今後の治療は、半合致移植といって、母子間免疫寛容による再移植が予定されている。
具体的には、弟の造血幹細胞を移植することになる。弟と俺とは、HLAが、父由来のもののみ一致で、母由来のものは不一致なので、本来、ドナーの対象にはならない。しかし、NIMA(非遺伝母HLA抗原)には免疫寛容であるという理論を論拠とした半合致移植が、徐々に症例も増えてきていて、これにチャレンジする予定だ。
【血縁間移植はどこまでできる?】
1 HLA一致とGVHD方向HLA適合 同胞間でHLAが一致する確率は25%である(世界共通)。日本人の場合に限って親子間でHLAが一致する確率は約2%あり、GVHD方向に0ミスマッチの確率はその倍以上ある。さらに3親等〜5親等の血縁親族でも同程度の確率でHLA適合ドナーが得られる。ここまでは問題なく第一選択肢になる。 2 血縁間HLA1ミスマッチ 血縁間では家族のHLA-A,B,DR検査から、HLAハプロタイプの一致(haploidenticalという)が保証できることが多い(骨髄バンクドナーは家族のHLA-A,B,DRが分からないのでハプロタイプを決められない。よって、血縁間HLA-A,B,DRミスマッチは間違いなく「片方のHLAハプロタイプが一致している」血縁である。非血縁間のHLA一致より、HLA適合度が高い可能性がある。そのうえ、マイナー組織適合性抗原の適合性は非血縁間に比べて血縁間は2倍も良好である。すなわち、同胞はHLA不適合でも、非血縁間6/6マッチより急性GVHDの発症率が低い。
3 血縁間HLA2座以上のミスマッチ移植は可能か? ここで導入しなければならない概念は母児免疫寛容である。哺乳動物は2億年前に地球上に現れ、巨大爬虫類の大絶滅という破天荒な時を生き延びた。胎児を数周〜数ヶ月体内に保持して、生命を育て、仔を効率よく成長させる能力がそれを可能にしたのかもしれない。そのとき、それより2億年前からMHC(ヒトではHLA)はすでに機能していて、自己以外を拒絶する能力はあったはずである。にもかかわらず「半分は非自己」(セミ・アロ移植片)たる胎児をヒトは10ヶ月も胎内において育てることができる。移植片を寛容して維持する能力を哺乳動物は得たのである。この母児免疫寛容は(詳しく述べる紙数なないが)HLA不適合を寛容する能力に等しい。 母は児の不適合HLAを寛容し、児は母の不適合HLAを寛容するから妊娠は成立する。 ・とくに児は母の不適合HLAたる「非遺伝母HLA抗原」を寛容する能力を胎児期に獲得し、一生の間維持するらしい。「非遺伝母HLA抗原」をNIMA(non-inherited maternal HLA antigens)と呼ぶ。児はNIMAを寛容している。これをNIMAコンセプトという。 ・一方、妊娠中の母は児の不適合HLAたる「遺伝父HLA抗原」;IPA(inherited paternal HLA antigens)を寛容する現象は(全部ではないが)分娩後も続くらしいことがわかってきた。 母がドナーのときは児のIPAがGVHD方向不適合であり、児にとって母のNIMAは拒絶方向の不適合である。母子間移植はNIMA/IPAコンセプトによって行われる。ただし、母は児の不適合マイナー組織適合性抗原の全てに対しては寛容が成立していなくて、むしろ前感作が成立しているので、マイナー組織適合性抗原を標的とするGVHDとGVL(抗白血病反応)は他の組合せより強く起ると考えられる。
− 特定非営利活動法人HLA研究所所長 佐治博夫 −
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