2月の第1弾から毎回感心して観てきたMCR LABOの第4弾「愛憎」を観る。最終回の今回は、これまで通り短いエピソードがたたみかけられる形だけれど、最初から最後までがひとつのストーリーとしてつながっている。おぐらあずきさん(小椋あずきという名の女優さんが演じている)という冴えないOLの42歳の誕生日を10歳年下のけっこうかっこいい彼氏が祝うところから物語は始まる。ダイエット中のあずきさんのために小さなケーキに42本のロウソクを無理やり立て、「竹林」とおどける彼氏。こういう細かい笑いがMCR LABOのお楽しみ。大好きな彼氏と二人きりのバースデー、あずきさんはうれしいはずなんだけど、素直になれない。相手に言われたくないことを先回りして口走ったり、相手に言ってほしいことを誘導しようとしてまわりくどい物言いになったり、自分でも「こういうこと言いたいんじゃないんだけど」と違和感を抱えながらもどんどんめんどくさい女になっていく。この過程が、わたしがめんどくさい女になっていくときに実によく似ていて、小柄なくせにリアクションが大きなあずきさんの姿は鏡を見るようであり、自分のお恥ずかしい姿を舞台上で再現されているようで身につまされた。作・演出のドリルさんの書く状況や台詞は本当にリアルで、ああ言われたらこう言うというかけあいが絶妙で、登場人物側にぐいぐい観客を引っ張りこんでしまう。
いいヤツだけど優柔不断なあずきさんの彼氏も、二人きりの誕生日に乱入して「泊めてくれ」と無理を言う彼氏の友人も、その友人がナンパしてきた自称不幸女も、あずきさんが働く旅行会社の人望ない自己陶酔部長も、互いをリストラ要員候補に推薦しあう仕事できない同僚たちも、あずきさんが旅行を売りつける目的で入会してしまった怪しい団体(「表ざたにするまでもない被害者の会」とかいう名前)のメンバーも、みんなダメな部分を抱えている。ダサかったりズルかったりズレてたり卑屈だったり見栄張ったり嘘つきだったり。「悪」と斬り捨てられるようなはっきりしたものではなく、白になりきれず黒が混じって濁っているような、誰にでもある汚点のようなシミのようなもの。きれいごとの映画やドラマは見て見ない振りをする(ドラマチックな盛り上がりを期待する場合にも無視される)微妙なところに光を当てて、笑わせたり考えさせたりする難しいワザをちゃんとやってのけていて、ドリルさん、やっぱりすごい。
プロデューサーの赤沼かがみさんに「面白い表現がたくさんあって、今回も感心しました」と伝えたら、「言葉を駆使してますよね」。駆使、という漢字二文字を思い浮かべて、ほんと、言葉が駆けていた、と思った。赤沼さんに教えていただいて知ったMCRという劇団、これからも目が離せない。10月3〜17日、今年最初で最後の本公演(『慈善 MUST BE DIE』『マシュマロホイップパンクロック』の2本立て)を中野ザ・ポケットで上演とのこと。
◆2007年5月19日 MCR LABO #3「審判」@shinjukumura LIVE
◆2007年3月21日 MCR LABO #2「愛情」@下北沢駅前劇場
◆2007年2月12日 MCR LABO #1「運命」@shinjukumura LIVE
2004年07月15日(木) 見守る映画『少女ヘジャル』
2002年07月15日(月) パコダテ語
2000年07月15日(土) 10年後に掘り出したスケジュール帳より(2010/11/29)