道路が雨で濡れていた。身体も雨で濡れたままだった。たぶん、疲れていたんだと思う。スキー場からの帰り道だった。
家に着く前の最後の緩い右カーブ。前方にフラッシュグリーンのVWビートルの旧車が走っていた。そこで、記憶が一旦途絶えた。
次の瞬間、斜めになった車内で、俺は目が覚めた。
いったい、何が起こったのだろう?クラクションが鳴りっぱなし。頭がハンドルに打ちつけられている。右目の視力が…
右目が見えない。ルームミラーで確認すると、右眉内側がテニスボールのように膨れている。痺れていて痛くはないけど、もしかして、右目を潰してしまったのか?
あー。やっちまった。居眠り運転、自損事故。ぶつかった相手は、3月下旬の硬く締まった雪の壁。
運転席側が斜め上になっていたので、車から出るのに苦労した。車の前に回ると、この事故が凄いものであることが、だんだん分かってきた。なんと、ボンネットの左側が無くなってエンジンがむき出しになっている。スキーキャリアが50メートル以上先の雪上までふっ飛んでいる(当時、一番丈夫だと言われていたテルッツォのレインガード直締めタイプを、初代スプリンターカリブに付けていた。)。
考えてみれば、当たり前か。居眠りでノーブレーキだもんね。カタログに出ているオフセット衝突実験と同じだ。
こんな事故を昭和63年3月26日午後4時36分、起こした。(その後、救急車が来て、後日、警察で一応の取り調べを受けて…)
そして、その9日後、初めて人の親となり、翌日には、左目片目で、我が子と対面するのであった。親として情けない出発になった。
あれから、20年。
今日は病院のベッドの上。なんか、状況が似ているよなあ。我が子が二十歳になる節目だというのに。
まあ、そんな星のもとに生まれた娘よ、明日はおめでとう。そして、妻よ、ありがとう。
【Referer】
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