 8階へ辿り着いた時、もしかしたら私は飛べたのかもしれない。
でも、足がすくんだ訳でもなければ、怖かったわけでもない。 単純に、私の持参した携帯が着信したから、我に返っただけ…。 あの時飛んでいたら、私は今頃どうなっていたのだろう。
そのほうが幸せだった? それとも、生きている今の方が幸せ?
その答えは、誰に聞けば、何処へ行けば出るのだろうか。 死ぬ勇気のない私に、それを確かめる術等ない。
安宅 さゆみ |