第1回に続いて審査員を務めたNHK奈良主催の脚本コンクール「第2回万葉ラブストーリー」募集。審査会で大賞1作品佳作2作品を選んだ6月12日からわずか3か月の間にホン直し、撮影、編集が進められ、活字だった3つの受賞作は、それぞれ10分あまりのオムニバス3作品となった。その「ドラマ万葉ラブストーリー夏」の完成を記念した「第2回万葉LOVERSのつどい」が今日開催された。会場は奈良女子大学記念館。明治時代に建てられたという美しいたたずまいの洋館は、国の重要無形文化財だとか。講堂の高い天井に施された装飾や、舞台正面の壁に配された謎の扉に、胸が高鳴る。 今回の受賞者も全員女性。そのうちの一人、『人込みさがし』で佳作を受賞した宮埜美智さんは、昨年『フルムーン ハネムーン』で受賞した藤井香織さんの友人で、わたしの一日シナリオ講座を一緒に聴きに来てくれたことがあった。審査の段階では作者名は伏せられているので、受賞が決まった後に知ったのだけど、うれしい偶然。大賞作品『誰そ彼からの手紙』を書いた高橋幹子さんは、今年のフジテレビヤングシナリオ大賞も受賞。立て続けにコンクールの最高賞を射止めるのは、才能に加えて運も強力な証拠。受け答えからも自信と意欲が伝わってきて、たのもしい。『つらつら椿』(ドラマ化にあたって『花守り』と改題)で佳作を受賞した縞古都美さんは受賞をしみじみと感激している様子。わたしもコンクールがきっかけで脚本家デビューをしたので、自分が経験した授賞式を振り返りながら、今日の感動が書き続ける力となりますようにと願った。 開演直前に、司会の中村宏アナウンサーと杉本奈都子キャスター、審査員で万葉学者の上野誠先生と第一部のトークショーの打ち合わせ。前回はドラマに登場する万葉集の歌3首を紹介しつつ展開したのだけど、ネタバレになる恐れもあるので、今回は路線変更することに。上野先生が「万葉集の巻七の冒頭にこういう歌があるんですが……」と手書きのメモをテーブルに出した。 天の海に 雲の波たち 月の舟 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ 「この歌からどんな場面が思い浮かぶかについて話すのはどうでしょう」と上野先生。作者は詠み人知らず。誰が誰に向かってどんな場面で詠んだ歌か思いを馳せるところから脚本作りは始まる。「まさにそういうことができたらと思ってました」とわたし。2回審査をやってみて、「ストーリーに万葉集の歌を盛り込むのではなく、万葉集の歌を原作にしてストーリーを膨らませる」ことが万葉ラブストーリーの必勝法だと確信したところ。その作業のさわりをトークで披露できたら面白い。 ホワイトボードもなく、パワーポイント上映もできないというので、上野先生が読み上げる歌を復唱して頭に入れつつ、一人ブレスト開始。月夜の海に小舟を浮かべて語り合う若い男女がすぐに思い浮かぶけれど、脚本家としては、中村アナや杉本キャスターが思いつかないような変化球を投げてみたい。開演の挨拶を舞台袖で聞きながら思いをめぐらせ、ふと「宝探しの暗号みたい」と思った。「謎解き」というヒントを得て、言葉遊びのスイッチが入り、歌をあらためて眺めると、もうひとつ発見。「できた!」とストーリーが見えた瞬間、名前を呼ばれて壇上へ。 即興脚本作りに入る前に、まず、上野先生が大きなハートを縫い付けたわたしのワンピースを話題に上げた。万葉「ラブ」にちなんでハート服を選んだのだけど、「近くで見ると、すごく縫い方が荒いんですよ」と上野先生。会場の笑いを誘ったところで、「この服を作ったデザイナーはこんな目に遭うとは想像してなかったと思うんですけど、万葉集の作者たちも自分の作品がドラマにされるなんて思ってなかったでしょうね」とわたしが引き取った。リード上手な上野先生との掛け合いは、気持ちよく話がつながる。 「今日は皆さんに脚本が生まれる瞬間に立ち会っていただこうと思うんです」と上野先生が切り出し、「天の海」の歌を読み上げ、「天が海なら雲は波 雲が波なら月は舟 その舟が漕ぎ出すのが星の林に隠れて見える」といった意味を解説。「これを詠んだのは男だと思いますか? 女だと思いますか?」と中村アナ、杉本キャスター、わたし、ついで会場の皆さんに質問。男派と女派がほぼ半々。続いて、中村アナと杉本キャスターに「この歌の場面を即興で演じてください」と上野先生。星空を見上げるカップルをたじたじと照れながら演じはじめたお二人、決め台詞が出ず、会話が終わらない。「その舟に乗せて私をどこへ連れて行ってくれるの?」と上野先生が助け舟。 「では、プロの今井さんならどんなドラマを考えますか」と上野先生に振られ、わたしが披露したのはこんな話。 つきあって10年になるのになかなかプロポーズが聞けない美穂子ちゃん(愛称ホコちゃん)が彼氏の阿久津君に宝探しの歌を贈った。この歌の中に宝のありかが……だけどなかなかわかってくれない阿久津君。じれったくなったホコちゃん、「頭の5文字をつなげてみて!」。答えは「アクツホコ」。ホコちゃんがアクツ君のお嫁さんになるのが宝だってこと。さらに「アクツホコ」を並べ替えると、「アホコツク(アホ小突く)」。鈍感な阿久津君にかわいく肘鉄食らわせたホコちゃんに阿久津君はついにプロポーズしてハッピーエンド。 