■『パコダテ人』を魔法のような手腕で実現させたビデオプランニングの三木和史社長(でいいのかな)が製作・プロデュースする映画『村の写真集』(三原光尋監督)の最終試写に駆け込む。この作品、ラインプロデューサーに石田和義さん、ヘアメイクに小沼みどりさん、出演者に徳井優さん、木下ほうかさん、粟田麗さんとパコ度高し。しかも、『雪だるまの詩』主演、『彼女たちの獣医学入門』出演の斉藤歩さんも出演……という贔屓を抜きにしても、いい作品だった。故郷で写真館を営んでいたがしばらくカメラから遠ざかり、山仕事をしていた寡黙な父・高橋研一(藤竜也)。父に反発しつつ写真の道に進み、「東京で活躍する写真家」ということになっているが助手どまりの息子・孝(海東健)。そんな二人がダムで水底に沈むかもしれない故郷の風景と村人たちを納めた写真集を撮るために向き合うことに。言葉もなく距離を置いて山道を行く父と息子の姿は『山の郵便配達』の父子に重なる。一軒一軒訪ね歩いた先との小さなエピソードを積み重ね、父と子がぶつかりながらも心を通わせていく展開もまた、『山の郵便配達』を思い起こさせるが、この作品で印象的なのは「ありがとう」の言葉。頑固だが人情味のある研一は、写真を撮り終えるたびに「ありがとう」と頭を下げ、撮られた人たちも「ありがとう」となる。息子を戦争で亡くし、山の上で一人暮らしする山本のおばあちゃん(桜むつ子)は、手を合わせ、人やお天道様やあらゆるものに感謝を示す。その笑顔を見ているこちらもありがたい気持ちになる。そう、「ありがとう」という言葉がThank youより多謝よりありがたく聞こえるのは、この五文字の中に「こんなすばらしいことはなかなかない」という意味が込められているからではないか。でも、聞き慣れたありがとうの響きが流れてしまうのと同じように、日々のささやかな幸せをありがたく思うことも忘れがちになっている。たとえば、故郷がそこにあること。家族がそこにいること。歩けば見えてくるものがあること。淡々と、だけど、しみじみと忘れ物に気づかせてくれた映画に、ありがとう。この作品の撮影後、今年1月23日に83才で亡くなった桜むつ子さんの天真爛漫な笑顔にもありがとう。エンドロールに延々と百行近く映し出されるロケ地・徳島の皆さんの名前に、三木さんがパコダテ人で見せた「ありがとう」を思い出した。公開は、東京都写真美術館ホール(4月23日〜)、梅田OS劇場C.A.P(5月7日〜)、シネマスコーレ(陽春公開)、OS・シネフェニックス(5月7日〜)、広島宝塚(5月14日〜)、京都シネマ(6月)、高知東宝(初夏)、津大門シネマ・札幌シアターキノ・仙台フォーラム・新潟シネウインド(時期未定)。
2002年04月19日(金) 金一封ならぬ金1g