2003年11月03日(月)  終わって、始まる。
鹿児島最終日。午前中まで実習。午後から飛行機。また胸が痛くなる。
 
「行ってらっしゃい」「行ってきます」という挨拶で皆とお別れ。
「また帰ってきてね」「絶対帰ってきます」それは真実なのかそれとも。
 
空港まで送ってくれた後輩と先輩。
「先輩が帰ってきたらまた焼き肉食いに行きましょうよ」
「今度は釣りに連れて行くよ」
後部座席で窓から流れる景色をぼんやり眺めながら曖昧に頷く。
 
青い白衣を脱いだ時、4ヶ月前のあの思いが甦った。
 
「またどっか行っちゃうの?」
「うん。だけど、ほら、また帰ってくるよ」
「どこに何しに行ってるの?」
「うん。その理由がわかったら僕も楽なんだけどね」
「今度はいつ?」
「そうだね。またあなたが僕のことを忘れそうになったときに帰ってくるよ」
 
患者さんとの最後の会話。僕が言っていることは全てが嘘なのか。僕は誰に真実を語っているのだろうか。僕に真実はあるのだろうか。どこに、行こうとしているのだろうか。
 
東京に帰っても、僕を待っている人はいない。迷ってばかりで待たせてばかりの自分に彼女がとうとう愛想を尽かした。自分のことなんだけど、自分の力ではどうにもできないことばかりで、いろんなものに翻弄されて、それを操っているようで、操られて、表情一つ変えず、毎日毎日ゴメンと呟き、受話器を置いて、再びゴメンと独り言。
 
僕は幸せになれないし、勿論、誰も幸せにできない。
 
東京行きの飛行機は僕の今後の人生を象徴するようにひどく揺れた。勢いよく滑走路を走り、一気に上昇し、厚い厚い雲の中へ。その黒い雲の中は雨が降り稲妻が走っている。窓から見える黒い景色を眺めながら、膝に置いた手に力を入れる。
 
ひどく揺れる。この飛行機は本当にひどく揺れる。
 
僕を迎えているようで、お前には不似合いだと言っているような東京の夜景が見える。肩を落とし一人で搭乗口を出て、一人で手荷物受取り所へ。羽田空港の喧噪は僕の杞憂を紛らわせてくれる。
 
また何かが終わって何かが始まった。
 
終わってから、始まる。僕の人生はこのパターンが多すぎる。
 
「おかえり」
 
泣き出しそうな声で、僕はその女性に応えた。
 
「ただいま」

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