FILL-MIND [フィルマインド]心情記 

   
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2003年06月22日(日)  ■胡桃の家■

少し前に、一週間有給休暇をとって実家の片づけをした。
母の一回忌を先月終え、そろそろ本腰を入れて母のものを整理しなければならない時期でもあり、こればかりは放ったままではしておけない娘の役割なので、思いきって数年ぶりのまともな休暇をとった。

行き詰まっていた仕事づけの毎日からも、いい加減抜け出さなければ心がどうにかなりそうだったので、ちょうどいい機会だったと思う。

実家を大掛かりに掃除するのは、母が倒れた四年前と今回で二回目で、前の時は何かにつけ涙がこぼれて仕方なくて躊躇してばかりだったけれど、今回は感傷に浸り過ぎるでもなくこなせたのではないか。

てきぱきと、捨てる判断がつけられるようになったのは、リアルな記憶が遠のいたせいだろうか。それを寂しいと感じるよりも、やるべき仕事ができるようになった安堵のほうが大きかったことに、時は未来に向いているのだと思えた。熟す時期というものはそうやって、自然に訪れてくるのだろう。

片づけながら、林真理子著書の「胡桃の家」を思い出していた。
私は彼女の作品の中で、一番この短編集が好きだ。

実家は既に築二十年の分譲マンションで、物語りに出てくるような胡桃の油で黒光りする柱もなければ、歴代の骨董品があるような旧家でもない。

それでも一家族が積み重ねてきた歴史がそこには有り、父と母の若い頃のアルバムとか、年代ものの食器や道具などを発掘するにつけ、両親の作り上げてきた「家」を感じないではいられなかった。

母の人生は、この家で幸せだっただろうか?

箪笥に収まりきらないほどの着物や洋服の数々と、それらを着て嬉しそうに姪や甥の結婚式に夫婦で笑う写真を伺う限り、幸せだったと信じたい。

想いは継がれて行くものだという証しを「家」は物語っている。
手が真っ黒になりながら過ぎた数日間は、私の中にその意味を染み込ませた気がする。
「胡桃の家」で著者が描こうとした世界が、少しだけ理解できたのかもしれない。

一週間の休日は、自分にまともな精神を戻すに足りる時間だったのだと思いたい。





 
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