朝から年賀状に使う写真を撮影する。毎年、スプーツ新聞風に一家の近況報告を綴っていて、ダンナにダメ出しされながら文案を練る過程で、必ず喧嘩になる。ようやく文章が仕上がると、そのネタに合わせた写真を撮り、広告会社時代の同僚だったE君に合成してもらうのだけど、撮影もてんやわんや。昨年までと違うのは、娘のたまに被写体としての自覚がしっかり芽生えていること。「いたずらっぽい顔して」と指示すると、それなりに顔を作ってくれる。デジカメまで駆け寄り、モニターチェックして、「もう一回」とカメラの前に立つ女優魂。それに引き換え、大人はなかなか狙い通りの表情ができない。「娘のいたずらに手を焼く親」という設定なのだけど、ほどよい「困った顔」というのが難しく、わたしの顔なんかは「本気で怒った顔」に見えてしまう。少しやさしさを取り込もうとすると、締切に追われているせいもあってヤツレが目立ち、「育児疲れか?」と正月早々余計な心配をかきたててしまいそうだ。何枚撮ってもうまくいかないので、E君に「上からいじって」とお願いすることにする。
来年の年賀状のネタにもなっている、たまのいたずらは日に日にレベルが高くなり、手先の器用さと知恵の発達に比例するんだなあと実感している。食事も遊びタイムで、食べものも食器も親の食事も無傷ではいられない。ひさしぶりの子守話は、スプーンとフォークの話。かわいい顔がついたスプーンとフォークはたまのお気に入りなのだけど、顔がついているがゆえに感情が宿ってしまうようで、しばしば食事が中断して人形劇が始まってしまう。
子守話25 スプーンさんとフォークくん
スプーンさんとフォークくんは いつもいっしょでした。スプーンさんがひだり。フォークくんがみぎ。なかよくテーブルにならんでいました。おでかけのときには ふたりいっしょに おてふきタオルにくるまって こうえんやレストランに でかけました。スプーンさんがスープやごはんをすくい フォークくんがやさいやさかなやにくをつきさし ちからをあわせて しょくじをはこびました。しょくじがおわると ふたりいっしょに ひきだしのベッドにかえりました。そして あしたもがんばろうねと はなすのでした。
スプーンさんもフォークくんも じぶんたちのしごとがきにいっていました。おいしいしょくじの においをかぎながら はたらくのも しょくじをはこんだときの えがおをみるのも いいきぶんでした。なにより スプーンさんはフォークくんと フォークくんはスプーンさんといっしょにいるのが たのしいのでした。
ところがあるひ スプーンさんとフォークさんが けんかをしました。「フォークくんは なまけものだ」とスプーンさんが おこりだしたのです。そのひの ごはんは カレーライスで フォークくんのでばんは ありませんでした。スプーンさんが あせをかきかき あつあつのカレーライスをはこぶのを フォークくんは のんびり ぼんやり みているだけでした。はたらきつかれたスプーンさんは つい もんくをいってしまったのです。
「ぼくのほうが はたらいているときだって あるよ」とフォークくんがいいかえしました。スパゲッティのときは フォークくんだけがはたらいて スプーンさんはおやすみです。「あれはくるくるとめがまわるし とってもつかれるんだ」。スプーンさんとフォークくんは これまでがまんしていたもんくを いいあいました。そして せなかをむけて くちをきかなくなりました。
つぎのひ スプーンさんとフォークくんは うまれてはじめて べつべつになりました。スプーンさんが ひとりでむかったテーブルには スパゲッティが まっていました。フォークくんが ひとりでむかったテーブルには スープが まっていました。スプーンさんは くるくるとまわりながら スパゲッティをまきつけようとしましたが スパゲッティは つるつるのおなかをすべっていくだけでした。「フォークくんは すごいな」とスプーンさんはおもいました。めがまわって ふらふらになるたいへんさも よくわかりました。フォークくんは あついスープになんどもとびこみましたが スープのしずくは 2ほんのすきまから こぼれおちてしまいました。「スプーンさんは すごいな」とフォークくんはおもいました。やけどしそうな スープのあつさも よくわかりました。
スプーンさんとフォークくんは またいっしょに はたらくようになりました。あさごはんも ひるごはんも ばんごはんも どこにいくときも いっしょでした。けんかするまえよりも ふたりは ずっとずっと なかよしになりました。 |
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