水鏡 - 2002年10月04日(金) もう何日歩いているのだろう。爪先の感覚はもう無く なっている。それでも私はあの場所を目指して歩く。 雪原はどこまでも続く、何度目の夜明けなんだろう。 あの人と知り合った紫陽花の季節。 言われるまま、目隠しをした。あの人が全てだった。 生々しい温もりは今でも残っている。今どんなに身体 が冷たくなったとしても・・・。 ただ哀しいのはアナタの顔が面影が少しづつ思い出せ なくなっている事。思い出せるのはアナタと過ごした 罪深く甘い時間。何もかもが美しいだけのあの季節だ け。 私の気持ちが届かなかったから、こんなにも美しい思 い出だけが残るのでしょうか。罪深くて求めあってい たから美しい思い出だけが残るのでしょうか。こんな に冷たく白い世界で私は欲情しています。それでもア ナタの体温はここには無い。そう思うとあの頃の景色 が傷み始めます。もうアナタと知り合った頃に見た綺 麗な紫陽花は枯れて死んでしまいました。 ようやくたどり着いた湖に私は顔を映します。 アナタの声が聞きたかった。やさしいアナタの声が聞 きたかった。でも聞けないから携帯を水の中に落とし ました。耳を塞いでもアナタの声は離れないから。 冷たい指先をアナタの指だと思って絡ませます。ひん やりと冷たい事までもが、アナタを思い出します。そ うやってアナタは私にアナタを植え付けました。 アナタにしがみついてずっと生きたかった。アナタも そうだと思っていました。口づけしながら舌を切り落 とそうとアナタは提案しました。その通りに実行した のに、切り落としたのは私だけでした。口から血を吐 きながら、私は必死でした。アナタは私の腕に爪を立 てました。今でもその跡は残っています。だから私は アナタを背負いここまでやってきたのです。 あなたの声が指が季節が時間が染みついたままで、私 は上手になんか歩けるはずもない。 水面に映る目を瞑ったアナタと私の影。 波紋が広がってよく見えない。 アナタと一緒だったから、上手に歩いてきたけれど、 もう声を発さなくなってしまったアナタに方向を教え て貰う事も出来ないから、あの場所までは私が連れて いってあげるから。安心していてね。 縺れさせた腕に爪痕を残しましょう。 私とお揃いの場所に・・・。 指を絡ませ さぁ、私は何処へ・・・・。 こっこ参照 -
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