2005年10月11日(火)  ユーロスペースで映画ハシゴ

先週の金曜に続いて、渋谷ユーロスペースへ。前回は、都内ではここでしかやっていない『いつか読書する日』と『運命じゃない人』の最終日ということで滑りこんだのだが、こじんまりとしたスペースと座り心地のいい座席のおかげでハシゴが苦にならず、今回も気になる二作品『空中庭園』『サヨナラCOLOR』をハシゴすることに。

脚本を読んだときから、言いようもなく惚れ込んでしまった『いつか読書する日』。こういう良質だけれど地味な作品はひっそりと上映して、いつの間にか終わってしまうんだろうなと予想していたら、7月公開から3か月のロングラン。この作品のどこがすばらしいか、どこが好きか、うまく言葉に出来ないのがもどかしいが、登場人物の誰もが、ささやかな人生をけなげに生きている感じが愛おしい。早朝の吐く息も、坂を駆け上る鞄の中で揺れる牛乳瓶も、日々の営みの大切な一部だという感覚。50才になったとき、もう一度見てみたい。


脚本を読んで唸り、観た人から面白いと言われ、劇場で確かめなくてはと乗り込んだ『運命じゃない人』。恋人に逃げられたばかりのある平凡な男のある夜の出来事を、視点を変えて描いていく。視点が変わるたびに新事実が明らかになり、面白さが加速していく点が、海外の映画祭でも高く評価されたのだろう。詐欺や盗みを働く登場人物のずるさが憎めず、むしろどんどんかわいく思える。そして、何の面白みもない男に見えていた主人公に、だんだん肩入れしたくなってくる。え、これで終わり?と肩透かしを食らったら、流れかけたクレジットが巻き戻されて本物の結末が用意されているラストまで、とことん楽しませてもらった。

視点を変えて描くといえば、角田光代さんの小説『空中庭園』もそう。「秘密を作らない」のがルールの一家それぞれの言葉で語られる、家族。恋は妄想というけれど、家族の幸せだって強烈な思い込みの上に成り立っている絵空事なのかもしれないと思わせる危うさ、怖さ。原作の行間に渦巻く行き場のない感情が映像の中で集約され、時限爆弾となって映画の時間を転がっていく。団欒のテーブルの下で起こっていること、無邪気な子どもの笑顔の裏側にあるもの、嘘に上塗りされた過去……内側に爆弾を抱えた理想の家庭がいつ爆発し、崩壊するのか、息を詰めて観て、結末に安堵の息をついた。一生自分につきまとう「家族」という不思議な集団を信じたい、たとえ思い込みと紙一重でも。タイトルを連想させるダイニングのランプシェード、「胎内」をイメージしたというラブホテルの内装など、美術にも物語を感じた。

『さよならCOLOR』は、シナリオを読んだ印象より、映像になったほうがずっと良かった。同級生であり担当医と患者という竹中直人×原田知世のキャスティングが魅力的。一方的に片思いをしていたマドンナと病室での再会。しかも彼女は癌に冒されている。内容はチョコレートが溶けそうに甘い。それを若いだけの十代二十代ではなく、仕事やしがらみを背負った三十代半ばの男女が繰り広げるから、甘さに苦さが混じって味に奥行きが出る。「愛することは長い夜に灯された美しい一条のランプの光だ」。揺らめくランプの炎は命の火にも思えて、この台詞が心に残った。

2003年10月11日(土)  わたしを刺激してください

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