2004年09月11日(土)  感動の涙が止まらない映画『虹をつかむステージ』

早稲田大学・大隈講堂にて『夢追いかけて』を観る。去年の9月に観てから、約一年。2度目ならではの発見もあり、「視力は失ったけれど、夢は見失わなかった」河合純一さんの生き方があらためて心に刻まれた。パラリンピックを一気に親しみのある距離に引き寄せてくれた河合さんの、アテネでの活躍を楽しみに見守りたい。

今回の上映は音声ガイドがついていて、台詞の合間に「浜名湖の赤い鳥居が見える」「純一に肩を差し出す」といったト書き調の状況説明が入る。昔、ラジオで紅白歌合戦を聞いたとき、こんな感じだった。目の不自由な人は音声のみで作品の全体像をつかむことができる。映像が見える人にとっては情報過多であり、ときには映像を説明が先回りしてしまうのだけど、新鮮な体験だった。あらかじめ音声ガイドをミックスさせているのかと思ったら、途中で「昇降口」が「乗降口」となって言い直し、あ、生なんだと気がついた。そこ以外は息継ぎも感じさせないほど流暢で、最後の「ありがとうございました」まで流れるように自然で、声のトーンといいリズムといい耳に心地よく響いた。

休憩時間の間に大学の回りをぐるっと散歩し、講堂のパネル展示を見る。白血病の女の子の描いた絵、骨髄ドナーと患者との間で交わされた手紙(ドナー側もまた「ありがとう」と書いていることが印象に残る)などに見入っていると、会場の方からリーフレットを差し出され、「こうすけ君の命の朝顔」のエピソードを知る。こうすけ君が白血病で亡くなった後、短い小学校生活の中で育てた朝顔が咲いた。その種を受け継いでいく運動があるということ。リーフレットに綴じられた種をわたしも植えてみようと思う。

「命のリレー」といったことを考えながら、本日上映のもう一本、『虹をつかむステージ』を観る。東京都の盲学校・ろう学校・養護学校の生徒たちが参加する総合文化祭「舞台芸術演劇祭」の東京芸術劇場での晴れ舞台をめざす東京都立青鳥養護学校高等部の「表現活動部」に密着したドキュメンタリー。虹・演劇・教育というキーワードに興味を持ったのだが、想像以上にすばらしい作品だった。生徒たちもすばらしいけど、顧問の渡部朱美先生がすばらしい。生徒を信じ、本気でぶつかり、力を引き出していく姿に、ただただ圧倒されて、涙が止まらなかった。

記録された事実には脚色はないが、上演したミュージカル『フレディ』は、有名な『葉っぱのフレディ』を渡部先生が脚色したもの。病床にある美大生の青年フレディが医師のすすめで葉っぱたちの絵を描き、彼らの生き様に自分の短い命を重ねる、という着眼点がすばらしい。葉っぱたちと交流する夢を見た美大生のフレディは、自分と同じ名前のフレディに出会う。「ずっとこのままでいたい」「死ぬ(散る)のが怖い」と揺れる葉っぱのフレディは、最後は「役割を果たした葉っぱは行かなくてはならない」という運命を受け入れ、楽しかったーと笑顔で散っていく。その一生を見届けた美大生のフレディもまた、死への恐怖をやすらぎに変えていく。ストーリーそのものも感動的なのだが、舞台を作り上げる過程を知ってから本番の上演を観ると、台詞の一つひとつに涙を誘われる。これが作り話じゃなくて事実なんだということが驚きであり、とても貴重なことに思えた。

わたしが高校の教育実習でいちばん燃えたのは、文化祭の劇の指導だったのだけど、指導者がどんなに熱くなっても、生徒自身が動かないことには舞台は成立しない。生徒一人一人にやる気を出させ、ひとつにまとめ上げるには、ものすごいパワーが要る。社会という大舞台に生徒たちが立つときのことを見据えた渡部先生は、泣いたりすねたり落ち込んだりする生徒たちに、ごまかしのない直球で叱咤激励する。歯切れはいいけれどあたたかい言葉で、「やればできる」「あなたはあなたのベストを尽くせばいい」というメッセージを送り続ける。甘やかしはしないが、生徒のやる気と個性を伸ばす努力は惜しまない。舞台に没頭した学生時代の経験を活かして演技指導に工夫を凝らし、自分のイメージする舞台に生徒たちの力を引き寄せていく。たとえば、「葉っぱが色づく季節」を体で覚えさせるため、紅葉の舞う公園に生徒たちを連れて行って練習させる。

なんて豊かな教え方なんだろう、特殊教育ではなく特別教育だと感心した。生徒たちは先生の求めるレベルの高さに愚痴をこぼしながらも「観客を感動させたい」という目標を持って食らいついていく。そして、これが同じ生徒なんだろうかと見違えるほど、彼らは役を自分のものにし、台詞や歌に魂をこめていく。「今生きている」と力強く歌い上げた生徒たちは、胸を張って社会にはばたいていく自信と勇気を手にしたと思う。『夢追いかけて』つながりで出会えたこの作品は、渡部先生から生徒への手紙で締めくくられるのだが、その書き出しが「見果てぬ夢を追いかけて」となっていたのも印象深かった。

2003年09月11日(木)  9.11に『戦場のピアニスト』を観る

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