*Fine Diary*
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「泰明殿、今、ご退出ですか」 陰陽寮の傍を通りかかったらちょうど泰明殿に出合いました。 「永泉か」 「はい、わたくしもただいま主上の御前を辞してきたばかりなのです」 「・・・・。」 「神子のもとに参られるのでしたらわたくしもご一緒してよろしいでしょうか」 「勝手にしろ」 「はいv」
泰明殿は近頃とても柔らかな表情をなされるようになられました。 言葉数は相変わらず少なく人によっては少々ぶっきらぼうな感じを受けることもあるでしょうけれども、これがこの方の話し方なのだと理解してからはわたくしは気にしないようにしているのです。というかすでに気にならなくなっているといったほうが良いかもしれません。 八葉の中でもイノリ殿や天真殿そしてこの泰明殿はわたくしを決して特別扱いなどなさいません。それがわたくしにはとても嬉しいのです。 無論、最初の頃は面食らうことも少なくはなかったけれど。
ともあれ、泰明殿は陰陽師として並々ならぬお力を持っておられるだけでなく、真言密教の秘法にもお詳しく、わたくしなど日々勉強させていただくことばかりなのです。
でも今日ばかりは少々ご機嫌が悪いようですね。 内裏で何かあったのかもしれません。 陰陽寮では晴明殿の愛弟子である泰明殿を妬む者もおり、泰明殿を悪し様に言う輩もあると聞きます。 ここは神子のお話でもして気分を晴らして差し上げましょう。
「昨日は神子の物忌みでございましたね」 「ああ」 「泰明殿がお傍に参られたと聞きましたが」 「そうだ」 「それは、神子がさぞお喜びになったことでしょう」 龍神の神子あかね殿がこの泰明殿をことを好いているのではないでしょうかとわたくしが思うようになったのはつい最近のことです。。 僧侶のわたくしがそう思うくらいだから周囲の方々はとうに気づいておいでだったらしいのですが。 「喜ぶ?」 泰明殿は怪訝そうに眉をひそめられました。 「なぜ、神子が喜ぶ?」 「・・・・は?」 この方は神子に愛されているという自覚がおありにならないのでしょうか。 「なぜと申しましても・・・昨日神子はご機嫌よく過ごされたのではありませぬか?」 「・・・神子は泣いていた」 「ええ!?」 神子・・・何かお辛いことでもあったのでしょうか? それとも泰明殿を好いておられるというのはわたくしの浅はかな思い過ごし? ああ、できることならお悩みの神子をわたくしが慰めて差し上げたい。 ですが、わたくしごとき儚い身の上のものが神子のご相談に乗るなどと大それたことは・・・
と、とりあえず昨日の神子の様子をもっと詳しくお聞きしてみましょう。
「泰明殿?神子はなぜ泣かれたのですか?」 「わからぬ」 「はあ・・・」 「では何をされているときに神子はむずがられたのでしょう?」 「手習いだ」 「手習い?」 物忌みで余人を交えずせっかく二人きりになれる機会だというのに、なぜ手習いなど・・・ 「神子が暇だというので、ならば手習いをと勧めたのだが」 「そ、それは・・・」 神子もお気の毒に。 神子としては泰明殿と語り合う絶好の機会でしたでしょうに。 「神子の字があまりに酷いので添削をしたところ泣かれてしまったのだ」 「泰明殿・・・」 それでは神子でなくとも泣きたくなるというもの。 やはり神子は泰明殿を好いておられるのでしょうね。 泰明殿も神子を憎からず思っておいでなのはわたくしにはわかっておりますのに。 「永泉、私は何か間違ったのだろうか?神子の心に添わぬ行いをするなど八葉としてあってはならぬことだ」 「・・・・・(くす)」
不器用な方です。
「何がおかしい?」
泰明殿、浅学菲才のわたくしにもあなたにお教えすることがあったようです。 僧侶のわたくし故、それほど詳しいわけではありませんが、友雅殿のようなその道のなんといいましたか・・・そう「えきすぱぁと」でしたか?その「えきすぱぁと」にお教え願うよりも帰ってわたくしほどの段階から始めたほうが良いかもしれません。
男女の恋の道は。
「何がおかしい?」 「いいえ。では神子が喜びそうな甘いお菓子や美しい小物など見繕いましょうか」 「何?だが、神子の下に急ぐのではなかったのか」 「よいのです。さぁ、市に向かいますよ、泰明殿」
もっとも泰明殿のまっすぐな物言いは、自覚していらっしゃろうが、無自覚でいらっしゃろうが神子の心を射止めるだけの威力を十分お持ちなのだとわたくしは思うのですが・・・でも少しわたくしにもお手伝いさせていただきましょう。
仏に仕える身が一度は還俗しても良いと思ったほど素晴らしい方のために。
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