パラダイムチェンジ

2004年07月30日(金) 1リーグ制か2リーグ制か、それが問題だ

先々週、阪神タイガースの久万オーナーが、来期の1リーグ制導入に
異論を唱え、巨人をのぞく他のセリーグ4球団オーナーが同調する意向
を示したため、プロ野球再編の話は新展開をむかえた。

7/26に行なわれた12球団社長による代表者会議では、来期は1リーグで
迎えたいパリーグ側と、できれば今の巨人戦利権を守りたいセリーグ
5球団側で意見は平行線をたどり、7時間に渡って議論を続けても、結論
は生まれなかったらしい。

とりあえず、今のところの流れでは、9月のオーナー会議で、一気に
1リーグ制移行の流れにするのは、難しい雰囲気のようだ。
堤西武ライオンズオーナーや、宮内オリックスオーナーはガックリと
肩を落としているのかもしれない。

現在一番可能性が高いのは、来期からの1リーグ制移行は、日本的に
先送りし、来期のパリーグの球団経営を参考にしてやっぱり立ち行か
ない、という事での1リーグ制移行というのが、ありうる選択肢のよう
な気がする。

また、先週末の横浜−巨人戦の視聴率は、週末にもかかわらず、1ケタ
〜10%前半という体たらくだったようだ。
今回のプロ野球騒動や先行きの見えない議論で、一般的な視聴者の、
プロ野球離れは思った以上に進んでいるようである。

これでは、せっかく横浜ベイスターズという自前のチームを持ち、
自分の局のゴールデンタイムに放送したTBSとしても泣くに泣けない
だろう。

巨人の親会社の読売新聞にしたって、ライバルの朝日新聞(しかも
ナベツネが最も嫌う左派系新聞)に、「1リーグ制に反対70%」という
世論調査をつきつけられ、ナベツネさんは、自分の思い通りに事が
運ばないどころか、一番かわいいはずの巨人戦の視聴率がこのまま
長期低落傾向が続けば、そうとう荒れてくれそうである。


いずれにせよ、9月のオーナー会議が開かれるまでは、何がどう変化
してもおかしくはない、先行きの読めない状況になってきた。
はたしてどうなるんだろうか。

でも、そう考えると、1リーグ制がいいのか、(あくまで)現行のままの
2リーグ制がいいのか、一概には言えない気もする。
どう考えたって、パリーグにセリーグとの交流戦が組み込まれた所で
焼け石に水なのは目に見えているわけで。

ただ一ついえるのは、1リーグ制か2リーグ制か、「どちらか一つを選ば
なきゃいけないという事はすでに状況に対して出遅れている」かもしれ
ない、という事である。

と、いうのを最近出たばっかりの内田樹著の「街場の現代思想」 の中で
見つけておお、と膝を打ったのだ。
以下引用。


「決断というのは、できるだけしない方がとよいと思います。といいますのは
『決断をしなければならない』というのは、すでに選択肢が限定された
状況に追い込まれているということを意味するからです。選択肢が限定
されない状況に追い込まれないこと、それが『正しい決断をする』
ことより、ずっとたいせつなことなのです」(略)

具体例を考えればお分かりになるだろうが、「早期定年退職で割り増し
退職金をもらって今すぐ辞めるのと、定年まで賃金五割カットとどっち
がいい?」というような問いを突きつけられて困るというのは、「決
断」でもなんでもない。それは「ではいよいよ死刑執行の時間となっ
た。さて、君はワニに食べられて死ぬのと、アナコンダに呑まれて死ぬ
のと、どちらがよろしいかな。you have the choice」と宣告されて
いるようなものであって、そんなものを私どもは「決断」とか「選択
肢」とかいうふうには呼ばないのである。

知的努力というものは、ワニとアナコンダのどっちがいいかというよう
な不毛な選択において適切な判断を下すためにではなく、「そのような
選択にいかに直面しないですむか」に向けて集中しなければならない。

右すればワニ、左すればアナコンダというような分岐点にまでずるずる
引っぱられてゆく人間というのは、それ以前における重要な決断におい
て繰り返し間違いを犯しており、その清算を迫られている、というだけ
のことである。



この話、たとえばイラク戦争の是非とか、自衛隊派遣の是非などの二者
択一にも応用できそうだが、それはおいといて。

今回の場合、問題なのは、1リーグ制か2リーグ制かなのではなく、
現行の対巨人戦収入以外の収入源を考えられず、結果親会社の広告費で
赤字を補填し続ける、という今までの球団経営の体質に一番の問題が
あるということなのかもしれない。

そして1リーグがいいのか、それとも2リーグでもなんとかやっていける
のか、というのは事前に結論が出るものでもないので、ここは古田選手
会会長や、野崎阪神球団社長の言うとおり、まずは1年間の猶予をつく
って、とりあえず、議論をして次善の策を講じたほうがいいような気も
するのである。

それはメインバンクであるUFJ銀行の、東京三菱への吸収合併で、球団
経営の先行きの見えないダイエーにしたって、地元密着という形を選べ
ば、この先パリーグのままでも生き残る可能性はあるのだろうし、今年
から北海道に移転した日本ハムにしても同様だろう。

