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昨日の雪


昨日、少し寝坊した。
ほんの10分ぐらいだけど、寒くてなかなか布団から出れなかった。

でも、そろそろギリギリの時間だ。起きなきゃ。

そして起きた。

カーテン開けた。

白!!嘘!!雪ーっ!!

その瞬間、生まれて始めて自分でも信じられない気持ちが俺を襲った。

それは「やばい。仕事遅れる。」という、なんとも隠しようのない、
あり得ない、今までじゃあり得ない、恐ろしい感情だった。

すぐ、かき消したが明らかに俺の心にまっ先に浮かび上がった、
奈落の底まで成り下がった感情だった。

雪だぜ!心踊るだろう!

なのに、なのに、俺と来たら急いでテレビつけて電車の運行状況を確認した。

まず、表に駆け出すだろう!まず、雪に顔埋めるだろう!

そうだろう?そうだろう?

なのに、なのに、「電車は多少の遅れが出ておりますが、都心の主な路線は
通常通り運行しております。」のニュースキャスターの声にほっと胸を撫で下ろしてる。

死んじゃえ。

東小金井駅(中央線沿線なのにちょっと寂れた錆び付いた駅。)までの道のり、一面雪景色。

なのに、なのに、俺はまっすぐ駅へ向かってる。一面雪景色なのに・・・・・・・。

駅に着いた。ニュースキャスターは嘘つきだった。確かに電車はノロノロ、
2分間隔でホームになだれ込んでくるが、ホームの端から端まで人一人通る
隙間もない程の人込み。

電車は電車で、子供もお年寄りも関係なく詰め込まれた電車で、ホームに着
いても新たに乗れるスペースなんかあったもんじゃない。

なのに無理やり乗ろうとするオヤジ。電車の中から苦しそうな、おじいさん
の声が聞こえた。制服姿の小さい子供はおとなしく小さくなって、ただこの
窮屈がおさまるのを無邪気に静かに、出かける時お母さんに「気をつけて
行っってらっしゃい」と言われた愛の言葉を繰り返してる。

何十分くらいホームに並んでいただろうか。
やっと次、電車が来たら乗れる番が回ってきた。
顔に冷たい雪が降り掛かる。

もっと、もっと、降ってくれ。

電車が来た。当然乗れるスペースがなかった。俺の後ろにいた人が、
俺を飛び越え、先に電車の中に入ろうとした。

卑怯者。

俺はその列から離れもう一度一番後ろの列に並び直した。
何故かそうしたくなった。

東小金井から吉祥寺までたったの3駅。

だが、家を出てから吉祥寺の駅にオレが着くまでに、もうすでに1時間が過
ぎようとしていた。

のろまな奴はとっととはじき出され、ふざけためでたいツラが群れをなす。

吉祥寺に着いた頃はもう、朝のラッシュが普通であれば一段落する時間だっ
た為、まだ人はたくさんいたが、電車は確かに2分間隔でノロノロ出ていた
ため、待つ事もなく普通に乗れた。

こんな時でも、遅刻は仕方ないにしても、頑張って少しでも早く会社に行こ
うとする人がたくさんいるって言うのに、俺は、卑怯な人間を見かけて思わ
ず涙が落っこちそうになってる。投げやりになっちまった。

大幅な遅刻。それにしても遅すぎだぞ。と冷たい視線もあれば、笑ってる人
もいれば、もう仕事に取りかかってる人もいらば、ふんぞり返って新聞読ん
でる人もいる。

「すいません遅れました。」ペコリと頭下げ、こそこそ自分の席に座る。

そのくせ、「大変だった?」の問いに、どれだけ混んでたか説明してる俺。

死んじゃえ。

窓の外は、全て嘘。
全て埋め尽くして。あなたのその白さで。

雪だぜ!心踊らね〜のかよ!!



2002年12月11日(水)

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