7月の後半に開催した花火大会をはじめとして、この部の中核をなすメンバーの持っていた求心力は部外者も多く追随させる結果となった。3年になってから正式に部の一員になった私は、この時期に至ってもまだ部外者のような感覚でいた。目まぐるしく移り変わる部員たちの動きに着いていくのはいささか大変な感じだった。すっかり行動力の無くなっていた私に巡ってきた最初で最後の能動的な学園活動は、いささか目先の甘美に囚われすぎていたきらいがある。
当時2年生だった部長のいっちゃんを中心にして部が動いていた訳だが、そのいっちゃんの側には常に同学年の舞ちゃんの姿があった。実際彼女ら2人は仲がよさそうに見えたし、性格の対照的な2人の間に主導権の衝突など皆無であったので、なおさら周囲には理想的に集団がまわっているように見えていたのだろう。ただその中心にいたいっちゃんの影には彼女が大好きな先輩である杏さんの影があったのだ。
花火大会の終幕、一人でちょっとした買出しに出かけた私は、一足先に帰宅の途についたいっちゃんの姿を図書館前の電話ボックスの中で見た。暗がりの中それを影で見続けるような趣味など無いので、私は用を済ませつつ、会場に戻るその足が彼女の帰宅の足と交わることを期待していた。が、彼女はまださっきの電話ボックスの中で話を続けている。その表情は先ほどまで歓喜の中心にいた満面の笑みを持つ彼女の顔ではなく、何か神妙な面持ち。それが杏さんとの会話であると見抜いたのはラザだった。私は彼の味方を自認していたので、違和感のある彼女の表情が気になったので、その旨をラザだけには話したのだった。
実際それはかなり早くに帰宅してしまった杏さんとの電話だったらしく、いっちゃんとしては現在の部の抱えるノリと、それに参加できないでいる杏さんの板ばさみになっていたようだ。当時の私はそんな彼女の状況などに気がつく訳も無く、ただただ気分のおもむくまま、目先の欲求を満たしているだけの矮小な人間だった。
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