木村剛が以前Blogで書いていたように、今一番大切なのはいかにプロ
野球というビジネスを利潤の上げられるビジネスに転換できるか、と
いう事なんだろうし。

そのためにはもう語りつくされたことだと思うが、30億円の新規参入
障壁を取っ払うとか、地方移転の可能性、地域密着化による球団経営
の健全化を目指した方が、よほどためになるのかもしれない。

それに対して近鉄の場合は、もう親会社に球団を支える体力と意欲が
なくなったというのなら、さっさと球団経営から手を引くのが妥当だ
ろうと思うのである。
でもその代わりに合併したりせず、さっさとライブドアでもどこへでも
売ってしまうほうがいいんじゃないかな。

そこまでして(株式の20%を保有する形までして)近鉄のオーナーが
球界に残るメリットが、どこにあるんだろう。
ただ単に自分の権威欲とか、名誉欲を満足させたいだけじゃん。

以前、河合隼雄と平尾誠二の対談本『「日本型」思考法ではもう
勝てない』
の中で河合隼雄が言っていたが、日本社会というのは、
個人ではなく、場の論理になるため、たとえば近鉄球団オーナーとか、
本社社長という肩書きがなくなれば、とたんにただの人になってしまい、
影響力はなくなってしまう。
だから権力者はその座にしがみつく、と言っていたのを思い出した。

でも、そんなことをしているからこそ日本プロ野球界はまるでタイタ
ニックのように沈むはずのない船が、今まさに沈もうとしているように
見えるわけで。

近鉄オーナーはそこまでして、日本プロ野球をダメにした張本人として
A級戦犯入りしたいのかな。


現在発売中のNumber607号では、プロ野球選手会長の古田敦也が、
インタビューにこたえている。

その中で古田が語っているのは、経営陣に対して、闇雲に反対をして
いるわけではなく、また選手たちの年棒の高騰に対しても、アメリカの
メジャーリーグでは選手会が強硬に反対し、ストの原因にもなった、
サラリーキャップ制や年棒1億円以上の選手の減額制限の緩和に
対しても、理解を示している、という点である。

つまり自分たちの保身のためではなく、あくまでファンあってのプロ
野球であるという点から、発言をしていると思うのだ。

以下、古田の発言を引用すると、

7月10日の選手会の総会をふまえて考えれば、このまま強行してファン
が黙っているわけはないし、ファンに選手会が頼りにされていることも
事実です。ファンのためにやらなきゃということであれば、非常に悲し
いことだけど、刀を抜かなきゃいけない状況もありえる。選手の意識も
ひとつになっている。覚悟は持っています。

ファンの願い、ファンがやって欲しいということがあるんでしたら、
ストっていうカードを切らなきゃいけない状況もある。球団側があまり
に不誠実な対応を続けるのであれば、ストはある。ただ、それを避ける
ための努力はします。

――球界の将来に対するダメージという点では、ストを強行するより、
今回の再編を許すことの方が大きい?

それは全然大きいと思いますね。(略)
我々は、もうちょっと突き詰めて議論をした方がいいんじゃないか、と
言っているんです。でも、そういう声を無視して、あくまでゴリ押しす
るのであれば、それを止める方法がストしかないのであれば、もちろん
やる用意はしています。それはファンの方にも充分理解をしていただけ
る範囲だと思います。このままいった時の方がファンが離れる可能性、
愛想をつかされてしまう可能性はもっと高いと思っています。

――渡辺オーナーは、「やるならやればいい」といってますけども・・・

僕たちは考えて、やるときにはやります。ただ、やったときの影響は
真剣に考えてほしいですよね。「どうせやらねえだろう」みたいなス
タンスでいるなら、認識が大きく誤っている。それを真剣に考えた上で
議論しないと、話がまともな方に進まない(略)

――将来をにらんで球界発展のためのビジョンを提示する用意もあると
いうことですね。

本来そんなこと言わなくてもいいのかもしれませんよ。発展する組織と
か会社は、上にいる人が明確なビジョンを持って、動いていかなくては
いけない部分があります。

球界の組織だったら、コミッショナーとかが「こうやっていった方が
発展するんだ、みんなで話し合ってレギュレーションを作ろう」という
のが発展するためには、必要だと思います。そういう方がいらっしゃら
ないですしね。

いろんな問題が浮き彫りになったわけですから、改革案をいろいろ出し
ていきたいと思います。もちろん当面は止まってくれないとね。「一年
間止めます」と言ってくれれば、すぐ出せますし、どんどん出さないと
いけない。僕らじゃなくても、誰かが他の球団経営者でもいいですけど、
そうしないと球界は本当にダメになってしまうと思います。



さて、はたして誰が本当にプロ野球界の将来を考えてるといえるのか。
私たちは果たして本当に、日本プロ野球の「終わりの始まり」を今年
見ることになるんだろうか。



追記。
東京新聞7/28特報欄によると、26日の代表者会議の時、コミッショナーは海外旅行をしてたとか。
…本当に果たして日本のプロ野球界は大丈夫なんだろうか。


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