2007年09月04日(火)  愛すべき映画『Little DJ〜小さな恋の物語』

映画『シムソンズ』を観たとき、同じ時期に『子ぎつねヘレン』が公開されていて、どちらも知床が舞台だったこともあり、親しみを覚えると共に「こっちの知床映画も好き」と惹きつけられる魅力を覚えた。カーリングに青春を懸ける高校生ヒロインたちの成長をみずみずしく丁寧に描いた作品。新宿のレイトショーで見終えた後にさざなみのような拍手が起こったのだが、いい映画をありがとうと呟きたくなるような心地よい幸福感が残った。

今日試写を観た『Little DJ 小さな恋の物語』にも同じような後味を感じた。この両作品にプロデューサーとして関わっているのが森谷雄さん。一昨年の夏、出産を2か月後に控えた大きなおなかのときに一度お会いしたのだが、その森谷さんを紹介してくださったのが、映画の原作を書いた鬼塚忠さんだった。鬼塚さんは「作家エージェント」を行うアップルシードエージェンシーという会社の社長さんで、ドラマになった『海峡を渡るバイオリン』や『シムソンズ』の原作を仕掛けてきた。そんななかの一冊を映画化する話が持ち上がり、わたしが脚本家として関わったことから知り合うことになった。企画は宙ぶらりんな形になっているのだけれど、ときどき脚本を読んで興味を示してくださる方がいて、「これを書いた今井さんてどんな人?」と鬼塚さんに聞いた森谷さんとわたしをつなぐ機会を鬼塚さんが用意してくださったのだった。

そのとき「9月にこういうの撮るんですよ」と教えられたのが、「海辺の病院で院内DJをする男の子の話」だった。鬼塚さんが聞いたエピソードをもとに、鬼塚さんが小説を書き、森谷さんが映画の体制を整え、幹が枝分かれするように同時進行で物語を膨らませ、大きな木に育てているという。「その話、ぜひ読ませてください」とお願いし、ゲラを送っていただいた。読んですぐに映画を観てみたいと思ったのだけど、今日の試写を見たら今度はまた原作
(3月に刊行され、すでに15万部突破とのこと)を読みたくなった。二枚のメモから始まったというこの企画の幹がしっかりと根を下ろし、見事な枝ぶりに成長し、たくさんの実をつけ、誘いかけるようないいにおいを放ちはじめた、そんな印象を持った。

知っている人が関わっていて、大好きなラジオがモチーフとなっている他にも愛すべき理由がたくさんある。『パコダテ人』で映画脚本デビューしたわたしは、映画の舞台が函館ということにも好感を持ったのだけど、函館の街は1977年という物語の時間が良く似合っていた。ロケーションに加えてキャスティングも魅力的。太郎(神木隆之介)とたまき(福田麻由子)のあどけないカップルは初恋のぎこちなさや照れくささをとてもチャーミングに見せてくれて、応援せずにはいられない。たまきが鼻の上に皺を寄せて笑う(わが娘・たまもときどきそういう顔をする)のが何とも愛らしくて、その笑顔を見るだけで幸せになってしまった時点で、主人公・太郎と気持ちを共有しているのだった。衣装や美術もわたし好みで、死の影がちらつく長期入院という暗くなりがちな設定でありながら、ポップな遊び心がちりばめられているところに救われた。

台詞も演出もお涙頂戴に走りすぎず(とはいえわたしのいた列は全員涙、涙。嗚咽で座席が揺れていた)、一人ひとりの微妙な心の動きを丁寧に描いているところに好感。三浦有為子さんとともに脚本も手がけている永田琴監督のセンスの良さなのだろうか。そして、70年代のラジオを彩ったヒットナンバーの数々。その選曲と使いどころも心憎く、ぴたりとはまった歌詞が場面をいっそう印象深いものにしてくれた。劇中歌を邪魔することなく感情の波をうまくすくって持ち上げてくれる音楽は、『三丁目の夕日』の佐藤直紀さん。「想いを伝える」大切さがじんじん伝わってきて、観たら誰かに伝えたくなってしまうLittle DJ。シネスイッチ銀座、シネ・リーブル池袋。渋谷シネ・アミューズ、シネマート新宿ほかで12月公開予定。

2004年09月04日(土)  文京ふるさと歴史館
2002年09月04日(水)  暑い日の鍋

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