CYMA’S MURMUR

2005年08月05日(金)   電話


図書館へ行こうとカバンを持ち上げたとき、
携帯電話が鳴った。

登録されていない見知らぬ携帯の番号が表示されている。
普段なら無視する、けど、今日は何となく通話ボタンを押した。

豪快な笑い声と共に、
「誰だかわかる?」とからかうような声。

こんな電話かけてくるのは1人しかいない。
わかってしまう自分が悔しい。

「わからないです」と答えたら、彼は素直に名乗った。

もう5年ぶりくらい。



あれは、私の人生で唯一のモテ期だった。

何度か書いたかもしれないけど、
付き合ってる人がいて(元々彼だ)、
でも私は浮気をして(それがこの電話の相手だ)、
結局私は元々彼と別れて、また別の彼(元彼)と付き合い同棲した。

あの1年は、私の人生には珍しく、流れがあった。
他にも誘ってくれる人はいたし、
「モテ期」というものの存在を感じたものだ。



あのとき私は27歳で、
仕事もそれなりにできて職場でも認められて、
客観的に見ればとても幸せな立場だったと思う。

32歳で、あの頃の私と同じ仕事をしても、見向きもされない。
当たり前だ。



今日電話してきた彼(仮に、F、としよう)は、

「また今月から、オ○ラシティで仕事することになって、
 懐かしくてあの頃一緒だった色々な人に電話しまくってるんだ」

と言った。

そう、あの頃、私たちのオフィスは、オペ○シティにあった。
私はあのビルが気に入っていた。
新宿のはずれにあって、公園も近いし、
ビルの中だけで何でも用が済むし、通勤も楽だった。

「AIXで、Oracleで、C++。
 PG探してるんだけど、月40万でやらない?」

Fはそうのたまった。

PGですって?
いまさら私にPGをやれと?

おまけに月40なんて馬鹿にしてるじゃないか・・・
と思ったけど、
同時に「その手の仕事なら最悪ありつけるってことね」
と冷静に考えている自分。
間に入っているという紹介会社の名前も、
頭の片隅にメモ。



Fは私より9つも年上で、
そう考えると今は41歳。
うーん、おやじになったんだろうな〜。

「彼氏とはうまく行ってるの?」

何気なくFが聞いてきた。
Fは、元彼と知り合いだったし、
私が元彼と付き合っていたことも知っている。

ついでに言えば、元彼と付き合い始めるときに、
Fとの出来事は元彼にも報告済みで、
だからあまりその辺りには触れたくない。

「えー、まぁ5年も経ってるから色々変わりはあるけれど、
 それなりに彼氏はいますよ〜」

と答えておいた。

「なんだ、残念」

という馬鹿みたいな返しは軽く流して。

「今仕事の変わり目でお金ないから、
 もうしばらくしたらまた飲みに行こうよ」

と言われたけれど、それも笑って流した。

もう、会うことはないだろう。



でも、この電話で私の中の何かが揺さぶられた。

期限付きだとわかっていながらも、
毎日が楽しくて幸せだったあの頃。
もう決して私の手に戻らないあの日々。
過去の自分に嫉妬するなんて、どうかしてる。



Fに会いたいとは思わないけれど、
あの頃の自分には会いたい。
別の選択肢を選ばせようとは思っていないけれど。
後悔はしていないはずなのだけれど。



今会うとすれば、躊躇してしまう。
5年の歳月は私を変えた。
昔はもう少し私だってスタイル良かったし・・・

そう。
「ここぞ」という時に、服を脱げるようにしておかなきゃいけないよね。

なんて、久々にそんなことを考える。

相手なんていないけど。
でも。
もう少し身なりなんかに構うべきだろう。

ちゃんと何人かの人に対して「女」だった27歳の私のように。



具体的にどうというわけではないけれど、
もう長い間静かだった自分の中の湖に、
小石が投じられ漣が広がっていく感じ。

良い方に向かうか、悪い方に向かうか、

それとも何の影響もないか、

わからないけど。

もう少し機敏に、
もう少し耳を澄まして、

半歩でも踏み出してみよう。




今日借りた本。
■ニシノユキヒコの恋と冒険 (川上 弘美 著) 新潮社
■水曜の朝、午前三時 (蓮見 圭一 著) 新潮社
■アヒルと鴨のコインロッカー (伊坂 幸太郎 著) 東京創元社





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