猫頭の毒読書日記
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__________ カタルシス katharsis[ギリシア]
本来ギリシア語で,祭儀,医術,音楽,哲学など諸分野に広く認められる〈純化〉を意味した語。 だがアリストテレスが《詩学》第 6 章で悲劇を定義し, 〈悲劇の機能は観客に憐憫 (れんびん) と恐怖とを引き起こして, この種の感情のカタルシスを達成することにある〉と明記して以来, この概念は悲劇論ばかりか芸術全般の考察における重要な概念となった。 もっともアリストテレスの用語の意味については,古来さまざまな解釈があり, 果てしない論争が続いてきた。 悲劇の倫理的効果としての感情の〈浄化〉とする説があり, また素材の事件を変形する創作上の〈純化〉とする少数意見さえも立てられたが, 今日では,感情の〈発散〉という生理的機能を重視する見解が有力である。 すなわち悲劇やある種の音楽が激しい感情を誘発するとき, 鬱積していたそれらの激情は放出されることになり, 心をその重圧から解放して軽快にするが, この作用をカタルシスとみなすのである。 演劇史上ではコルネイユ,レッシング,ゲーテが この概念にそれぞれ独自の解釈を加えており, そこに成立した演劇観を介してそれらの見解は いずれも今日に至るまでなんらかの影響を及ぼしている。 なお,本来のカタルシスは上記の激情にのみかかわるのであるが, 現実を理想化する芸術の営みに即して ,感情が美的に高揚し純化されることをもカタルシスの概念に託すならば, これはあらゆる芸術に妥当する事柄であろう。
細井 雄介
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