「プロポーズの舟が星に隠れて見えない」というじれったさが歌に込められていたことを言い忘れたけれど、会場からは拍手を頂戴できたので、ほっとひと安心。ちなみにひらがなで書き起こすと、 あめのうみに くものなみたち つきのふね ほしのはやしに こぎかくるみゆ 打ち上げの席で放送部長の武中千里氏に「在原業平の『かきつばた』の折り句の逆の発想ですね」と指摘されて、それを言い添えておけば教養がにじんだものをと悔しがる。「猫又」という短歌の会で以前「くりひろいを折り句にして一首」というお題があったのに、折り句という言葉もかきつばたもすっかり忘れていた。何気ない会話にさりげなく古典を忍ばせられるような大人になりたい。 第二部は授賞式。上野先生は「景」(景色)と「情」(情感)が描かれていることが選出基準であると話し、井筒和幸監督は大賞の「誰そ彼からの手紙」を絶賛。わたしは脚本作りを料理にたとえ、「このコンクールは万葉集と奈良を使うことと材料が指定されているけれど、万葉集は何千とあり、奈良の見所も何千とある。そのどれとどれを選んで組み合わせ、ストーリーを膨らませるか、そこが料理人の腕の見せどころ」と話した。 その受賞脚本にたくさんの人の手で命が吹き込まれ、さらに重厚な味わいに仕上がっているはず。というわけで、第三部はわたしも初めて観る「ドラマ万葉ラブストーリー夏」の披露上映。昨年以上に見ごたえのある3作品に惹きつけられた。自分の脚本が作品が映像になると、「ここは、こうなったのか」と答え合わせをしながら観てしまう。思った通りのこともあれば、予想を裏切られても期待を上回ることもあり、あれっとなる場合もあるけれど、間違いなく言えるのは、夏の奈良の名演は脚本に描かれている以上だったのではということ。前回の秋の奈良も素晴らしかったけれど、夏には夏の輝きがあり、すでに募集が始まった第3回(>>>募集要項)の春編にも早くも期待が高まる。ぜひ第4回募集で冬編まで作って、万葉ラブの四季を完成させてほしい。 披露上映後、『人込みさがし』に中村太郎役で出演した真鍋拓さん、『花守り』に桜井るり役で出演した中園彩香さんとともに受賞者3名が登壇。ドラマの感想を語り、真鍋さんが劇中でも披露した笙の音色を聞かせてくれた。今回の役のために特訓されたそう。『人込みさがし』を書いた宮埜さんは、ドラマの感激に加え、サプライズで来場したダンナさんのお父さんが涙ぐんでいるのが壇上から見えて、涙、涙。脚本コンクールは数あれど、授賞式と完成披露が一度に行われるものは珍しい。受賞者が一日に味わえる幸福度でいえば、万葉ラブは最強かもしれない。 つどい終了後はお時間の許す方に残っていただき、「ふれあいミーティング」という名の意見交換会。今日の感想をうかがったり、質問を受けつけたり。次々と手が挙がり、前回以上に活発なやりとりとなった。大学時代に応援団の写真をよく撮ってくれた小山氏もわたしのサイトでイベントを知ってサプライズで登場。「三人の受賞者の方、なぜそれぞれの歌を選ばれましたか」といい質問を投げてくださった。ミーティング後も話しかけてくださる方あり、サインを求めてくださる方あり。「子ぎつねへレンのファンです」という男性、「去年も参加しました」という男性、「次回応募したく東京から参加しました」という女性、「奈良に住んでいて、紹介したいところはたくさんあるんですけど、脚本の書き方がわからなくて」という女性三人組。「来年も来ます!」の声がたくさん聞けて、万葉LOVERSの輪が着実に広がっている手ごたえを感じた。 わたしに審査員を依頼してくれた大学時代の同級生、高田雅司くんは夏に千葉放送局に異動したけれど、イベントのために戻ってきてくれた。前回の受賞者の藤井香織さんは東京から、西村有加さんは名古屋から(お土産に名古屋グルメをいただく。あんこ味マーブルチョコ、ヨコイのソース、チョコ×海老せんべい)駆けつけ、ちょっとした同窓会気分。帰りたくなるイベントって、なんだかいいなあ。奈良放送局へ移動し、ミニ打ち上げ。「6時45分のニュースでやるよ」とテレビをつけ、見守るが、なかなか出てこないうちに天気予報。「この後にもまだ枠があります」と中村アナ。しかし、天気予報の後は相撲のニュース。「落ちたか」と秋山局長。「いえ、あと1分あります」と中村アナ。最後にすべりこみで映った瞬間、大きな歓声。今年も成功でしたね、来年もよろしく、と気持ちよくしめくくる。 ドラマ「万葉ラブストーリー夏」は早くも放送が決定。昨年は奈良ローカル放送に始まり、関西地区での放送を経て全国放送まで4か月かかったけれど、今年は一か月以内のスピードで達成。ドラマとして楽しむもよし、第3回応募の傾向と対策を練るもよし。奈良放送局のブログで読める「万葉サブストーリー」とあわせてどうぞ。◆9月19日(金)20:00-20:43(総合テレビ 関西のみ放送)◆10月12日(日)15:05-15:48(総合テレビ 全国放送) 2002年09月15日(日) パコダテ人P面日記 宮崎映画祭1日目
2002年09月15日(日) パコダテ人P面日記 宮崎映画祭1日目
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