Spilt Pieces
2003年10月24日(金)  雲
雲の上に乗れないと気づいたのは、一体いつの頃だったろう。
山に登って雲の中にいても、まだもっと上に形としての雲があるのだと信じたくなる。
気がつけば「雲の上」は、甘い夢物語の中にしかない場所になってしまった。


昨日の天気は雨が降ったり止んだり、地平線の向こうまで雲が続いているかのよう。
地球全体が覆われているような、錯覚とも言い切れない空間に浮かぶ。
どこまで行っても追いつけるはずなどないのに、限りや終わりというものが確かにあるのだと実感する。
柵で囲われた、小さな球体の上に自分がいるのだと思った。
いやむしろ、天動説さえ信じられるような気がした。
呼吸の仕方を忘れてしまいそうな、雲と空。


切れ目から見える空の蒼さに、時折泣きたくなる。
自分の感受性が枯れてはいないのだと、辛うじて確認をする。
広い世界だと思っていた。
雲に乗ってどこまで飛んだとしても途切れないのだと。
でもきっと、どこかに終わりはあるのだろうということを、大きくなるにつれて本能的に知ってしまった。
この狭い日本から出たことさえない私ではあるけれど、何となく。


世の中を見ていると、ほんの些細なたくさんのことがうまくいっていない。
小さな積み重ねと、矛盾の欠片があちらこちらに。
誰もが重力に逆らう方法を探そうとしているのではないか、なんて思う。
突拍子もない発想だとは思うけれど。
単体で口に入れると決して甘くも何ともないオブラートのように、味気ない膜に包まれた空間の中で、ぼんやりとうまくいくための方法を模索する。
きっと軽く縺れ目を解いてみたら、真実なんてほんの少し。
そもそもどこに何があるのかさえ、私には分かっていないのだ。
ましてや真実の在り処など。
だから、全体が限られたものだと分かっていても、それよりももっと小さな枠の中にいることを安心だと定義してしまうのだろうか。


雲に乗れたとしても、たどり着ける場所には限りがある。
きっと、乗れないことを本当に実感した頃、失望はそう色濃いものではなかった。
濃い霧が延々と続いていくかのような、手を伸ばしても絡むことさえしない糸。
白くて、味気ない、憧れとはほど遠い、空気があるだけ。
肌にじとっと張り付くその湿気は、雨の日のそれを髣髴とさせる。
雲は、遠くから見ていたから雲だった。
だから近づかないのが私にとって一番なのだと知った。
それでも、離れて生きていくことなどは未だにできないのだけれど。


雲の中を運転しているようだ、と思った。
高くない海抜、いつもはただ見上げるだけの空間。
大地全体が包囲されているかのような、雲だらけの日。
今もまだ心のどこかでは、雲に乗って歩き回れると信じているから不思議で。
手を伸ばしても届かないから、手を伸ばしたくなるんだろうか。
限りがあると、分かっていても。
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