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2002年11月02日(土)

父上の誕生日

11月2日生まれ。さそり座のAB型。同じ誕生日の有名人:深田恭子。
父上のプロフィールである(笑)

ってことで、墓参りに夕方になって行って来た。
前日に、母上から電話はあったものの、一言も「明日墓参り行くの?」とは言われず。
本格的に、母上は父上の誕生日を忘れ去っている模様。
父上は、68歳になった。

前日に買っておいた花と好物のウーロンハイを持って墓につくと、どうやら誰かが来た模様。
おかしなもので、墓参りの仕方一つで、母上であるか他の誰かであるかが分かるものだ。
お線香の色がピンクだった。お酒は無い。先月の23日から、花は変わって無い。タバコも無い。
変わりに、父上が食べ無そうなお菓子が二つ。好きなココアがポツンと置いてあった。
母上では無い。じゃぁ、誰?
「おとん、誰来たの?」と、私は、母上が先月上げた菊の上に止まって動かぬバッタに話し掛けた。

どちらにしても、気の効かない人間が墓参りに来たことに変わりは無く。
私が先月上げた花はガーベラであり、それらは枯れて、水も腐ってしまった様子であるにも関わらず、変えて貰えなかったようだ。
一応、墓石の天辺が濡れているので、水をかけるということは知ってる人物らしい。

水組場を二往復して、水をかけ、お花を供え、線香に火をつけ、タバコに火をつけ、やっと落ち着いて父上に話し掛けようとしたところで、お寺の住人であるお婆ちゃんが現れた。
このお寺さんは、とても古く、お坊さんは今は居ない。
お寺さんの家には娘しか居なかったそうで、お婿さんに迎えたお坊さんが亡くなられてしまったそうだ。
ってことは、今、私の目の前に居るのは、お寺のお嫁さんの実の母親って事だろう。
「こんにちわ。お世話になってます」と挨拶をすると
「よく、いらっしゃるわねぇ」と言われた。
「今日は、誕生日なんですよ」と答えると、お婆ちゃんはヨレヨレしながら近寄ってきて、

「あたしゃなんて、なかなか逝けなくてねぇ・・・」

と呟いた。
これこれ。この台詞。年寄りからよく聞くのであるが、相手の立場を考えて言ってもらいたいものだと思う。
「な〜んで、こんなに早く居なくなっちゃうかなぁ。。。」と悲しむ遺族の前で
「早く逝きたいよ」と平気でほざくのは、普通に考えたらどうかと思うのだけど?(笑)
父上の母親は、もう90をとっくに超えている。その婆ちゃんがピンピンしている。
父上が亡くなってから、婆ちゃんの口癖は
「早く、迎えに来ておくれ」
だそうなのだが、きっと、父上は嫌がっているに違いない。
アンタがきたら、俺はゆっくり休めないとでも言ってると思う。

「そんな事おっしゃらないで。まだまだお元気で居てくださいよ」
お寺さんのお婆ちゃんだとなんとなく分かる程度の、はっきり言えば見ず知らずのお婆ちゃんに社交辞令を返す私。
話し掛けたことがいけなかったのか、お婆ちゃんは愚痴り始めた。

「稲刈りするって言ったって、こんなんじゃ、まだじゃないの」

稲?墓に稲?誰もが不思議に思って正解だ。
父上の墓の側に、発泡スチロールの四角い箱二つ置いてある。
確かに、そっからニョキンと生えているのは、稲に見えるっちゃ〜見える。
どうやら、それらしい。
っつーか、「稲刈り」などとそれは呼べないと思う。
刈るっつーのは、カマで刈るってことで、それの場合は、はさみでチョキる程度だろう?
とか無意味なツッコミを内心で入れつつ
「ああ、まだ早いみたいですねぇ・・・」
仕方なく、愛想を振り撒く私。

そして、更にお婆ちゃんの愚痴は続く。時刻は夕方16時半頃。夕暮れ時だ。

「まったく、こんな時間まで帰って来ないのよ」

唐突すぎて、何処の誰の文句だか、一瞬分からない。

「一体、どこで何して遊んでるんだか、ねぇ?」

同意を求められても、非常に困る。
どうやら、帰ってこない娘のことを愚痴り始めたらしい。
仕方が無いので、ハハハハハハと乾いた笑いを返すと、尚もお婆ちゃんの愚痴は続く。

「稲刈りするったって、これじゃぁ、刈れないじゃないの」

どうやら、振り出しに戻ってしまったらしい。
困り果て、張り付いたような笑顔を返す私を尻目に、移動しながらもお婆ちゃんは何やら文句をたれている。
どんどん歩きながら言うので、遠くに行ってしまうと何を言ってるのか分からない。
仕方ないから、姿が木陰に消えるまで、文句を聞いてるフリをしてお婆ちゃんを見送った後、
「これじゃぁ、タバコも吸った気しね〜よな」
と、もう一本タバコに火をつけ、父上に上げた。
すると、消えたハズのお婆ちゃんがひょっこり顔を木陰から出し

「まったく、こんな時間までどこ行ってるんだろ〜ねぇ〜」

と、また遠くから声を大にして話し掛けてきた。
仕方ないのでこちらも少々デカい声で
「ちょっと、遅いですよねぇ?」
と、まだ夕方だけど、まだ16:30だけどと思いながらも答えてあげた。
そして、父上に
「落ちつかね〜から、帰るよ。また、16日に来るからさ」
と言って手を合わせた。
きっと、困ってる私が相当おかしかったに違いない。
そんな私を、菊の上に乗ったバッタが、じっと動かずに見上げていた。

帰宅してから、母上に電話をすると、墓に来てたのはどうやら我姉妹2号らしい。
どうりで気が効かないハズだ。
2号は、今年に入って月命日は愚か、お盆にすら顔を出さなかった。
だからきっと、
「おいっ!珍しいヤツが来たぞっ!」
と、父上は言っていたに違いない。

そう。あのバッタはやっぱり、父上だったかもしれない。

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