きりんの脱臼
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2003年10月23日(木) なかはられいこ

「もうずっと前からあなたを知っている」「コーラはよく振ってから飲もうね」   村上きわみ



目の前にドアがある。
開ける前からドアの向こうの景色を私はよく知っていた。

場所は海で、
季節は秋で、
それも午後で、
私たちはテトラポッドに腰掛けて、
きらきら光る波を見ている。

ジーンズを通して伝わってくる、
陽射しにあたためられたコンクリートの固い感触も、
潮をはらんだまま髪にまとわりつく風の匂いも、
スニーカーから8センチ下りたところで、
薄暗い水が立ててるタプンタプンという音も。

私はよく知っていた。
「私たち」が居た景色を、
ドアを開ける前から。


どこからか声がする。
「栓を抜く前にさ、よく振るんだ。こうするともっとおいしくなる」
コーラの瓶のくぼんだところを握って上下する手。
小指のつけ根あたりから甲の中心にかけて5センチほどの傷跡がある、手。

とつぜん、
ピシューッと音がして、
コーラが勢いよく放出される。
黒くて甘い水の弾丸で私は撃たれる。

はじける悲鳴。
底が抜けたような笑い声。

射抜かれてべたべたする髪。
肌にはりつくTシャツ。

知っている、知っている、知っている。
私は「私たち」を知っている。

そして、それは、もう、
「私たち」ではなくなったことも。

知っている。

あれ?
なんだ、私、怒ってるんだ。
さっきからドアにもたれたまま、

怒ってるんだ。



よく振ってあなたに返す秋の海     なかはられいこ


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