今週は「水の金メダリスト」に縁があるようで、今日はパラリンピック金メダリストの水泳選手、河合純一さんに会う。生まれたときから少しずつ視力を失い、中学3年のときに失明。だが、希望の光までは失わなかった。「教師になる」「メダリストになる」という夢に向かってまっしぐら、本当にかなえてしまった。その人生を原作に、映画が生まれた。花堂純次監督の『夢追いかけて』。河合さんは本人役で出演されているが、中高時代を演じているのが『パコダテ人』で隼人役だった勝地涼君。わたしのサイトに勝地君のファンの方からの書き込みがあり、この作品を知った。河合さんの新聞記事はいくつか切り抜いていたので、これも何かの縁、と渋谷公会堂での上映を心待ちにしていた。
花堂監督からも「上映にいらっしゃるなら、ジュンピーと仲間たちを紹介します」と連絡をいただく。ジュンピーとは監督(純次)自身なのか、河合さん(純一)なのか。上映前の対面で、後者だとわかる。河合さんの第一印象は、「まあオシャレ」。水泳で鍛えた体を包むスーツのラインの美しいこと。グレーのシャツもビシッと着こなし、海外遠征のスポーツ選手のよう。爽やかな握手の後、「今井さんに」と本(澤井希代治著『夢をつなぐ』)を手渡す仕草もスマート。花堂監督もお会いするのは初めてだが、初めてという感じがしない親しみを感じた。
今夜の上映は日本点字図書館が主催で、音声ガイドつき。白杖や盲導犬を伴った人々が続々と客席を埋めていった。映画を観る醍醐味はまわりの観客との時間の共有だと思っているが、今回はとくにスクリーンに客席全体が引きつけられている感覚があった。息をのむ音、安堵のため息、くすくす笑い、すすり泣き……それらが波のように寄せては返した。
作品については、どこまでが事実でどこからが脚色なのかわからないが、河合さんの生き方そのものがドラマであり、駆け抜けてきた半生の様々なエピソードが溶け込んで、このストーリーになったのだろう。夢を持つことはすばらしいし、夢を実現させることはもっとすばらしい。そのためには本人の努力とまわりの協力が大切で、河合さんの場合は持ち前の負けん気とバイタリティ、家族や友人や教師の理解と励ましがあった。とくに作品では中学校時代と盲学校時代の恩師との絆が印象的だった。高校教師の父の姿や教育実習の記憶が重なった。河合さんの夢が失明によって萎むどころか膨らみ、花開いたのは、恩師の存在が大きかったのではないか。教師になる夢が膨らんだのも、身近に目標となる人がいたからかもしれない。
上映終了後、会場出口では河合さんと監督に声をかける人の列が連なった。「勇気づけられました」「ありがとう」「応援してます」……。白杖の男性に付き添った女性が「右が河合さん、左が監督さんですよ」と囁く。あたたかくて、やさしい光景だった。
近くのホテルのラウンジで感想などを語りあう。メンバーは、河合さん、監督、現在は早稲田大学の修士課程で学ぶ河合さんの地理学講師の男性、早稲田祭での上映の実行委員の学生さん3人、着物で駆けつけた監督の友人の女性、監督とは初対面という俳優の矢吹蓮さん、それにわたし。河合さんは美人を見分けられるのだそうで、「肩を貸してもらう相手を選んでいる」という講師氏の暴露話に爆笑。わたしの肩は必要とされなかったが……。よく話し、よく笑い、楽しい時間だった。サイトの書き込みからこんな風に輪が広がるなんて愉快だなあ、と思っていたら、まだおまけがあった。「来週堺市で上映するんですよ」と言われて調べてみたら、なんと会場は実家の最寄り駅の前。歩いても15分ほどの距離。これは両親に知らせねば、と実家に電話すると、「ああ、3日ほど前に申し込んだよ」。地元のコミュニティ紙に記事があったのだとか。「夢」は人もつないでしまう。
2002年09月18日(水) 月刊ドラマ