視点を変えて描くといえば、角田光代さんの小説『
空中庭園』もそう。「秘密を作らない」のがルールの一家それぞれの言葉で語られる、家族。恋は妄想というけれど、家族の幸せだって強烈な思い込みの上に成り立っている絵空事なのかもしれないと思わせる危うさ、怖さ。原作の行間に渦巻く行き場のない感情が映像の中で集約され、時限爆弾となって映画の時間を転がっていく。団欒のテーブルの下で起こっていること、無邪気な子どもの笑顔の裏側にあるもの、嘘に上塗りされた過去……内側に爆弾を抱えた理想の家庭がいつ爆発し、崩壊するのか、息を詰めて観て、結末に安堵の息をついた。一生自分につきまとう「家族」という不思議な集団を信じたい、たとえ思い込みと紙一重でも。タイトルを連想させるダイニングのランプシェード、「胎内」をイメージしたというラブホテルの内装など、美術にも物語を感じた。