道化者の憂鬱...紫(ユカリ)

 

 

久々に - 2002年08月28日(水)

人形
私はとても真面目な女のコでした。
ただ、ちょっと人が良すぎただけでした。
付き合っていた男に貯金を全部持っていかれても。
仕事も真面目にこなしてそこそこの成績を残して、そこそこの貯金も持
っていました。けれど
深夜に及ぶ会議の後で上司に犯され写真を撮られ、いいように性欲処理
に使われました。
三回目の堕胎のあと医者にもう子供は諦めてくださいと言われた時に全
てを無くしてしまったと思いました。
私は会社を辞めてデートクラブで働き始めました。
性欲処理をする男達から全てを搾り取ってしまいたかったからです。
私にはもう怖いモノなんて無かったから、中で出されても平気でした。
私はあっという間に売れっ子になりました。
毎日、薄汚い精子まみれのお金がバカみたいに財布を膨らまします。
でも、そんなお金も私にはどうでも良いモノだったので、くだらないブ
ランド品を腐る程買い込んだりして、全て遣
ってしまってました。
数万円で買われる性欲を処理するだけの人形。
男達の目を、そういう風にしか感じ取れなくなっていました。
ここのところずっと、私を見ている視線を感じていたのですが、ソレも
そう言う視線なんだろうと思ってずっと無視
していましたが、毎日続くその視線はとても温かくくすぐったいモノで
私は心のどこかでその視線を楽しみにもして
いました。
会社勤めをしていた頃は、スタバでお気に入りの本を読むのが大好きで
した。
今の私にはとてもとても遠い昔の事の様に思えます。たった数ヶ月しか
経っていないのに、こんなに変わってしまう
自分に苦笑いするしかありませんでした。会社勤めをしていたあの頃と
同じ事をしたら何かが変わるのではないかと思った私は、本を買ってテ
ラスでコーヒーを飲んでみました。

何も考え無ければとても平穏でした。落ちかかった日射しと気持ちの良
い風が私の周りを包んでくれます。このま
ま・・・そう思った矢先にデートクラブの事務所から電話がかかってき
て、私はバラバラに壊されてしまいました。
何で?何の為に?私は誰?どうしたらいいの?
そんな思いが頭の中をくるくる回ります。
でも私は行かなくてはいけないのです。
人形として、自分の存在価値を確かめに行かなくてはならないのです。
行こうと思ったその時に、とても強く腕を掴まれました。
その瞳はどうしてそんな事をしに行くの?
ここにいれば大丈夫なのに。
そう物語っていました。
私は腕を振りほどけずにそのまま泣きました。
声も出さずにただ泣きました。


五月蠅く私の携帯電話が鳴りました。
私の腕を掴んで歩いている彼が道路に放り出してくれました。
私はもう大丈夫なんだと思いました。
電車に揺られながら、少しずつ話しをしました。
彼は泣き出してしまいました。
私は自分の事で泣く男がいるなんて思わなかったので、可笑しくて笑っ
てしまいました。
電車を降りてスーパーで買い物をしました。
家族連れが多くて私はとても哀しい気持ちになりました。
一度でもいいから同じ様な事がしてみたかったからです。
坂道を登りながら、台所洗剤のコマーシャルみたいに手を繋ぎスーパー
の袋を下げて笑い合っていられる事が出来るのが
私にとってはとても幸せでした。
公園のバラも私を見送ってくれてるみたいで、本当に楽しかったです。
白い洋館も私を幸せな気持ちにさせてくれました。
気持ちの良い風が出窓から白いレースを揺らして吹き込んできます。
私達はビールで乾杯をして、終始笑っていました。
私は、彼にだったら我が儘が言える様な気がしました。
私は柔らかい絨毯の上に座って、ソファーに座る彼の膝に頭を乗せて優
しく髪を撫でてもらいました。
彼の膝に口づけをして指を絡ませて、こんなに居心地良くして貰ってる
お礼がどうしてもしたくて、これから言う私の我
が儘をどうしても聞いて欲しかったから、私は自分のしている銀の指輪
を彼の小指につけました。
子供が抱っことせがむ様に、私は彼に両腕を伸ばして強く抱きしめて貰
いました。そうしてお願いをしました。
私を殺して。
彼は不思議な顔をしながら私の首筋に唇を這わしました。
私は彼の手を強く握ってもう一度、お願いをしました。
何度も何度もキスをして、彼は私を抱き上げ白いシーツに二人でくるま
りました。
彼の体温を忘れない様に、彼の臭いを忘れない様に、彼の気持ちを忘れ
ない様に、私は必死で彼にしがみつきました。
彼の瞳を見つめ小指の銀の指輪にキスした後に、彼の十本の指を私の首
に巻きつかせました。
ありがとう。私はそう言って彼を見つめました。
彼の瞳には観覧車がキラキラ揺れていて、とても綺麗に見えました。
彼の10本の指が私の白い喉を包みながら
この指がカラダが彼が全て私だけの彼になりますように
そう、願いながら・・・
私はそっと目を閉じました


温かくて優しい唇を額に感じながら
私はとてもしあわせでした。
こんなに、温かい口づけはとても久しぶりだったからです。
大切に私を抱きしめる力を感じて
私はとてもしあわせです。
こんなに、力強い腕は私をまるごと包んでくれる為だけにあるから。

懐かしい甘い香りの温かいものに、全身を包まれて優しく撫でられて、
私は本当にしあわせでした。

もう、目を開けられなくなってしまっても・・・


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