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[フィルクリエイティヴ]掌編創作物
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創作物:Lost in Logic(2)
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論点は、出会うきっかけが何故、そこに転がっていたのだろうか。という戯言。
臆千の人の渦の中で巡り会った運命。その一枚の落ち葉が肩に落ちるような突然さに人は戸惑う。その単純さに飽きれかえるくらいに歓喜する。
出会いは陽だまりであり、嵐であり、雹だ。熱く痛く激しく。
彼と出会えた日、記念日にできるほど不真面目ではなかったけれど、約束が欲しくなるほどナツミは堕ちぶれたわけだ。
堕ちると堕ちぶれる。
その差は大きな隔たりのようで、同じ巣窟の言葉の中にある。勝手に進んでしまう魂を疎ましく追いかけて恋に堕ちたと人は気づく。意思にそぐわない心たちは、奔放な世界へと堕ちぶれていく。
ほんの少し肩がふれあった瞬間に、出来事は始まった。たったそれくらいのことで、心の吹き溜まりは占領されていく。どんな暴風の中にいても必ずその到来は見過ごさせずに出くわさせる。狭い路地をすれ違った時に交わした接触。もしもその時同時に振り返らなかったら、ナツミと巧は結びつかなかっただろう。むしろ気になって引きつけあう力に引っ張られて、巧はナツミの方にかぶりを返したのだ。
「かねづか書店って。どこか知っていますか?」
巧の言葉は唐突でその場を繋ぎとめようと、思いつきで発せられているのだと思えた。あまりに謀のようで、ナツミはそのまま無視することもできたのだけれど、真直ぐな瞳を向けられた時、もう、判断は恋の指図のものだった。
「少し先を行った所の2つ目の方の路地よ。あなた方向を間違えてしまったんじゃない?」
「あぁ、そうか。ぐるぐるとこの辺を歩き回っていた」
「私もそっちの方向だから、どうぞ」
大通りから外れた、さびれた古本屋をわざわざ指名して探しにくるこの人に、胸騒ぎ以上に興味が湧いた。ナツミもまた、その場所をいたく気に入っていたから。
「心理学文献がよくあるとの情報を聞いて、行ってみたくなったんです」
「専門書の探し物ですか?勉強されている人なのかしら?」
「いや…」
一瞬巧の顔に曇りがよぎる。きっと初対面では踏み込めない線を超えてしまったのだろうと、察した。話しをそらしてしまおうと、返事など構わないという素振りで古本屋の外観などを語ってみせる。
「知り合いの人のね、好きな本の中にわりとそういう分野のものが多かったんです」
「古い知り合いだから、僕もいつか読みたいと思っていたので…」
「僕の専門では、心理などは縁遠い存在ですね」
当たり障りのない会話の間に、彼は律儀な返事を返して。察したカンは思い過ごしだったらしいと息を休めた。
けれど、ほんの一瞬の曇った表情の理由はそこからはみつけられなかった。
『かねづか書店』
曲がり角を曲がった時、年季のはいった看板は、ナツミたちの目前をはばかっていた。
* * *
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収納場所:2002年11月19日(火)