日記に仕事帰りの話題が多いのは、 その日の最後の出来事が鮮明に残るからだろう。 今日も終電。いつもの地下鉄。
降りる駅の階段に近いように、いつも車両の最後尾のドアから乗る。 そこに、今日は一組の親子。
終電で帰るときはいつも見かける母娘。 多分夜の商売なのだろう、母も娘も夜に合わせて濃い目の化粧。 娘は肩口に大きな花のタトゥ。
降りる駅は一緒なので、駅についてからもつい目で追ってしまう。 甘い香水が匂う。少しクドイ。
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終電だというのに、駅に人影は多い。 だが喧騒から離れていくうちに、人の気配は薄くなり、 夏独特の草木の香りの中を歩く。 自分が立てる衣擦れの音と、坂に抗うための呼吸が唯一のBGM。
今日は日記に何を書こうか、とか、 君の香水はどんな匂いだったかな、とか、 記憶を整理しながら歩く。
いつもの坂道を上がりきり、下り坂を左に折れる、その角の 電柱の影に猫を見つけた。
むこうもこちらを見ていた。
カバンの中にはデジカメがある。 写真撮ろうか、いや、フラッシュで猫が可哀想だ、と思い直して 足を家へ向けると、首輪の鈴がチリン、と鳴った。 一瞬だけ足を止めたが、気を取り直して歩き出した。 歩きながら、あの猫の目が何かに似てるな、と考える。 そして思い出した。
君の目に似ていたんだ。
安上がりな出会いにちょっとだけ嬉しくなって、 それを伝えようと、日記を書いている。
君の香水がどんな匂いか思い出せないけれど。 いままで嗅いだことの無い匂いだったな、と覚えてはいるけれど。
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