きりんの脱臼
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ここは、なかはられいこ(川柳作家)と村上きわみ(歌人)の
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晴れときどき曇り 息をする空と なかはられいこ
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裏庭は荒れ放題になっている。 丈の高い草。 ところどころに白い野の花、赤い野の花。 二階の物干台からながめていた。 均一店で購った缶の灰皿には「し」のかたちに歪んだいくつもの吸殻。 訪ねてくるのを待っていた。 いつ訪ねてくるのかはわからない。 今日なのか、来年なのか。あるいは十年後。 高い場所から眺める裏庭は、みどりいろの湖のようだ。 風の舌先にあそばれて、水面、いっせいに波立つ。 草も花も気持ちよく翻弄されている。 風の、恣意。 からだをうねらせながら竜が目の前を通りぬける。 竜の腹はおそろしく白い。
おいで。 わたし? そう、お前。おいで、ここに。 わたしでいいの? お前でなくちゃできないことだよ。だから、呼ぶ。 わたしになにができる? ありとあらゆること。あるいはたったひとつのこと。 むずかしいね。 とてもむずかしい。とてもかんたん。 ねえ。 なんだろう。なにを問う? ぜんぶ。あるいはたったひとつ。知りたい。教えて。 お前はお利口。お前はばかだね。
草のあいだを蜘蛛が走る。 遠い林ではやわらかな蝉の幼虫が地中深く身震いする。 ぬるいものと冷たいものがいりまじる。 水のような風だ。 桔梗をかかえた男がむこうからやってくる。 裏庭がいっせいに濡れ始める。 ありとあらゆるもの。たったひとつのもの。 まだなにもはじまっていない。 なにもかもこれからはじまるのだ。
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ただ一度つよく呼べ 老いた竜王のようにするどくひくく名を呼べ 村上きわみ
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