パラダイムチェンジ

2004年07月25日(日) 「69」

映画 「69」(注:音声付)を観てきた。
この映画、一言でいうなら、「痛快」であり、「抱腹絶倒」である。

そうだよなあ、高校生が主役の青春映画は、「エロスと妄想と、無鉄砲
と、おっちょこちょい」の映画だよなあ、と思ったのである。

舞台は1969年の佐世保。ベトナム戦争中の米軍基地があり、世間では
まだ全共闘、べ兵連が幅をきかせていた時代。
といっても、私が当時の事を知っているわけがない。なぜなら私が
生まれたのがこの年、69年なんだから。

その69年の佐世保を舞台にして、なにか面白いことはないかな、と
いつも探している若者たちが、なにかをやらかしてしまう映画である。

主演は今をときめく妻夫木聡、安藤政信で、二人とも高校生役を快演
しているのだが、この映画の影の主役は「イワセ」であり「指紋のナカ
ムラ」だろう。
彼らのしでかす出来事は、映画でぜひ、見てもらいたい。

腹をかかえて笑うことうけあいである。
というより、いたよね、こういう人たち。


でも、あらためて考えてみると、この映画と自分の高校時代の間には
17、8年の開きがあるのに、あんまり変わってないことに気がつく。

私たちの高校では、芸術的な話題になると、必ずゴダール論を持ち出す
先輩もいたし、勉強はからきしできなくて、バンドもヘタレでも、
クラスの人気者で、いつもなにかをしてくれそうな「ケン」みたいな
同級生もいたし、屋上はいつも気持ちよかったし。

そしてまだあの頃は、成田空港闘争の三里塚に行ってしまう、おっちょ
こちょいもいたし。
早稲田や明治や東大には、この映画で主人公たちが書きまくっていた
「カクメイ」とか「闘争」というアジ文句の看板が、学内を占拠して
いるのが普通だったし。

ヘルメットの下にタオルをかぶって全共闘、というギャグは通用した
だろうし、先生も、そういう冗談には笑っていても内心ピリッとした
緊張感が、まだ濃厚にあったような気がする。

バブルの終わる直前までの、私が見た風景の原点は、おそらくは私の
生まれたこの頃にあったんだろうなあ、と思うのである。
11PMを夜中に隠れてこそこそ見ているのを見つかっちゃうと、固まっ
ちゃったりとかね(自爆)。


もしも、今の高校生たちがこの映画を見て刺激を受け、学校をバリケー
ド封鎖したら、はたして周囲の大人たちはどんな反応をしめすんだろうか。

あの頃、といっても私が中学、高校生だった20年ほど前、先生の中には
まだ「暴力教師」はあたりまえのようにいたし、バンカラ(死語)な
不良もまだ生息していた。

そしてむやみに厳しい校則もあったし、それでもなお、世界はまだよく
なっていく、という根拠のない希望があったと思う。

はたして今の高校生たちには、そのように自分たちの前に立ちはだかる
壁や、わかりやすい敵、そして踏みにじられても失わない希望はあるの
かな。

そしてあの頃、すべての教師が嶋田久作のように聞き分けがなかった訳
でもなく、中には岸部一徳のような、さばけた大人がいて私たちは息を
つくことができたと思うのである。

また、クラスが完全に小さなグループにはわかれず、自分と違うタイプ
の人間ともつきあうのが当たり前、という雰囲気があったから、学校に
行ってそこでなにかが起こることをいつも楽しみにしていたような気も
するのである。

そしてそのことが、実は35年前は妻夫木聡演じる「ケン」のように快活
だった少年を、現在は苦虫をつぶしたような表情でなにかを語る「村上
龍」に変えたのかも、しれない。


この映画の話に戻ると、脚本のクドカンこと宮藤官九郎は、ホントに
原作のテイストを損なわないままに再構成し、さらにそこに新しい
テイストを加えるのがうまいよなあ、と感心させられる。

すべてのかつては高校生だった人たちに、オススメの映画である。


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harry [MAIL] [HOMEPAGE]

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