■『月刊シナリオ』に載せるシナリオは採録(完成フィルムから起こしたもの)ということで話が進んでいるのかと思っていたら、いざフィルム起こしが終わってから「え、決定稿じゃないの?」と言われてしまった。ちゃんと確認しておかなかったのがいけないのだが、最後に刷った台本から撮影ぎりぎりまでにいくつか変更があったものを「決定稿」として載せる、と監督もプロデューサーも考えていたようだ。前田監督はわたしの作業が無駄になってしまうのを気遣い、「採録を載せてもええけどなあ」と言ってくれたが、わたしは「どちらでもいいですよ」と答え、二人で「どっちを載せるのがいいか」と客観的に話し合う。採録は今後世に出る可能性がある(たとえば「前田哲作品シナリオ集」とか)が、決定稿が世に出るとしたら、月刊シナリオに載る今回しかチャンスがない。採録はかなりアドリブや演出が入っており、シナリオに再現すると、あまり面白さが伝わらない。完成版との違いを劇場で確かめてもらうのもいいんじゃないかということで、決定稿のほうを載せることにした。「字幕つくるときに採録は必要になるんで、やってもらったことは助かるんですけど、そういうヒマがあったら次の作品書いてくれたほうが……」と前田監督。でも、初めてやったフィルム起こしは、ずいぶん勉強になった。役者さんの言い回しで台詞が化けること。シーンの順番を入れ替えることによって生まれるテンポ。シナリオではどうってことないシーンをハッとした印象的な場面に変えてしまった監督の演出。シナリオとあわせて掲載されるコメントにも書いたが、オリジナルのシナリオからフィルムになる過程で、監督に「かわいい魔法」をかけられたというしかない。脚本家や映画監督を志す人は、コンクール受賞シナリオ『ぱこだて人』・決定稿『パコダテ人』・劇場公開作品『パコダテ人』を比べてみると、発見することがたくさんあると思う。