2005年01月16日(日)  サイレント映画『A Clever Dummy』『The Cheat』

■鉄道と映画を愛するご近所仲間のT氏より「日本人初のハリウッド映画スター、早川雪洲が出演する、90年前のフィルムを見ませんか?」のお誘いを受ける。ずいぶん前に「世界ふしぎ発見」で早川雪州を取り上げていたのを観て興味を持っていたこともあり、京橋のフィルムセンターへ。昔のサイレント映画をフィリップ・カーリ氏のピアノ伴奏つきで楽しむ「シネマの冒険 闇と音楽」企画での上映。「日本にも優秀なピアノ伴奏者が居ますが、海外の専門ピアニストを招いて伴奏させて映画を見る機会は滅多にございません。また、フィルムも、NFC所蔵フィルムだけではなく、海外のフィルム・アーカイヴから取り寄せた状態の良いものを使用し、映写速度も公開当時のものに合わせて上映するという贅沢なものです」というT氏の熱い言葉に期待も膨らむ。■雪洲出演作だけかと思ったら、まずは『機械人形(A Clever Dummy)』(27分)を上映。喜劇俳優Ben“やぶにらみ”Turpin(1874−1940)演じる使用人が自分そっくりの機械人形を見つけて巻き起こすドタバタ劇で、ノリはMr.ビーンに近い。パントマイム的な万国共通の笑いがちりばめられているうえ、ところどころに「にせ手紙」などと画面いっぱいに字幕が入るので、台詞がないのにわかりやすい。■引き続き、雪州の出世作『チート(The Cheat)』(59分)の上映。その前に「お断り」が入る。プログラムには「上映プリントは字幕でビルマ人役に修正した再上映版」とあるが、「ジョージ・イーストマンハウスによる新たな復元版を上映」すると言う。1915年上映のオリジナル版に近いものが観られるというわけで、これはうれしい。雪州演じるTori(日本語は「トリ」となっていたが、鳥居の焼印を押していたので、「トリイ」か?)の役どころは「金で心を買おうとする日本人」で、当時の日本では「こんな悪役で出るなんて国辱ものだ!」と大批判を受けたのだとか。作品の中の雪州は、確かに残忍な男を演じているのだが、何とも神秘的で美しくセクシー。彼の屋敷で仕えている下男たちもいい男ぞろい(全員が日本人かどうかは不明だが、出演者の中にジャック・ユタカ・アベ=阿部豊という名前がある)で、当時のアメリカにおける日本男児像はかなりいけてたのではと思う。太平洋戦争がなければ、第二第三の日本人ハリウッドスターが続き、「日本人ってカッコいい」がスタンダードになれたかもしれない。■物語では焼印が重要な役割を担っている。オープニングの人物紹介ではトリイが鳥居の焼印を押す。トリイの部屋を有閑夫人が訪れるシーンでは、焼印を押しながら、トリイが「(焼印は)自分の物という意味です」と語る(台詞は字幕)。慈善活動資金に手をつけてしまった夫人の補填を買って出たトリイは、夫の投資の成功で金が入った途端に態度が変わった夫人の裏切り(cheat)に怒り、夫人の肩に焼印を押す。そして、トリイを撃った夫人をかばった夫が裁判にかけられるのだが、法廷シーンでは夫人が「撃ったのは私です」と告白し、動機となった焼印跡を法廷でさらす。焼印=日本かどうかは疑問だが、トリイが焼印を押す日本間は日本風の家具や装飾品で占められ、障子窓を開けると日本庭園が広がる。トリイを「ビルマ人」に設定し直すのは無理があったのではないだろうか。■ピアノ伴奏のフィリップ・カーリ氏は、大柄でにこやかなおじさん。上映前と後に首をかしげるようにペコっと頭を下げて挨拶する姿が愛らしかった。あまりに内容と演奏がぴったり合っていて、生演奏なのを忘れてしまう。楽譜と画面を両方見ながら合わせているのだろうか。技術力はもちろん弾きっぱなしの集中力と体力も要求されるが、最後までタッチは乱れない。13歳から無声映画の伴奏をしている大ベテランの余裕を感じさせた。■アフターシアターは銀座一丁目の天龍(銀座2−6−1 中央宣興銀座ビル1F 03-3561-3543)へ。名物の餃子はエクレア並みに大きくてジューシー。他のメニューも味、ボリュームともに大満足。お酒も飲んで一人3000円でおつりが来た。

◆この日記を読んだT氏より指摘。
「焼印はもともとアメリカでは自分の牛に押したりするのに使われていた。それを女性の体に押すなどもってのほか。そんな野蛮男を日本人の雪州が演じたということで日本では国辱だと批判が上がった」「雪州がハリウッドでの活路を絶たれたのは戦争のせいというより恐慌の影響が大きい。少ない仕事を奪う勤勉な日本人への風当たりがきつくなり、雪州もいやがらせに遭ったりして日本に引き上げるに至った」とのこと。

2004年01月16日(金)  尽在不言中〜言葉にならない〜
2003年01月16日(木)  ど忘れの言い訳

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