華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2008年08月03日(日)

like a boy,like a spy. 〜check-in〜


<前回からの続き>



俺はアキに携帯電話に帰ってくるように、メールを打った。
すぐに返事が届く。

俺はアキに電話した。


「まだ帰らないで。今から、もう一度出ておいでよ」
 「…えっ?」

「一緒に、甘い時間を過ごそうぜ」
 「…でも、でも」

「迷うな、戻って来い」


アキは再び俺の前に現れた。
当惑した表情は、どこか上気して頬が赤らむ。
迷いや憂いを帯びた、はっきりしない仕草。

服装こそ先ほどと同じだが、それ以外の全てはすでに女だと感じた。


アキを俺の車に乗せ、駐車場を出た。


 「あの、私…」
「何だ?」

 「そんな軽い女じゃないです…」
「判ってるよ。だからアキを呼び返した」

 「本当に判ってくれますか?」
「でも俺が抱いた時、自分でもわかったんじゃない?」

 「…何がですか?」
「自分の、身体の芯から熱い何かが溢れてきていること」

 「…」
「濡れてるでしょ?」

 「知らないです、そんな突然…」


俺はアキの腿に手を伸ばそうと左手を出す。
アキは嫌っ…と小さな声を出し、必死に俺の手を払いのけた。


「その仕草、本当は判ってるはずでしょ?」
 「本当に意地悪ですね!」

「アキが自分に素直じゃないだけじゃない?」
 「…でも、そうかも、知れないですね」


そう納得すると、助手席で俯いてしまった。

近くのホテルに滑り込み、アキの手を繋いで中へ入る。
本気で恥ずかしそうなアキは、それでも握り返してくる。


負けず嫌いなのか。
照れ隠しなのか。


部屋を選び、到着する。

エレベーターに乗り、目指す部屋に入った途端。


俺は狙っていた。

アキを壁に押し付け、唇を奪った。
そして奪い続けた。

アキの薄めの唇に、俺の舌を割り入れる。
当惑が隠せないアキの舌に絡ませ、吸い込む。

彷徨うアキの両手を俺の掌で掴み、指を絡ませる。
動けなくなった彼女は、俺を受け入れ続けた。

甘いスイーツを、早速俺から戴いた格好だ。


アキからは声を殺しながらも、吐息が、溜息が漏れ続ける。
時折抵抗を試みるが、甘い毒が全身に回ってきたのか、力が入らない。


「声、出せよ」
 「・・・い、いやっ、駄目なの…」

「じゃ、こうするから」


俺は服の上からアキの胸を手で押し当て、弄る。
アキは今までの話し声とは明らかに違う、女の声を漏らしてしまう。


 「はぅぅうぅっ、あぁうぅん、いぃやぁぁっ」
「かわいい声だね…」

 「が、我慢できないぃ…」
「その声がたまらないよ」


アキは俺に甘えるようにしがみ付く。
途端に今までのアキとは思えない、高く甘い声が俺の耳を擽る。


アキは何か、自分の性を押し隠している。
押し隠すために、男っぽく気取ってる。

あえて低く押し殺すような声。
ボーイッシュな立ち振る舞い。

しかし、身体は女の滴りを隠せない。

押し隠すため…いや、
隠しきれていないのだ。

その間隙を突いていくと、隠していた女が弾けていく。
俺はアキに対して、悪い男になろうとしていた。



唇を解き放つ。
改めて柔らかく抱くと、安心したかのように俺に顔を埋める。


俺はアキを部屋の中へ連れ、ソファに座って語りかけた。


「すごくかわいい声じゃないか」
 「私、声が変わるでしょ?」

「そう、その声が堪らないよ」
 「昔から、この声に男が騙されるんだって言われました」


アキの感じる声は、高めにとても甘く切なく、艶やかなものだった。
また襲い来る悦楽の細波を我慢する仕草も、男の自制心を深奥から揺さぶる。


「女の子として、すごく可愛い部分じゃないか?」
 「友達にも言われたんです、だから(相手の)男が誤解するんだって」

「誤解、ねぇ」
 「相手の男はみんなその気になるって」

「そりゃ、こんな声出されちゃ男はみんな勃っちゃうよ」
 「いや、恥ずかしい…」


アキは幼少の頃から男の子と間違われる位、元気良かった。
そして、誰とでも友達になれる朗らかな社交家。

元気の良さから、女の子の遊びには合わなかった。

ままごとよりも鬼ごっこ、ピアノやダンスよりもサッカー。

いつも大勢の男子に混じって一緒に遊び、まだ学校で学んだ。
それが彼女の原体験である。



思春期。

初めて男子から恋の告白。
生来の照れ屋が生む動揺。

時を重ねて、迎えた初潮。
男女を自覚させる分水嶺。

友達が、友達で無くなる。
男として私の女を求める。

アキにとって衝撃だった。


 「ショックだった…自分が女になることが」


今までと同じように接して欲しい。
男だから、女だからじゃなくて、友達でしょ?

その想いは、もう今までの男子には届かない。
アキを恋愛対象として、そして性の対象として見る。
関係の変化を嫌って告白を断ると、相手は去っていく。


今までと一緒でいいじゃない?
今までと一緒じゃいけないの?

彼女にとって、寂しくてたまらなかった。


男と女の間には、友情は成立しない。
そして、自らが求めるものと違う「女」という性。


またその「女」としての最大の凶器がアキの「声」だった。


元々は女の子らしい、高く細い声だったアキ。

まだ子供の頃、男子に悪戯で擽られる。
中学生になり、初めて男子に抱きしめられる。
そして初体験、生身の肌に相手の指が触れる。


 「私、無意識にすごい声が出ちゃうんです」


聞き様によっては淫乱な響きを帯びた、その声が漏れる。
彼女にとって意思とは関係なく出る声だ。

それを面白がって、また誤解して突き進んでくる相手の男。
いつしか普段からの声を低く抑え、誤解を生まないようにと心がける。


女である事を身をもって痛烈に知った彼女は、いつしか女という性への否定に昇華する。


髪を短く刈る。
話し声を低く、話し方もぶっきらぼうに。
服装も女を打ち消すものを。

今日のアキの格好も、その意識を反映させていた。



「でもさ、どうしてテレアポなんて始めたの?女を売りにする仕事なのに」
 「試したかったんです。自分が女として通用しないって事を」

「残念だったね」
 「どうして?」

「俺は女としかホテルに来ないし、kissしない。抱かない。」
 「…えっ、それって…?」

「こういうことさ」


アキの姿も俺から見れば、狼の着ぐるみを纏っただけの小さな子羊。
全く女を打ち消すための努力も気にならない。


俺はアキをソファの背もたれに押し付けた。











<次号が最終回です>


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