きりんの脱臼
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2006年04月30日(日) 笹井宏之

るてしいあるてしいあ あのあめゆきのあまいひと匙あげるやくそく  村上きわみ



なにもないようといいながら犬のようなひとが駆けてきた。
私にだってなにもないから、ないものをあたえることはできない。
でも、雪が降っている。
雪はつめたいので、やはりなにかをあたえなければならない。
そうして全身を確かめていたら、ジャズカルテットが出てきた。
ラッパのひとをあげたら、犬のようなひとは犬のようによろこんだ。

まだからだにはピアノと、太鼓と、コントラバスのひとが残っている。
私は生きてゆかねばならないので、大切にからだに残しておいたのだが、
犬のようなひとも生きてゆかねばならない。

どうしよう。

あたたかいものをあげると約束したのだった。
犬のようなひとは、犬のようではあるが、決して犬ではない。
かなしそうにラッパのひとがラッパを吹く。
私の内で、ピアノがつづく。
太鼓もつづく。
コントラバスには指があてられる。
ラッパのひとだけでは足りない。
からだはすぐにひえてしまうから、私は太鼓のひともやった。
これで半分半分。

あとは演奏が途切れないように、おたがいによくしなければならない。
私は犬のようなひとを愛し、犬のようなひとは私を愛した。

楽器が、鳴り響いた。

約束は、約束のまま。
季節だけがかたん、とかたむいて。



もうひとひ眠れば初夏になりそうな陽射しを束にして持ってゆく  笹井宏之


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